172話
カーン...カーン...カーンと遠くから鐘が鳴り響く朝。
朝日がカーテンを貫通し、まだ頭がぼーっとして毛布に包まりたい気持ちを吹き飛ばす為にカーテンを一気に開けるとフェニも気づいて同時に起きたようだ。
「ん、おはようフェニ」
「キュイ!」
帝国軍がまもなく迫ってくる筈なので早めに身体を動かし、慣らしておいたほうが良いと思い準備をしているとドアからコンコンと軽快なノックが鳴る。
「コウさ~ん入りますね~」
コウの返事を待たずに入ってきた人物はライラであり、支度はすでに終えているようでいつもの聖職者の服を着ていた。
ライラはそのまま部屋に入るとコウが先程まで寝ていたベッドの上へダイブしてすぅすぅと寝息をしながら再び寝始めるので何しにきたのかを知るために肩を揺らして起こす。
「何しにきたんだよ」
「そろそろ~朝ごはんの時間みたいです~」
どうやら朝食ができていることを伝えに来たようだが何故、寝ようとするのか。
そう来るなら少しだけコウにも考えがある。
「だったら寝るなよ...ライラは置いてご飯に行くぞフェニ」
「キュイ!」
「あ~待ってくださいよ~置いてかないでください~」
ライラを置いてさっさと扉を出ようとするとすぐにベッドの上から跳ね起きて追いかけてくる。
屋敷内にあるダイニングルームへと向かいながら今日の朝食はなんだろうなと思いふけながら歩いていく。
ダイニングルームへ到着して椅子に座るとメイドが給仕しており、ワゴンの上に朝食を乗せて運んできたものを机の上に並べられ、食事内容に関してはどれも初日泊まる際に聞かれた個人の希望に合わせたものとなっていた。
例えばフェニだったら果実類、ライラであったらサンドイッチと紅茶といった感じである。
正直言ってそこらの高めな宿よりも待遇が良くタダで享受するにはコウとしては少し負い目を感じてしまいパンとスープぐらいで控えめな朝食を頼んでいる。
朝食を終えると中庭へコウは移動して軽く身体を動かし、身体がある程度温まったので防衛の最前線である王都の城門へと向かうのであった...。
■
朝食を終え、身体を一通り軽く動かした後に城門へ向かうため、屋敷から出て街中の大通りを通っていた。
城門は東西南の各場所にあり、いつもコウ達が王都へ入ってくる際に使用する場所は東門であるが今回帝国軍が集中して攻めてくる方向は南門ということでそちらに向かっていた。
南門へと向かう最中、普段ならば人で溢れている大通りは王国兵士達がガチャガチャと鉄の鎧を鳴らし、忙しなく動き回っているのが見える。
そういえば民間人は何処へ行ったのか気になったのでイザベルに聞いてみると一部の人以外は近くの避難所へ籠もって終戦するまでは出てこないようにしているらしい。
勿論、中には自身の産まれ村へ戻ったりする者もいる。
また基本的に民間人は戦争で巻き込まれることは少ない。
理由としてはまず国家間で戦争する際に民間人がいる避難所を襲うことは禁じられており、襲った場合は盗賊などと同じ処理がされる。
そうこう話をしている内に城門の近くに到着すると城壁の上には大量の王国兵士達が配備され、投石機やバリスタなどの配置された兵器を整備していたり、遠くを監視しているのが見えた。
「なぁこれ外の状況って見れないのか?」
「んー見れると思いますよ?門の隣に城壁へ登る場所と監視塔がありますし」
城門の裏からは城壁と監視塔へ登る場所があって、そこから上へ登れば現状外の状況がわかる筈なので近くに居た兵士に話すと以外にもすんなりと通してくれた。
というのもイザベルが隣に立っていたため顔パスで通してくれたので貴族様々である。
城壁を登り切ると少し生温いなんとも嫌な風が全身を包み込むように吹き、髪が風に流されてつい手で抑えてしまう。
城壁は約12m以上の高さであり、高い場所が苦手な人ならば足がすくんでしまうぐらいで外を見下ろすとそこには城門前にある筈の跳ね橋が上げられており、深く掘られた堀には水がたっぷりと満たされていた。
帝国との戦争が起こると噂が広まっているせいでいつも王都に入るために多くの人が並んでいるはずだった場所には並んでいる人の姿はない。
まぁそんな場所に人がいても巻き込まれる可能性が高いのでいないことに越したことはない。
「そういえば俺達冒険者はどうすればいいんだ?」
今回は防城戦ということもあって別に城壁の外に出て戦う訳では無い。
とすると城壁の上から投石機やバリスタ、魔法が使えるものは魔法を撃ったりして攻めくる帝国兵を城壁内へ入らせない様に抑えるのが今回の戦い方である。
「うーん...とりあえず援軍が来たら城門を開けて一気に押し込むと思うのでそれまでは防衛になりますね」
今回冒険者ギルドは城壁の1区画を任されているのでそこを防衛することとなる。
また戦争に参加する冒険者はコウ達と城薔薇騎士団の団員を含めるとCランク105名Bランク45名Aランク5名であり、それらをまとめてイザベルは指揮をしないといけない。
とはいえ前回打ち合わせである程度の陣形は決まっているのでそこまで困ることはないだろう。
また前日の情報でもう人員の配置は済ませてあるので後は待つだけである。
『あーあー聞こえるかな?兵士達諸君』
外の風景を眺めて見ているとどこからともなく聞いたこと無い声が聞こえ、空を見上げてしまう。
周りにいた動き回っている兵士達や整備をしている者はその場でピタリと立ち止まって背筋を伸ばし、その声に耳を傾けていた。
「誰だ?」
「この声は第一皇子のアンドリュー様ですね。風魔法で広域に声を届けてるんでしょう」
この声の持ち主は今回の戦争で全ての王国兵士を指揮する第一皇子であるアンドリュー・フォン・アルトマードであった。
イザベルも前に風魔法に声を乗せて話しかけてきた記憶があるのでそれの応用だろう。
『今回の指揮はこの様な形で行う』
確かにこの方法ならば戦況の全体を見通せる安全な場所から的確な指示を王国兵士達に出せるので悪くはないだろう。
ただ敵の帝国軍にも聞こえてしまうので動きがだだ漏れなのはどうだろうか。
長々と校長のスピーチの様に話が続いていると突然、カン!カン!カン!と近くの監視塔から警鐘が鳴り響く。
「敵襲ーーーー!!!」
遠くを監視していた兵士が大きな声で叫ぶのでじっと草原が広がる地平線の先を凝視すると黒い旗をなびかせながら漆黒の鎧を纏った兵士達が大地を踏みしめこちらへ向かってくるのが見えたのであった...。
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