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 私立四稜ヶ原学園は県内でも有数の名門校として名を馳せている。地元で知らない者は皆無だし、四矢がデザインされた校章は他校からの羨望の的でもあった。

 名立たる大学への進学率が高いのは勿論のこと、人間教育にも力を注いでいると話題にされることも多く、実際輩出される卒業生の多くは後に政財界の主要なポストに就く例が多い。もっともこれにはカラクリ……というには大げさだが説明が付く理由はあった。元々、名家の世継ぎが多く集う学校なのだから、後々、彼らが社会の中枢に行くのは当たり前なのだ。しかし対外的には「さすがは名門校」ということになるのだろう。

 その点、僕などは平民の出自だし、人間教育なんて単語を聞いただけで眉唾だと思ってしまうクチだから今ではここに編入したことを深く後悔している。出来ればすぐにでも転校したいと考えている。

 僕はこの学校が大嫌いなのだ。

 なぜなら僕はこの学校でイジメに遭っているのである。

 のっけから暗い話で申し訳なく思うが、そこを語らなければこの話は紡げない。だからこの暗い話に少しばかりお付き合い願いたい。

「イジメはいじめられる方にも問題がある」などと、したり顔でのたまう大人がいる。そういう的外れな論調がいじめる側を増長させているという事実を連中は解らない。

 知らないのではなく理解しない。

 リアリティを持たないのだ。

「イジメの標的にされる理由」なんてものは、いじめる側が勝手にでっち上げてしまうものなのである。

 いや、状況によっては理由なんか無くてもいいのだ。

 僕自身が良い例だ。

 たとえば、僕の理屈っぽい性格が疎まれるということはあるのかもしれない。理屈屋だし大抵の論戦では負けない自信がある。いじめを働くような短絡的な思考の奴から見れば、それは不快な存在なのかもしれない。けれども、似たような性格の奴は僕の他にも大勢いる。特にこの学校はその類の連中が全域から集まって来る巣窟なのだ。一言居士どころか、二言居士や三言居士さえもウヨウヨと居そうな気配だ。そう考えると、むしろ僕なんかはまだ協調性がある方だと思う。空気を読める自負はある。

 ――他には?

 僕の名字は少し変わっている。字は簡単なのだが読み方が普通では無いのだ。その事で小学生の頃にからかわれるようなことはあった。しかし、さすがに高校生ともなるとそんな幼稚なことをあげつらう奴は居ない。そんなことをすれば、むしろ自分の幼稚さを露呈させるだけだろう。

 ――もっと他には?

 問題とされそうな身体的特徴が一つある。

 僕は背が低い。クラスの男子で最も低い。学年でも一、二位を争うだろう。でも、だからと言って僕は自分を卑下したりはしない。体が小さいということはそれだけ小回りが効くということなのだから、その利点を最大限に活かしてスポーツもこなしてきた。バスケとサッカーなら、高速ドリブラーとしての地位を確保していたし、中学生の頃はクラブから熱心に勧誘されていたくらいなのだ。だからこれも、イジメの直接的な理由では無いと思う。

 それでも僕はイジメにあっている。

 これは純然たる事実だ。


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