175話
帝国軍は凍り付く大地をどうにもすることが出来ないようで太陽は地平線の下へと沈み、いつの間に明るい月夜が大地を照らす。
月夜に照らされた凍り付く大地はキラキラと光が乱反射をして普段見れない光景であり、ここが戦場でなければこの風景を眺めながらゆっくりと食事でもしたいところだ。
夜になったためか帝国軍も前線から軍を引いたのか奥ではチラチラと松明を燃やしており、休憩しているらしくあまり大きな動きはなかったが、時間の間隔を空けて軽装の格好をした少数の帝国兵が夜襲のように攻めてくる。
夜襲とはいえ帝国兵が少数で仕掛けてくるため対応はそこまで難しくはなかったが王国兵士達や冒険者はゆっくりと寝ることも出来ない為、精神的には徐々に削られていく。
夜襲の対応で交互に休憩をしており、前半に休憩したコウは体力と魔力が回復したため、後半組としてイザベルと一緒に帝国軍の監視を行っていた。
勿論、夜襲程度なら問題はないし援軍が到着するまでぐらいなら戦うことができるだろう。
「そういえばあれだけ大規模な魔法を使ったのに回復が早いですね」
「あぁなんかダンジョンに行った時以来身体の調子が良いんだ」
前はもっと長めの休憩をしないと魔力は回復しなかったが、今となっては何故か普段よりも早く魔力が回復するようになった。
何故、普段よりも早く魔力が回復するようになったというとダンジョンに行った際に魔力残留という病に罹って治ったからである。
魔力残留という病は研究されていない為、罹ってから治ると魔力の循環が良くなったり回復が早くなったりと恩恵があることを誰も知らない。
そんな恩恵をコウは知らず知らずに享受していた為に魔力が早く回復していた。
「それにしても夜は長いな」
「そうですね。でもあと少し耐えれば私達にも勝機が見えます」
城壁から敵の動向を監視している中、イザベルと話していると月夜に照らされた銀髪がキラキラと光り、横顔は白い陶器で出来たような肌に土汚れが付いていたりするが、それでも綺麗なのは変わらない。
髪には銀色の装飾品として前にプレゼントした銀の十字架の髪飾りが添えられており、大事に使ってもらえてるのは何だか嬉しく思う。
「何か私の顔に付いてますか?」
「ん...?あぁ土汚れがついてる」
横顔を見られていたことに気づかれたので何だか見ていたことが照れくさくなり、誤魔化すように顔に付いていた汚れを指摘しながら収納の指輪の中から清潔で綺麗な布を渡す。
「コウさん~お腹すきましたぁ~」
「キュイィ~...」
戦場の中でほんの少し甘い空気が流れようとしたが、それをぶち壊すかのように他の場所で休憩していたライラとフェニはお腹を空かしたようでコウへとせがみにくる。
「わかったわかった。これでも食べとけ」
「ありがとうございます~」
「キュイキュイ~!」
ライラとフェニへ餌付けするように収納の指輪の中からいつも口にしている串焼きを数本渡し、再び帝国軍の監視をしていると城門の方向から警鐘が鳴り響いた。
帝国軍の夜襲だ。しかし夜襲といっても今回は様子がおかしい。
今回の夜襲は城門の方向から警鐘が常に鳴り響いており、周りの王国兵達の多くが急いで城門へ向かっている姿が見られた。
今まで夜襲にくるのは少数であって対応もこの様に大勢で向かうものではなかった。
城門方面を城壁から見ようとするも夜間のため暗く見ずらいので状況がわからない。
「何だか不味そうだな」
「みたいですね。向かいましょう」
休憩している者達を防衛としてその場に残し、コウ達も現在防衛している味方を引き連れながら城門へ向かうと上げられていたはずの跳ね橋がいつの間にか掛かかっており、城門が半分ほど開きかけていた。
そして外にいた帝国兵や冒険者達が雪崩込むように王都へ侵入してきている状況でかなりまずい。
というかいつの間にこんなにも大勢の冒険者や帝国兵がこちらの監視を掻い潜ってここまで来れたのだろうか?
又、跳ね橋はこちら側からしか下ろすことが出来ず、しかも城門も内側からしか開かないはずなのだ。
それらを実行するには王都内の者でしか出来ず"裏切り者"がいるということになる。
その裏切り者については敵を城内に引き入れることに成功したため、もうこの場から撤退していないだろう。
とりあえずは裏切り者を探している場合ではなく、現状をなんとかしないといけない。
「とりあえず加勢しないと...」
「む? 助かる...と思ったらコウ君じゃないか」
城門前で戦っている兵士達に混ざるように戦闘へ参加するとそこにいたのは騎士の格好をしたダグエルの姿があり、切り捨てた者の近くでロングソードに付着した血液を振りはらって腰元の鞘に戻している最中であった。
「あら?ダグエル様じゃないですか」
「おぉこれはイザベルのお嬢さんも応援感謝しますぞ」
「戦況はどうなってるんだ?」
「とりあえずは優勢だが厄介な者達がいるようである」
相手には一般兵士では敵わないような厄介な奴らがいるらしいので、そいつらを何とかできれば押し返せるとのことだ。
戦況の話をしていると何処からともなくコウ達やダグエルを狙うように矢が飛んでくるので各々は持っている武器を振るって矢を撃ち落とす。
撃ち落とした矢をよく見ると先端には紫色の液体が塗られているため、毒の可能性が高いだろうか。
「おいおい あの銀髪は捕えろって言われてんだろ」
「そうでしたっけ?」
「...馬鹿」
「酷いっす!」
そんな矢が飛んできた方向を見ると攻撃してきたであろうと思われる3人の男が物騒なことを話しながら暗がりから姿を現すのであった...。
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次話更新は5月10日に予定しております。




