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「けれど、今回はかなり特殊なケース。マナコはあなたに取り憑こうとしている。そうなるとあなたの心が蹂躙されてしまう」

「つまり?」

「マナコがあなたそのものになってしまう」

「乗っ取られるってことか」

「取り憑きは一般的にはきつねきとも呼ばれる。狐憑きは、それまでの個体とかけ離れた言動を取るようになることで知られている」

「あれって精神病の一種を指すんじゃなかったっけ?」

「取り憑いたものが人間の霊で無い場合や、半化けの場合、人間らしからぬ言動を取る。端からみるとそれが錯乱状態に見える」

「なるほど」

「狐憑きは今昔物語集の巻代二十七に変化、怪異譚かいいたんが収められていて、そこに日本最古の記述がある。昔からポピュラーな怪異現象」

「日本最古って、今昔物語は作者も年代も不明だろ」

「平安時代末期なら最古の記述で差し障り無いと思う」

「そうなのか」

「そう」

 まあ、僕は専門家では無いので知る由も無ければ、知ったところでどうしようも無いのではあるが。

「しかし、どうしてマナコはお前の指示に従ったんだ。たたると言うと慌ててたようだけど」

「仇を打とうとする者が祟り神になってしまえば、仇が成立しなくなる。その時点で復讐は失敗する」

 はーん、なるほど。

 そういう理屈なのか。

 実際に復讐が成功するか失敗するかに関わり無く、仇を打つ者が仇になってしまっては仇打ちが成立しないという思考上の判断の問題なのだろう。僕がイジメに遭って、試合には大負けしていたにも関わらず勝負は五分だと言い張った、あの屁理屈と考え方は似たようなものだ。

 そんな屁理屈で、得たいの知れない何かが納得したというのも驚きではあったが、僕としては天津眼がそのような理屈をこねることに少なからず驚いた。

「ということは少なくとも完全に取り憑かれる危険性は無くなったということだな」

「そうとも言い切れない。彼女が業を煮やして短絡的な行動を取ればおしまい」

「そうなんだ」

「それに……」

「なんだ?」

「あなたが超常的な力に魅せられて籠絡すれば乗っ取られるに等しい」

 なるほどね。

 早い話が何も問題は解決していないということだ。

 特殊能力とか超常現象を操れるようになったら楽しそうだもんなぁ。

「マナコが半分識神化しているのが少し厄介。ただ取り憑いているだけならばはらえばすむ話。しかし今の状態で祓えば恐らくあなたが持たない」

「持たないとは?」

「身体的、精神的に大きな支障を来す」

「それは取り返しが付かないレベルの話なのか?」

「そう」

 その結果はあまり考えたくないな。

 考えた所で時間の無駄だろうし、考えない方が賢明というものだろう。

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