166話
コウがまず先に向かった場所はミルミートという肉屋でミランダから受け取った手紙を渡すため、ぶらぶらと歩いていた。
肉屋の場所自体は小鳥のとまり木からあまり遠くない場所にあるらしく宿から出た目の前の通りを左に歩けばとりあえず着くらしい。
「ここかな?」
看板にはデカデカと店名と肉の絵が書かれていたので分かりやすく、店の前で立ち止まると知らない女の子から話しかけられた。
「いらっしゃい!お使いかな?」
コウに話しかけてきたのは小麦色の健康的な肌に三つ編みをした自分より若干年上の活発的な女の子であり、看板と同じ店名と肉の絵が描かれた前掛けをしているので肉屋の看板娘ということがわかる。
「お使いではあるな。手紙をここに届けてくれって頼まれてるんだ」
ミランダから受け取った手紙を収納の指輪の中から取り出して看板娘へと手渡す。
「手紙?あぁこの封蝋は小鳥のとまり木のミランダさんからかな?」
看板娘はコウから手紙を受け取ると同時にくるっと裏返し、封蝋の部分を見る。
すると手紙の封蝋は見慣れたものだったようですぐにミランダからの手紙ということが分かったみたいである。
「じゃあ手紙を届けたしこれで...」
「え~お店でついでに何か買っていってよ!うちのお肉は絶品なんだから!」
手紙も渡したので次の目的地である冒険者ギルドに行こうとすると看板娘から引き止められ店のものを何か買っていってとせがまれた。
売りに出している肉の品質には自信があるようでそこまで言うのならば試しに買って食べてみるのも悪くない。
「まぁ少しだけならいいけど」
「やった!じゃあお店に入って入って~!」
「お...おい」
客引きに成功したのが嬉しかったのかコウの背中を両手で押しながら店の中へ押し込んできた。
店の中に入るとひんやりとした空気が肌に纏わりついて先程外にいた時よりも少し肌寒く天井から吊るされた燻製の肉があったり、白銀の四角い箱には様々な肉が入ってあるのが見える。
「おぉ見たことのない肉がある」
「ふふ~ん!入って正解だったでしょ?」
「なるほど。この箱は魔道具か?すごく冷たい」
白銀の四角い箱に触れてみるとまるで氷に触れたかのように冷たくなっており、中に入っている肉自体には鮮度を保つためなのか薄い透明なラップのようなもので包まれていた。
「良い魔道具でしょ~!やっぱお肉は鮮度が命だからね~」
ブロック状の肉以外にも加工されたものもあり、のんびりと店の中を見回っていると外からキュイキュイと聞き慣れた鳥の鳴き声が聞こえてくる。
「フェニ?」
「おっ!来ましたね!」
店の入口を看板娘が開けると慣れたようにフェニが外から店内へと入ってきて目の前にあるカウンターの上へとスムーズに着地した。
コウはなんで先に出掛けたフェニがこんな肉屋にと思い首を傾げているとフェニもコウの存在に気づいたのか何故ここにいるのかといった感じで首を同じように傾げている。
偶然にも目的地が重なってしまったようだが、何故フェニがここを目的地としたのかは何となく分かる。
「あれ?君のテイムした子だったんだ」
「そうだけどもしかしてここに結構来てるのか?」
「う~んそうだね。ここ数日はこの時間にはいつも来てお肉を食べに来てるよ!」
やはりというかフェニはお散歩コースとしてここを選び、肉を貰って食べていたらしい。
どれくらいの肉を貰って食べていたのかは分からないが面倒を数日は見てもらっているので感謝としてなにか支払わないといけないだろうか。
「はぁ...なんかすまん。とりあえずフェニが食べた分の金を払う」
「えっ?いいよいいよ!寧ろこの子のおかげでお父さんが売上あがったって喜んでたし!」
食べた肉のお金を払おうとすると看板娘は両手と首を振り大丈夫だと断られてしまった。
「ウチの娘の言う通り金は払わんで良いぞ。この子に肉を食わせると美味しそうに食うから客が増えたんだ」
カウンター奥にある部屋から店主と思われる坊主の男が一塊の肉を持ち看板娘に同意しながら姿を表す。
どうやらフェニが美味しそうに食べてるのを他のお客さんが見て口コミが広がったおかげで店の景気が良いようだ。
「キュイ♪」
「今日も来たみたいだな。ほれ...今日も食ってけ」
坊主の男はナイフで一塊の肉から肉を少しだけ削ぎ取るとフェニにさし出す。
さし出された肉を嘴で受け取るとその場で啄みだし美味しそうに食べ始める。
「この街は良い人が多いかもしれないけど普通は貰わないんだぞ?」
「キュイ!」
(本当にわかっているんだろうか...)
元気よく返事を返してくれるが食べている肉に夢中なため、コウが言ったことをちゃんと理解しているかどうかは微妙なところである。
「フェニによくしてくれてありがとう」
「気にすんな。まぁ感謝するなら買っていってくれ」
「あ〜じゃあ金貨1枚分で見繕ってくれ」
「待ってな」
店主である坊主の男は机に置かれた金貨1枚を見ると笑みを浮かべコウに待ってなと一言伝えると再び裏の部屋へ行ってしまったので肉を啄むフェニを見ながら看板娘と雑談をして待つのであった。
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