173話
太陽が真上に位置し、日光が注ぐ昼間に漆黒の鎧を纏った帝国軍が黒い津波のように押し寄せてこちらへ進軍しており、漆黒の鎧が日光によって鈍く光っているのはかなり威圧感があった。
帝国軍の陣形は横陣ではあるのだが、よく見てみると帝国軍は左右に人員が分けられており、右側にいる者達は漆黒の鎧を纏っておらず、格好や装備を見る限り傭兵や帝国側の冒険者というのが推測できる。
大地を踏みしめ進んでくる帝国軍を見ていると心臓の鼓動が早くなっていき、緊張のピークに達するが深呼吸して覚悟を決めるように拳を握りしめた。
帝国軍の指揮官は何処だろうと目を凝らすと1番前の列の漆黒を鎧を纏った者達を率いるようにチャリオットに乗っている者が1名。そして同じく傭兵や冒険者達をチャリオットに乗って率いている者が1名いるのが見える。
帝国軍の指揮官は豪華な鎧兜を被っているし、まず遠くのため人相は見えないがもしかしたら今回の目標であったクルツ村を襲うように指示をしたモーガスである可能性が高い。
ただモーガスの人相をコウは知らないため、生け捕りにして誰かに判断して欲しいところである。
ある程度帝国軍が近づいてきて横陣を維持した状態で立ち止まり、いつ両軍が衝突し始めるのか待っていると帝国軍の中から1名、馬に乗ってこちらに向かって来ているがこちら側の王国兵は誰もその帝国兵を攻撃しようとしない。
「誰も攻撃しないのか?」
「まだ宣戦布告されてないですからね」
宣戦布告してからの交戦というのは自身の覚悟を決めたばかりなのに覚悟を決めるタイミングを間違えてしまったため、なんだか拍子抜けしてしまう。
そういえば戦国時代とかでもやーやー我こそは云々...そんなことを言っていたらしいのでそれに近しいものなのだろうか。
誰も向かってくる帝国兵に先制攻撃しないのは王国兵の統率が完璧に行われているというのもあり、また騎士道精神に反するものだからだろう。
馬に乗ってきた帝国兵は城門前の跳ね橋が上げられているため、堀の近くで止まると手に持っていたスクロールを開いて中に書かれている内容を淡々と読み上げてくるが、内容を簡潔に説明すると領地がほしいのでこれからあなたの国を攻めますね!というものであった。
そんなスクロールの中身をを読み終えた帝国兵はそそくさと逃げ帰るように自軍へと戻っていく彼は内心は冷や汗が止まらなかっただろう。
それもそうだ。帝国兵からしたら大勢の敵軍のど真ん中で喧嘩を売りつけ、もしかしたら騎士道精神に反した者がいれば弓矢などが飛んでくるのかもしれない状況なのだから。
文書を読み終えた兵士が自軍に戻ると、チャリオットに乗っている指揮官と思しき人物が腰に刺さっている装飾もされていない無骨なロングソードを抜き、こちらへ切っ先を向けて自軍に号令を掛けると共に大気が震えるような声が響き渡って大地が振動する。
『来るぞ!自軍の弓を使えない者は投石機とバリスタで迎え撃て!また魔法師団も同じく迎撃開始!』
自軍の王国兵達も第一王子の号令と共に弓を使えるものは弓矢を放ち、また整備を終えていた投石機とバリスタを使用して進軍してくる帝国兵に向けて防衛を行いだす。
魔法師団はどれほどの戦力でどんな魔法を使えるのかコウとしては気になったが、自分の見える範囲にはおらず遠くの戦場で火の玉や水の玉が空を飛び、帝国兵に向かって飛んでいくのが見えた。
「私達も同じく弓と魔法を使って防衛しますので攻撃開始!」
イザベルの号令で弓を使える者と魔法を使える者は城壁の縁に立って弓矢や魔法を帝国兵に向かって放つ。
「俺達もやるぞ!氷槍!」
「キュイキュイ!」
「私もやりますよ~!よいっしょっと~!」
コウとフェニは他の冒険者と同じ様に自身の得意な魔法を作り出して放ちライラは自身の身体よりも半分ぐらいの大きさの投石物を帝国兵に向かって綺麗な放物線を描きながら投げつける。
しかし進軍してくる帝国軍は全身をすっぽりと隠すぐらいの黒い大盾を地面にどすんと置いて構え出すと盾の縁から光の薄い膜が後方の帝国兵を守るように包んで、全員が放ったはずの弓矢と投石物そして魔法が弾かれてしまう。
ただ弓矢や投石物は完全に防ぐことができるようだが、魔法が光の薄い膜を破って貫通する部分もあったので完璧に魔法を防ぎきれるものではないようだ。
また大盾を観察していると何故か光の膜は安定せず張れていないような物もあるがそれは不良品だからだろうか?
逆に帝国兵もただやられている訳でもなく、同じ様に帝国軍も投石機そして魔法師団や弓兵がいるのか今度はこちらへと向かっていくつもの投石物や弓矢、魔法が降り注ぐ形となった。
「守りは任せてください!暴風の壁!」
降り注ぐ物を防ぐためにイザベルは自身の得意な風魔法を使用して上空に広域の風の壁を作ると飛んでくるそれらは風の壁に弾かれ散っていく。
しかし戦況はほんの少しの差であるが押されつつあった。
帝国軍は王国軍からの弓矢や投擲物、魔法が飛来してくるために防がないといけないので攻めあぐねている様に見えるが大盾のお陰でじわりじわりと確実に1歩1歩前へ進んでくる。
コウも同じ様に魔法を放って大盾から出る光の膜を貫通し、被害を与えているが敵が多すぎるために減っている気がしない。
正直言って永遠と魔法を放てるのであれば光の膜を貫通し続けて勝利を掴めるだろうが人には魔力の限界があるし、弓矢や投石物も無限ではなく数の限りがあるため最終的に押し切られてしまっていづれ城壁までたどり着くだろう。
そのためにはあの光の膜を出す厄介な大盾をなんとかしなければ現状防がれてしまっている弓矢や投石物の攻撃で手痛い一撃を与えられない。
とはいえあの頑丈そうな大盾を壊すには一苦労であるため、何かしらの方法で使えなくすることができないか魔法を放ちつつ思考を巡らせると1つだけ妙案が浮かび上がった...。
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