(26)
自分の名誉の為に言っておくが僕は裸族では無い。
ましてやクラスメートの女子に自分の裸体を見せつけるような趣味は無い。
ただ、あまりの出来事に我を忘れて着衣を忘れていただけだ。
急いでガウンを羽織り背中を小さく丸めて、いそいそと元の部屋まで歩いた。ひたすら恥ずかしかったからなのだが、別に他に人がいる訳でもなし堂々としてれば良いのだ。
と、ドアを開けるとそこには知らない男が椅子に腰掛けているではないか。
「あ、すみません」
部屋を間違えたのかと思って慌ててドアを閉じようとすると、その男は薄笑いを浮かべて言った。
「ここは君の部屋だよ」
優しく甘い大人の美声だった。いかにも女が好みそうな声だ。
勝手に人の部屋に入っていた割には落ち着いているというか堂々としている男だった。まあ、ここは天津眼の家であってホテルじゃないのだから元々が僕の部屋と言う言い方はおかしい。僕の部屋でない以上、僕が「勝手に人の部屋に入った」と言うのは語弊があるのではあるが。
この家の住人かとも思ったが天津眼は一人暮らしと言っていたから、この家に出入りすることができる関係者といったところだろう。
男はすらりとした体型で背筋がピンと張っており一見するとスポーツ選手のようだった。しかし、顔は微笑んでいるものの眼光が鋭く、勝負師といった風情である。歳は三十前後といったところだろう。
「あなたは一体……?」
「シャツを届けに来たのさ」
「シャツ?」
「コンシェルジュだよ。少し前にアレから電話があってね。男性用のワイシャツが一枚必要だから持って来いと」
コンシェルジュ?
確か一流ホテルに居る案内人というか世話係のような人じゃなかったっけ?
「まあ、当たらずと雖も遠からずって所かな。語源はともかく、要望に何でも応える便利屋って意味では大差無い」
「はあ……そうなんですか」
「本職はもちろん違うけどね。しかし僕にはアレの言うことは聞いておかなくちゃいけないって不文律があってね。時々こうやって用事を仰せつかるのさ」
「えっと、その……アレというのは天津眼……さん……のことですよね」
多少、ぎこちなかったが、あわてて敬称を付けた。
男の口の利き方から察するに天津眼とは家族とか親類のような気がしたからだ。
「ああ、そうだよ。僕はこういう者さ」
男が名刺を差し出す。そこにはこう記されてあった。
「情報室主査 天津眼鶇」




