(20)
見ると黒髪で細面の美人だった。そいつは不敵に笑いながら座っている僕を見る。なまじ、美人なだけにその不自然な笑みの歪さが際立って見えた。
そしてそいつは――自らをマナコと名乗った者は――それまでの滑舌の悪さが嘘のように滔々と喋った。
「でも、もう大丈夫。私がこの人を助けたの」
そう言って眼を細めて座っている僕を見つめる。
「…………」
何故だか天津眼は返事をしない。
「だから私は自由。手も足も眼球だって動かすことが出来る」
そこでマナコは天津眼に向き直ってこう言った。
「私は復讐する。嘘で塗り固められた歴史を壊してやる。そうして全てを覆す。全部、暴いて復讐してやる!」
激しい口調だった。
歳の頃は僕らと大差は無いであろう黒髪美人の口から、「復讐」などと聞かされるのはあまり気分の良い話では無い。事の異様性は差し置いたとしても、彼女の言葉の異様性で身の毛がよだちそうだ。
しかし天津眼は相変わらず顔色一つ変える様子も無い。
ただ淡々とマナコに語りかけた。
「あなたがこの人を助けた?」
「そうよ、私はこの人を助けたわ」
「でも彼は誓約を行ってはいない」
「…………」
「あなたは喚び出されていない」
「……でも助けたわ」
「あなたは祟りたい?」
「いや……だって……それは……どうして?」
それがどういう意味合いのネゴシエーションなのか僕には知る由もないが、マナコが明らかに動揺しているのは分かった。
むしろ一本調子で感情に抑揚の無い天津眼の方の凄みが増すように感じられた。
「あなたの望みは復讐すること」
「……そうよ」
「わかった。裁定は行わない。誓願は叶える。代わりに弁えて」
「でも……それは」
どういう訳か女は怨めしそうに座っている僕を見た。
「もう一度だけ言う。弁えなさい」
天津眼の言葉が命令調になった。口調も表情も相変わらずだった。しかし、そこには相手を圧倒させるだけの何かがあった。これに比べれば時折、彼女が教室で見せる威圧感などまるで子供の虚勢のようなものだ。
随分と長い沈黙の後、マナコは諦めたように弱々しく言った。
「……分かった」
返事をすると彼女は出現した時と同じようにいつの間にか居なくなっていた。一瞬前までは居た筈なのに、いつの間にか居なくなっていたのだ。




