(21)
「もう起きていい」と天津眼が言った。
いや、さっきから起きてるのだが……、いや起きてないのか?
僕は閉じていた目を開いた。
肉体の失調感が急速に消えていくのが分かる。感覚が戻っているのだ。
僅か十秒程度で普段通りの感覚に戻った。
とはいえ、今、目の当たりにした光景に感化して立ち上がることすら出来ない。
放心状態という奴だ。
「大凡のことは解った」と彼女。
「あれは識神」
「シキジン?」
「式鬼、式神と呼ぶ者もいる」
「式神ってのは聞いたことあるな」
「でも、さっきのものは成り損ない」
「なりそこない?」
「本来、識神は人に取り憑く類のものではなく、手順を踏んで呼び出すもの」
呼び出す? 神をか?
「この世ではない神域から召喚すると考えればいい。その為には手順や決まりがあって、呼び出す者と呼び出される者の間にはある種の契約が交わされる」
なんだか現実離れした話になってないか?
そりゃあ、さっきの光景を見た時点で、いや自分の胸で黒い影が踊っていた時点でフィクションの世界だとは思ってはいたさ。
だけどあまりの非科学ぶりに僕は脱力してしまった。
ゲームの召喚獣じゃないんだし、この世じゃない所から召喚すると言われてもにわかには信じ難いじゃないか。
「それらは現実を真似て作られている。だから概念が同じなのは当たり前。西洋的では使い魔と看做すのが一般的。日本では陰陽道が最も有名」
「陰陽道ってのは聞いたことはあるな。いや、でも、どうしてわざわざそんなものを呼び出す必要がある?」
「よくある話。禍を持って祟るのが呪詛、願いが叶うよう意思を届けるのが祈祷。神殿や霊殿にお参りするのは日本では一般的な行為だから」
ああ、なるほど。
確かに神仏を拝むのは日常茶飯事だし、その理由は願掛けのような所もあるからな。それだって形式としては神様を召喚してるいるようなものだ。一般的と言われればそういうことはあるのかもしれない。
「だけど、あなたに取り憑こうとしたものは、召喚したものではなく、ある条件が重なってそれに近い状態で変化したもの」
「へんげ?」
「そう。恐らく、その場にいた地縛霊があなたの精神に感応した。感応というよりも同調や共鳴といった方が近いかもしれない」
「どうしてそういうことが起こる? 霊と共鳴するほど僕の霊感は強くないと思うんだけど」
「二人には共通項がある」
「共通項?」
「どちらもイジメにあっていた」
「あ……」
僕は言葉に詰まった。




