171話
時が経ち、打ち合わせが終わってから数日の間、宿は無駄に金が掛かってしまうということで借りずにイザベルの特別な計らいで白薔薇騎士団の屋敷へ泊めさせてもらっていた。
男性が基本的に入らない場所とはいえ、何かしらの面倒事があると思ったが何度もこの場所に訪れているのと見た目が少年のため、わりかし団員からの目線が優しく快適に過ごせた。
もしかしたら面倒事を起こしそうな団員はイザベルが裏で釘を刺してくれたのかもしれない。
この数日の間コウは戦争の不安を吹き飛ばすために王都を探索しようと思って屋敷外に出ていると、ここ数日の王都では慌ただしく資材が毎日大量に運び込まれ、数日前に来た時の王都よりも強固な守りが築き上げられていたのを目にしていた。
また兵士達の話によると資材を名のある商人達から買い占めているらしく、商人達からしたら急に太客が出てきたということで稼ぎ時ではないかという話だった。
その噂を聞きつけた多くの商人達は戦争が始まる前だというのにまだガンガンと街へ入ってきているらしく、少しでも多くのお金を稼ぐため商人魂を燃やしているのだろう。
とはいえ入ってくる商人達は無名の者が多く、名のある商人達は既に売り捌いて戦争が起きる前にもう撤退していたという話を聞いたりした。
今日も外から帰ってきて夕食を食べた後にイザベルの部屋で皆とお喋りをしながら不安を紛らわすようにゆっくりしているとドアの方向から軽快な音のノックがコンコンと鳴った。
「どうぞ」
「団長失礼します。帝国軍の動向を掴んだようです」
イザベルは入室の許可を出すと中に入ってきたのは副団長であるジュディであり、どうやら数分前に来た斥候の報告をしにきたらしい。
報告の内容は今のペースで帝国軍が行軍すれば明日の昼ぐらいには王都周辺に姿を現すということなので明日の昼前には人員の配置を終わらせるようにとのことだった。
その情報が確かならば今から自分達は何かしらの準備をしないといけないだろうか。
「俺らはのんびりしてるけど何もしなくていいのか?」
「準備は整ってますし体調を万全にするぐらいでしょうか?」
とはいえ準備といっても何をして良いのかわからないのでイザベルに聞いてみるがコウの知らない内に自身の団員に指示をして終わっていたようで特に準備することがないらしい。
それにしても戦前だというのにイザベルはふかふかの椅子に座って紅茶とクッキーをまったり優雅な時間を過ごしている夕食後のティータイム。
ライラとフェニに至ってはソファの上で横になって食後の仮眠している始末である。
緊張感がないというかなんというか...コウとしては戦前ということもあってここ数日は胸のあたりがドキドキして落ち着かず、今もブレスレット状態のサンクチュアリを指でなぞりながら触って不安という気を紛らわそうとするが手にはじんわりと汗が滲んでいく。
「不安ですか?」
そんなコウの行動を見て胸の中に秘めた気持ちをイザベルは察したのか飲んでいたティーカップを机に置いて一息つくと優しい声で問いかけられた。
まるで心の中を見透かされたのかと思い、自身の心拍がドクンと跳ねるように上昇するのが分かる。
「まぁ...正直不安だ」
今まで多くの魔物や盗賊達と戦ってきたし、スタンピードなどの経験はあるが今回は圧倒的に規模が違うので不安にならないというのがおかしいだろうか。
逆に今回、指揮を任されたイザベルは他の冒険者達の命を預かる身となって重圧が重くのしかかり、自分なんかよりも何倍も不安ではないのだろうか?と疑問に思った。
「イザベルは不安じゃないのか?」
「んー不安ですよ?多くの人の命を預かる身ですからね」
「まぁそうだよな」
「だからこそ不安になってる場合じゃなくて皆の命を守るため負けないよう頑張るんです」
やはりというかイザベルも優雅に紅茶とクッキーを食べていながらも心の隅には不安はあるようだが、それ以上に今回多くの人の命を預かる身として絶対に誰も失わないという強い意思と心がそこにはあった。
そんな自分よりも何倍も重い責任を持っているイザベルと話し、強い意志と心を見て自分も不安に負けている場合ではない。
負けない為に戦うのに最初から弱腰では駄目だと思ったのかコウは頭をふるふると横に振った後、両頬を両手でばちんと叩いて不安をかき消す様に喝を入れる。
それに世の中には攻撃3倍の法則といったものがあり、斥候の情報では今回の帝国軍は3倍もの戦力で攻めてくるわけではなく、籠城戦をする自分達には利はあるし耐えていればいずれ他領から援軍がくると考えると決して負け戦ではない。
そう考えると何故、今回帝国側は攻めてくるのだろうとふと疑問を抱いてしまう。
何かしらの勝算はあってのことだろうが戦略計略などを学んだことのない凡人程度の頭で考えてもさっぱりわからず答えは出ない。
「大丈夫ですよ。私は絶対に皆を守りますから」
「なんだか話したらすっきりした。早めに寝るよありがとう」
イザベルと話したことによって自身の胸の内にあった不安は少しだけ落ち着き、すっきりしたのでお礼を言うと明日に備えてコウは早めの時間に就寝することにしたのであった...。
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