168話
王都から来た伝令兵はギルドマスターであるジールに緊急の要件を伝えるために会えるか確認するが残念ながら不在ということを聞き、なんとかして呼び戻してほしいようだ。
お茶会のメンバーであったサーラとミラは仕事モードに意識を切り替えるとあたふたしている後輩の受付嬢のフォローへと向かい落ち着いて対応していく。
さすがベテランの受付嬢といったところだろうか。
このようにギルドマスターがいない場合、緊急連絡用として共鳴のベルという魔道具が冒険者ギルドに保管されており、その魔道具を使用することによって通知が届きすぐにギルドマスターが駆けつけることができる。
共鳴のベルというものはその名の通りベルの形をした2つで1つの魔道具であり、エルフの里で作られたものだ。
使い方は簡単で片方のベルを鳴らすとリンクされているベルが同時に鳴って通知を届けるといった魔道具である。
「おいおい...共鳴のベルが鳴ったから戻って来たが何があったんだ」
共鳴のベルを鳴らして数十分後、入り口の木製で出来た扉が開きそこに現れたのは軽く酒の香りを服にふわりと纏わせ、面倒臭そうな顔で冒険者ギルドへと戻ってきたジールであった。
「お酒の匂い...?」
「まだ1杯目だっ...ゴホッゴホッ!いやなんでもないぞ!」
サーラが酒の匂いを感じ、怪訝そうな顔で口に出すとジールはついポロッと仕事をサボり酒を飲んでいたこと言いそうになり、咳を無理やり出して誤魔化す。
ジールがサボって酒を飲んでいのも悪いと思うがこちらも休憩という名のサボりとしてお茶会をしていたのはサーラとミラの為にも黙っておいたほうがいいだろうか?
「よし。なんとなく把握した!そこの伝令兵は俺についてこい!」
「了解致しました!」
その場から逃げるようにジールがギルドマスターの部屋へ伝令兵とともに入っていく姿は敗走兵に見えてしまうのは何故だろう。
とりあえず伝令兵の緊急対応が終わったのでサーラとミラは今まで行っていたお茶会の証拠隠滅をしようと机の上に広げていたクッキーや紅茶などを慣れた手付きで片付けていく。
きっと急いでギルドマスターの部屋に入っていったジールには少し酒が入っているのも相まって机の上に広げていたクッキーや紅茶の存在には気づかなかったはずであり、それらを片付けるサーラとミラの手際の良さは常習犯と言ってもいいだろう。
「それにしても伝令兵なんてのが来るなんてよっぽどじゃないか?」
「そうですねー私も受付嬢になって対応したのは今回で2回目です」
1回目は王国側でスタンピードが起きた際に援軍として冒険者ギルドへ要請があった時に伝令兵が来たらしい。
つまり2回目である今回も何かしら王国で問題が起きたため、伝令兵が派遣されたのかもしれない。
何があったのか知りたいためコウは暫く待っているとギルドマスターの部屋からシワが寄った眉間に手を抑え悩んでいるジールと自身の仕事を終えた表情をした伝令兵が同時に出てくるのが見えた。
どうやら伝令兵から伝えられた情報はあまり良くない情報だったのがジールの表情から伺える。
「ではこれで失礼します!」
「おう。次は良い話を持ってきてくれや」
伝令兵はジールに挨拶するとそのまま冒険者ギルドを小走りで出ていき、ギルド内の受付嬢やコウからはどんな話であったのかという視線がジールへと注がれる。
「はぁ...とりあえずここにいる奴らに話しておくぞ」
これだけの視線が注がれると流石に話さないわけにはいかないだろうと思ったのか頭をガシガシと掻いてため息をつくと、ギルド内にいる人達に聞こえるぐらいの声量で伝令兵から聞いた内容を話してくれるそうだ。
「大規模な帝国軍が王都に向かってるらしい。防衛の為にここで募っていた冒険者を寄越せとのことだ」
帝国と近々戦争をするという話は聞いていたが、誰もこんなに早く敵国である帝国が兵を仕向けてくるとは思っていなかったのか周囲の受付嬢達は騒然としていた。
「まぁ落ち着け。ここが戦場になるわけじゃねぇ」
落ち着かせる様にジールは受付嬢達に声を掛けるが戦争が始まると言われて落ち着ける者は少ないだろう。
コウも王都を拠点としているイザベル達もいざ戦争が起これば戦いに参加するため、心配なので早めに王都へと向かいたいところではある。
また王都へ向かって敵軍が進行はしている途中ということなのでローランから向かえば戦争が起こる前に余裕で間に合うはすだ。
ライラが雲掛かった表情でこちらに目配せしてくるが何となく言いたいことは理解できる。
「わかってる。助けに行くに決まってるだろ?」
助けに行くに決まっているということを伝えるとほっとした表情へと変わっていた。
個人的にはクルツ村を襲わせた貴族であるモーガスが戦争の指揮を取りに来ているとは限らないが、もし戦場で出会えたとしたら一泡吹かせる千載一遇のチャンスでもある。
ただ戦争ともなると魔物との殺し合いでは無く、人と人同士の殺し合いになるため、内心としては気が進まないというのと不安な気持ちが半々とあるがあえて口にも顔にも出す気はない。
そうと決まれば王都に向かって戦争に参加している間はローランには当分来ないだろうし、とりあえずは小鳥の止まり木から一旦引き払う必要がある。
大体の荷物は収納の指輪の中に入っているのでそこまで何かをするという訳ではないが、今日受けたお使いの報酬であるちょっとしたサービスが追加される晩御飯だけは食べておきたいところではある。
「じゃあ一旦宿に戻るかな」
「そうですね〜。サーラさんとミラさんまた来ますね〜」
サーラとミラ2人の受付嬢に別れを告げ、とりあえずコウ達は小鳥の止まり木へ一旦戻るのであった...。
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