169話
小鳥の止まり木に戻ったコウ達はミランダからのお使いを終わらしたことを伝え、ちょっぴり豪勢になった夕食を終えた後にミランダへ離れて少しの間、王都へ向かうので部屋を引き払うという話をした。
立つ鳥跡を濁さずという言葉通り、コウ達は泊まっていた部屋へ戻った際、ある程度掃除をして部屋に置いてあるものを収納の指輪へと回収したが大半はライラの私物であった為、時間はそこまで掛かりはしなかった。
「世話になったな」
「いえいえ。またいつでも泊まりに来て下さい」
お世話になったミランダに別れを告げた後、コウ達はローランから出て移動するためにまだ賑わっている夜の街を歩いて正門へと向かう。
王都へ大規模な帝国軍が進行中という情報はまだ民衆に伝わっていないためか明るく平和な空気がこちらにも伝わってくる。
正門に着いて受付をすると夜ということなのかローランの外に出る人は少なくスムーズに手続きが終わった。
「よう。こんな夜に外へ出るのか?」
門を通過しようとすると聞き慣れた声に掛けられ声のする方向に振り向くとギルドマスターであるジールが壁際に持たれながら立っていた。
まるでコウがローランの外に出ることがわかっていたようである。
「あぁ言わんでもわかってるさ。イザベル嬢ちゃんの手助けに行くんだろ?」
「ジールさんは止めに来たのか?」
「んな無粋なことはしねぇよ。ほらこれ持っていけ」
どうやらコウ達を止めに来たのではなく、何かものを渡しに来たようで放り投げられたものをコウは両手でキャッチして確認するとそれは凝った装飾がされていない銀色のペンダントであった。
「ペンダント...?」
「お守りみてぇなもんだ」
「なんでそんな気を使ってくれるんだ?」
他の冒険者達と違ってコウはそれなりに冒険者ギルドから優遇を受けており、理由としては元々コウは見た目が少年なのにそこらのBランク冒険者にも負けないぐらいの実力というアンバランスな人物というのもあって間違った道へ進ませず正しい道に導けるようにギルド内部では慎重にそして大切に扱っていく方針だったからだ。
「冒険者は人材不足だからな。特に実力あるやつは大切にせんといかんのだ」
そんな冒険者ギルド内の内情をコウに伝えるわけもなく、適当にジールははぐらかすように言う。
「とりあえず俺が呼んでおいた馬車があるからそれに乗ってけ」
「ありがとうジールさん」
「気にすんな。じゃあイザベルの嬢ちゃんを頼んだぞ」
ジールと別れてローランの外に出ると夜のためなのか数台しか馬車はなく、ジールが呼んでくれていた馬車があるのでわざわざ王都行きの馬車を探す手間が省けたのは僥倖だった。
しかも用意してくれていた馬車を引っ張るのはウォーターホースであり、いつも乗る馬車などよりは休みなく長距離を走れるため早めに王都に着くはずだ。
コウ達は馬車の中へ乗り込むと同時に御者が小窓から乗ったのを確認し、馬車は少しずつガラガラと車輪は回って進み出すのであった...。
■
「まもなく到着致します」
御者がコンコンと小窓へとノックをして仮眠をしているコウ達を起こし、王都へ到着する旨を伝えると御者に声をかけられた各々は目を覚まして体を伸ばしたり、少しだけ眠気の残る目をこすり王都が見える窓を覗く。
「んぁ?あぁもう着くのか」
「キュイ?」
「ん〜っ!軽く寝れましたね〜」
深夜のためか遠くから見る限りあまり変化がなさそうに見えるが王都に近づくにつれて前に来たときよりもバリケードや投擲機が設置され、城壁部分にはいつもよりも多くの兵士達が監視しているのが見えた。
ローランでスタンピードが起こった際に準備していた光景と変わらず、兵士達からはピリピリとした雰囲気が伝わってくるのがわかる。
正門の前に到着すると戦争が起こる前なのか、もしくは深夜のためなのか王都に入る人はそこまで並んではおらず、すんなりと入れそうではある。
「身分の提示をお願いします」
王都に入るため馬車から降りて門の入口まで行くと兵士達が数人駆け寄ってきて1人の兵士がコウ達に身分の確認をしにきた。
別に隠すこともないのでギルドカードを渡すとローランで発行された物だとわかったようで戦争での人員応援だと思ったのかすんなりと門を通してくれた。
王都に入ると前来た時よりも人通りは見るからに減っており、兵士達が重い荷物を持って街中を駆け回っているのが見える。
「う~ん忙しそうですね~」
「みたいだな。まぁイザベルの場所まで行ってみよう」
とりあえず今回の目的であったイザベルの元へ向かい、白薔薇騎士団の屋敷へ到着するといつもと変わらず門番であるミルサが立っていた。
ミルサもこちらに気づいたのか手を振り、挨拶してくるので同じように手を振り返す。
「やぁ少年。団長とダンジョンに行ったぶりだね」
「あぁ久しぶりだな。イザベルはいるか?」
「団長なら打ち合わせで冒険者ギルドにいると思うよ」
どうやらイザベルは戦争の準備や打ち合わせをするため王都にある冒険者ギルドにいるらしい。
屋敷へ来る途中に通り過ぎてしまったのでまた来た道を歩いて戻るのは少し面倒だがしょうがない。
「戻るしかないみたいですね〜」
「そうみたいだな。ありがとなミルサ」
ミルサにお礼を告げて元来た道を歩き、王都にある冒険者ギルドに到着する。
ローランにある冒険者ギルドよりも豪華な扉を開けて入り、周囲を確認すると奥のテーブルで地図のような物を展開し、イザベルと副団長であるジュディを中心に多くの冒険者が囲んで話をしていた。
そして一際身体が大きく目立った人物がいたのでよく注視するとその人物は過去に一度コウがクランに誘われたマルクの姿であった。
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