(33)
すぐに学校へ戻る。
何ともアクティブな話だが、きっと凪はこの状況を早急に終わらせてしまいたいのだろうと推察した。
学校に戻ると既に放課後だった。
部活が盛んなシーズンでもなく、校舎に残る生徒もまばらである。
心配だった荷物だが、教室に戻るとそのまま置いてあった。ざっくりと調べてみると全て揃っているようだ。
これまでの経験から連中が何の細工も仕掛けないとは考え難いのだが……。
それを察したように凪が言った。
「何もない。それには触れさせないように命じてある」
命じる? 誰に? 担任教諭の命令にさえ背きそうな連中を制するってどういう命令だよ?
「放課後、この教室では三名の教員による臨時のミーティングが行われていた」
な、なに? その不自然な状況?
教員を配したことで生徒達を教室から追い出したということか。
「ミーティングは私たちがここに来る直前まで行われていた」
「作為にまみれたシチュエーションだな」
呆れて言うと「そんなことはどうでもいい」と彼女。
そりゃまあそうだけどさ。
気を取り直して図書館に足を運んだ。
該当する卒業アルバムを見れば手がかりが掴めるかもと考えたからなのだが、肝心の卒業アルバムが見当たらない。
考えてみれば個人情報のカタマリなのだから誰彼に閲覧させていいという代物でも無い。個人情報の取り扱いにうるさい昨今、卒業アルバムを図書館に置くのはリスクが高いということなのだろう。
しかしマナコの同級生とコンタクトが取れなければ調査もおぼつかない。
(これは困ったぞ)と考えていると、凪が学園史を差し出した。例の創立百周年に刊行されたものだ。
開かれたページを見ると二十八年前の記録だった。
「どういうことだ? マナコの自殺は三十年前だろ?」
「三十年前の二年生が卒業したのがこの年」
ああ、なるほど、そういうことか。
「へぇーこの年はオリンピックだったんだ」
年表を見ながら言うと「違う、そこじゃない」と彼女。
凪はページの一端を指差した。そこには「卒業生答辞 澄義松子」と記されてある。
澄義?
彰と同じ苗字?
「これは理事長」
「理事長?」
それはおかしくないか?
確かに理事長の苗字は澄義だが、それは結婚してからの筈ではないか。もしや松子婦人は高校生の身分で学生結婚してたのか?
「違う。婿養子」
は?
「つまり夫氏が理事長の家に婿入りしたと?」
「そう」
なるほど。まあ、それならば納得できる話である。
「しかし、よくそんなことを知ってるな」
在校の理事長の素性なんて大半の生徒には興味無いだろうに。
もちろん僕だって大したことを知っているわけではない。
前述の通り理事長は彰の母親である。夫である前理事長が国政に出馬した際、職を引き継いだのが夫人である。
まあ、この程度は誰でも知っていることだ。
「つまり理事長とマナコは同期生だったんだな」
凪が静かに頷いた。
ということは理事長に話を聞けば何かの情報を得られるかもしれないということか。
少し敷居が高いような気もするが、縁もゆかりも無い三十年前の同期生を見つけ出すよりもはるかに太い手蔓である。
「でも理事長って普段は学校に居ないんだろ?」
「理事長の本邸は鎌倉」
「かまくら?」
何だそれ?
「神奈川県」
いや、それくらい知っとるわっ!
「どうして神奈川に居るんだよ」
「選挙区での寄り合いに出席している」
なんだその生々しい話は。
つまり旦那氏の選挙区が神奈川というわけか。
「票固めは御内の基本活動というわけだ」
夫人が選挙運動の片棒をかつぐなんて当たり前の話だもんな。
しかし「違う」と彼女。
いやにはっきりと否定するんだな。
「自分のため」
自分のため?
まさか自分も政界に進出つもりなのか?
「そう」
生々しさがさらに増量した。
「しかしいくら何でも理事長について詳しすぎないか?」
「別に」
いやいや、普通の生徒はそんなものは調べようともしないと思うのだが……。




