174話
あの光の膜を出す大盾を何とかする案が頭の中で浮かび上がったきっかけは何故か大盾が時々光の膜を張れてなかったりしており、それについてコウは疑問を覚えていたからだ。
では何故、あの大盾は地面に置いてから光の膜を出したのか?何故、ズリズリと地面に置いてまで前進しようとするのか?光の膜が常時出せるのであれば普通に持って移動すれば今以上に進軍のペースは上がるはずなのだ。
魔法を撃ちながら観察していると適度に光の膜が上手く張られていない大盾は兵士の練度が足りないのか地面の凹凸によって大盾が浮く度にせっかく張られていた光の膜が剥がれていたりしていた。
つまりは大盾は地面に密着させて置かないと光の膜を張ることが出来ないのではないだろうか?という答えに達したのである。
どういう仕様なのかは分からないが安定した地面に置かさせなければいいだけであり、そうすれば光の膜は張られることはない筈である。
「水球!フェニも大盾が進む地面に向かって魔法を撃て!」
「キュイ!」
とりあえずは試してみないとわからないので進軍してくる大盾前方の地面を抉るように水球を複数放ち、地面を凸凹の状態にするとやはり大盾が出す光の膜が失われてしまいこちらの弓矢や投石物が通るようになった。
「やっぱりな!イザベル!多分だけどあの盾は地面にしっかり置いてないと光の膜が出せないみたいだ!」
大盾の仕様が理解したため、イザベルにその情報を伝えると他の冒険者達や隣で戦っている王国兵に伝わり、大盾が進む道を阻害するように狙いを地面に変えて凹凸のある地形へと変化させていく。
そのお陰で進軍していた帝国軍に安定せず大盾を置けないため、少し進むと光の膜が剥がれてしまい降り注ぐ弓矢、投石物が手痛い一撃となったのか大盾を構えている帝国兵が後退し、今度はしっかりとした地面の場所で再び光の膜を張られてしまう。
これで光の膜を張られながら進軍してくることは無くなったが逆にずっと光の膜を張られた状態では打つ手なしであるため、これ以上無駄に弓矢や投石物を消費できなくなった。
とはいえ今度は帝国軍から弓矢や投石物、魔法が飛来してくるため逆に防がなければいけない状況に陥る。
「ふん...何処の輩かわからんが賢い奴が大盾の仕様に気づきおったな!」
場面は代わり帝国軍を指揮していた人物は腹立だしさのあまり胸の前で組んでいた腕を解き、怒り任せに乗っているチャリオットの縁を拳で叩きつける。
とはいえ策が破られた事によって苛立ちはあるようだが、完全に頭へ血が昇っている訳でも無い。
「次の作戦だ!手筈通り進めろ!」
■
あれからというもの帝国軍の侵攻が止まったということで拮抗した状態が続いたためか時間が只々過ぎていき、太陽は西へ傾いて茜色の夕日が照らしていた。
このままいけば夜間になって長期戦になるだろうし、敵の帝国軍も士気を下げるわけにも行かないので一旦下がって野営等をする可能性もある。
とはいえ長期戦になるのはこちらとしても有り難いことであり、明日には援軍として他領からの兵士や冒険者達が集い一気に形勢逆転が出来る筈だ。
「なんだか~いつの間にか魔法は飛んでこなくなりましたね~」
確かに...ライラの言う通り先程までは弓矢と投石物そして魔法が飛んできていたが今となっては何故か弓矢と投石物しか飛んでこないので先程よりも幾らか防衛も楽である。
もしかしたら帝国軍の魔法師団は魔力が尽きてしまったのではないかと思い戦っていると、何故か先程まで後退し、進軍して来なかった大盾の帝国兵達が光の膜を張りながら進軍してくるではないか。
しかも大盾は地面から離されており、進軍してくる速さも先程より数段早いのだから味方である王国軍や冒険者達は戸惑いを隠せない。
実のところあの大盾は本来地面から魔力を吸い出して光の膜を張れるのだが、魔法師団が大盾を持って魔力供給すれば光の膜を張れなくもないのだ。
とはいえそんな絡繰りを王国軍や冒険者達は知るわけもない。
『怖気づくな!何かしら仕掛けがあるはずだ!そのまま攻撃して耐えろ!』
一度は怯んだ王国軍や冒険者達は第一王子の一言によってなんとか士気を持ち直させ、再び魔法を放って何とか光の膜を破りながら弓矢や投石物を通していく。
とはいえこちらも魔力切れを起こす者が続々と現れつつあるため限界だろうか。
これではいずれ堀を渡って城壁に辿り着かれてしまい雲梯で城壁へ帝国軍を侵入させてしまう可能性や破城槌等で城門を破壊されてしまう可能性がある。
帝国軍からしたら城門さえ開いてしまえば王都内へ進軍し放題なのでそうすると王都が真っ赤な火の海になってしまう。
「ふぅ...少しでも足止めをしないと」
そんな徐々に状況が悪くなっていく中、コウには幾つか切り札と呼べる魔法があった。
ただ今回使用する切り札については過去にスタンピードが起きた際、使用した魔法ではない。
あの魔法はどちらかというと単体の相手に機能する魔法であり、今回使用するのは広範囲の魔法で味方が敵と混戦している状況だとしたら敵味方関係無く巻き込んでしまうため、この様な味方を巻き込まない場合のみにしか使えない魔法である。
「イザベル!少し離れる!」
「コウさん何処へ!?」
イザベルに一言伝えると自身の魔法が1番有効そうな城門の上部まで城壁を軽々と伝いながら走って移動し、城門の上部まで到着すると手のひらの上に小さな水球を7つ作り出す。
「大海。全てを飲み込むは大波――――」
魔力の見えない者からしたら、ただの水球が7つ手のひらに浮かび上がって器用だなと思うぐらいだろうが実際は途轍も無い量の魔力を凝縮されたものであり、魔力が見える者からしたら何をしてくるか分からないのでその場からすぐ退くだろう。
しかし現実に魔力を見える者は少なく帝国軍も大盾があるせいで慢心しており、これから起こる出来事を予想できてはいない。
大量に魔力を消費しているためかコウの額から出た汗が頬を走って顎先から落ちる。
「"綿津見神"!」
手のひらに浮かび上がっていた7つの水球に向かって ふっと息を吹きかけると7つあった水球は1つ2つと保っていた球体状態からどろりと溶け出して大量の水として溢れ出し、1波2波と沖から運ばれてくる津波の如く帝国軍へと襲いかかった。
その波の高さは50cmであるが甘く見てはいけない。大の大人程度であれば押し流されてしまうものだ。
大盾を構えて耐えろ――!帝国兵の誰かが叫び帝国軍全体は足を止めて光の膜を出す大盾を前に突き出して津波を迎え撃つ。
大盾から出る光の膜はコウの作り出した7つの津波を受け止めるが一部は耐えきれずに押し流されてしまい帝国側としたら大きな痛手である。
とはいえコウの狙いは帝国軍に大きな一撃を与えることではなかった。
「凍れ!」
コウの一言によって足首ほどの高さまで大地を埋め尽くしていた大量の水は一斉に凍りつく。
帝国軍はそんな凍った大地を気にせず進もうとするが一歩踏み出す度に足を滑らせてしまう者が続出したのだ。
特に大盾を持つ者や重装備をしている者は滑りやすく、大盾を持つ者が転ぶ度に光の膜が剥がれてしまい弓矢や投石物が通るようになり、帝国軍の進軍ペースは一気に鈍化することとなった。
又、凍っている場所はコウの任意で水へ変えることができるので援軍が来た際、自身達へ不利に働くことはない。
「これで多少は時間が稼げるはず...流石に休憩...」
自身の役目を一旦は終えたと思ったコウは後の防衛を自軍へ託すよう弓矢や投石物が飛んでこない場所まで移動し、休憩するのであった...。
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