170話
「お!コウじゃねぇか!奇遇だな!」
入ってきたコウ達に1番早く反応したのはマルクであり、その声につられたのか打ち合わせをしている最中の人達がこちらへ視線を向ける。
早く反応できたのは周りの冒険者に比べて身長が頭ひとつ分高く、打ち合わせをあまり真面目に聞いておらずに暇していたからである。
向けられた視線の中にはイザベルとジュディも含まれており、イザベルは鳩が豆鉄砲を食らったかのように口を開いて驚きの表情をさせていた。
「団長。口が開きっぱなしです」
「はっ...ローランにいるはずでは...?」
隣にいるジュディに耳打ちをされ、ハッとして口元を手で覆い恥ずかしながらもローランにいるはずだと思っていたコウに聞く。
「ライラが心配だって言うから来たんだ」
「も〜コウさんも心配だったくせに〜」
「その...ありがとうございます」
ここに来たのをライラのせいにしようとするがすぐに心情をバラされてしまい何だか恥ずかしい気持ちになってくる。
「キュイキュイ!」
すると自分も心配だったぞ!と言わんばかりに頭の上に乗っていたフェニも翼を広げてアピールしたため恥ずかしさも薄れて口元が少しだけ緩んでしまう。
「マルクさんもスタンピードが起きたぶりだったか?」
「おうよ。元気にしてたみてぇだな」
「そういえばどうして王都にいるんだ?」
ローランを拠点として活動しているマルクが何故、この王都で既に帝国軍の侵攻を対策する打ち合わせに参加しているのか気になったので話を聞くことにした。
「偶々王都に嫁と娘の服を買いに来たらこうなった」
「えっ...マルクさん奥さんと娘さんいたのかよ!」
どうやら偶々王都に来ていたら帝国軍が侵攻されてしまったため巻き込まれたようなものである。
しかしコウとしてはマルクに妻と娘がいることを知り、イザベルの次に鳩が豆鉄砲を食ったかのように口を開けてしまった。
マルクの見た目はライオンのような髪型をした筋骨隆々の男であってまさか嫁が娘がいるとは思っていなかったのだ。
「こう見えて俺はモテるんだぞ!まぁ嫁と娘一筋だがな!」
ガハハと笑いながら自慢してくるが実際、Aランク冒険者ともなると余程酷い見た目をしていない限りは収入も立ち場などを考えればモテるのは当たり前である。
「久しぶりだねコウ君」
「あんたは...あの時の爺さん?」
次に話しかけてきたのは過去に王都の闘技大会へ参加した際、2回戦目で出会ったダグエルという老騎士であった。
あの時はダグエルが満足して途中で棄権し、すぐに居なくなってしまったため、何故ハイドのことを知っているのか聞けずじまいで終わってしまっていたのだ。
「そろそろいいか?」
聞きたいことが山ほど出てきたのだが、コウが喋り出すのを遮るように自身が知らない褐色の肌をしたエルフが先程までしていた話へ元に戻そうとする。
「あー...すまん」
「では進めさせてもらおう」
そういえば今は打ち合わせの最中であったことを思い出し、話なら後でもできるので進行役と思われるその男に軽く謝罪をして話を進めてもらうことにした。
途中参加で内容はさっぱり把握していなかったのでイザベルから補足をもらいつつ、コウ達も打ち合わせに参加することになった。
ローランではそれなりに一目置かれる存在になってきたコウとはいえまだ王都では無名ということもあり、打ち合わせで集まっている他の冒険者達からは何故こんな少年がマルクやイザベルなどの高ランク冒険者と仲が良いのだろう?というような顔をされる。
そんな周りの空気を無視してとりあえず打ち合わせの内容を大まかに聞いてみると、今回斥候が目視で確認した帝国軍の数はおよそ12000人。
現状、王都で使える兵士の総数は約8000人であり、戦力差があるため正面からぶつかるのは得策ではないということで今回は防城戦となるらしい。
しかし守っているだけでは無駄に長引くだけなので防城側である王都は侵攻してくる帝国軍に他領からの救援軍と冒険者ギルドの人達が来るまで耐えないといけない。
今回、全兵士達の指揮を取るのはアルトマード王国の第一皇子であるアンドリュー・フォン・アルトマードという人物らしい。
冒険者達の指揮に関しては冒険者ギルド側へと任されているらしく、まだ誰が指揮をするか決まっていなかった。
そこで指揮する人物はAランクで大規模なクランをまとめているマルクかイザベルが推薦された。
「そんな大人数指揮できる気がしねぇよ。こういうのは貴族の人間が適任だろ」
しかしマルクは大規模なクランをまとめ魔物に対してはプロであるが、流石に対人の戦争ならばノウハウのある貴族がやったほうが良いと判断して辞退してしまった。
「私のが適任みたいですね」
イザベルは冒険者で白薔薇騎士団の団長という立ち場であると同時に貴族であるため、名乗り出ると周りに居た冒険者達は確かにと納得した顔で賛同し始める。
「本当にイザベル様がいかないといけないのでしょうか?他の貴族の方で候補を探したほうが...」
しかし賛同していた冒険者達の中から否定的な声が出てきて、声の出どころへ振り向くと壁側の場所に髭をこんもりと蓄えた初老の男性が立っていた。
その人物は冒険者には見えず、どちらかというと執事に近しい服装であり、後ろには似たような人達が複数人も見える。
何故、否定的な意見を言ったかというとイザベルは確かに貴族ではあるのだが、貴族の令嬢というものであり、古臭い考え方をする貴族側からしたら女が戦場に立つのは好ましくはない。
だったら他の貴族をこの場に寄越せと言いたくもなる。
今回、貴族達がこの場へ打ち合わせに来ていない理由は何故、自分達のような高貴な存在がわざわざ出向かないといけないのかということで来てない者殆どだ。
この初老の男性についても使者か何かだろう。
「他の貴族が冒険者に指揮を上手く出して協力しながら戦えると思えませんが?」
貴族の大半は冒険者は金を払えばある程度使える道具としか思っておらず、実のところ仲はそこまで良くはない。
そんな不仲な状態で冒険者達と背中を合わせて戦えと言われても上手く連携できず、結局は士気の低下に繋がってしまうだろう。
そう考えると貴族ではあるが冒険者側として人望もあるイザベルのが間を取れて適任だ。
「私も過去に初陣は済ませてありますので問題ないです」
拒否するように反対意見をピシャリとはねつけると苦い顔をして、それ以上は口に出すことはなく黙ってしまった。
そのまま打ち合わせは続いていき、最終的に話をまとめた内容を各地の冒険者ギルドへと詳しい情報を持たせた伝令を送ることとなった。
「ふむ...これで一旦解散だ。各々は戦争に向けて準備をしろ」
褐色の肌をしたエルフは打ち合わせを終わらせるようにパンパンと手を叩いて締めると各自、その場を離れていく。
「イザベル様本当に戦場へ行かれるのですかな?」
「もうその話は終わった筈では?くどいですよ?」
先程、戦場に行くことに関して反対していた初老の男性が近づいてきて再び同じことを言っていた。
何度も同じ話をされ、くどいと思ったのか普段ではしないような冷たい眼差しを向け突き放すように言うと初老の男性は後退り、後ろに立っていた他の者達も苦虫を噛み潰したような顔をする。
「さて...コウさん達も私と帰りますよ」
「いやまだあの爺さんに聞きたいことが...」
コウとしてはその場に少しだけ残ってダグエルに聞きたいことが山ほどあったがイザベルに手を引かれ、その場を離れてしまい結局話せずじまいで終わってしまったのであった...。
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