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 それにしても広い。

 教室が丸々二つは入りそうだ。しかも部屋はここだけでは無いようで、奥を見ると左右に別れた通路とおぼしきものが見える。

 もしやと思って聞いてみた。

「まさかこの階の丸ごとがお前の家なのか?」

 黙って天津眼が頷く。

「すごいな、親父は頭取とうどりか何かか?」

 皮肉半分、冗談半分で言ってやったんだが、彼女は「違う」とそっけない。そういえば、プライバシーに興味を持たないってのが条件の一つだったな。

 まあ、確かにこんな部屋に住むようなセレブともなればセキュリティに細心の注意を払う必要があるのかもしれない。

 おいそれと個人情報を漏らすようなことは無いってか。

 家族の姿が見えないようだが誰も居ないのだろうか?

 こういう成り行きではあるが端から見ると僕は家にお呼ばれされていることになるだろうし、彼女の男友達的なポジションに見られるのではないだろうか?

「家族に挨拶とかいいのかな?」

 妙な緊張感を抱きながら尋ねると「居ない」と彼女。

「え? ああ、出かけてるんだ」

「違う。一人暮らし」

 一人暮らし? このだだっ広い空間にか?

「そう」

 軽く目まいがした。

 どこの世界にタワーマンションのフロアを丸ごと借り切って(又は買い取って)一人暮らしをする女子高生がいるのかっていうんだ。

 つくづく意表をついてくれる奴である。

 今日一日、というよりこの一時間ちょっとばかりで僕は一体こいつに何度驚愕させられたのだろう。何というか、まさに「規格外」で「掟破り」なやつだ。この様子だと、まだサプライズの打ち止めには、ほど遠いに違いない。きっと「予期しない」とか「奇想天外」とか「突拍子もない」とか「驚天動地」とか「我が目を疑う」とか、そういう名詞だか名詞的形容詞のオンパレードになるんじゃないだろうか。

(持つかなぁ、僕の神経……)

 実を云えば僕も一人暮らしをしていた。

 一年ほど前、仕事の都合で母親が海外に行くことが決まり、それから僕は一人で暮らすようになった。部屋はロフト付きのワンルームだ。一般的にはそれだって高校生にとっては身分不相応な贅沢だと思う。それが小市民の感覚とってやつだ。

(まあ、いい)

 天津眼のプライバシーに関しては踏み込まないという約束だ。下世話な詮索は止めておこう。

「こっち」と促す彼女。

 そこは奥まった所にある廊下の一番手前の部屋だった。廊下はずっと先まで続いている。フロア丸ごととなると、どのくらいの広さになるのだろう。少年野球のグラウンドくらいは軽く入りそうな気がした。

 案内されたのは、さしずめゲストルームといった雰囲気の部屋だった。生活臭を感じさせない、まるでホテルの部屋のようだ。

「バスルームがあるからシャワーを浴びてガウンに着替えておいて」

 僕は少しどぎまぎした。

 少しばかり変わり者とはいえ天津眼は同級生なのだ。同級生の女の子から、シャワーを浴びてガウンに着替えるように懇願(指示されただけなのだが、ここは脳内で脚色してみた)されるとはなんて非日常的なんだろう。しかし今さら逆らうつもりは無い。黙って言う通りにしよう。

 「十五分で迎えに来る」

 彼女はそう言って部屋を出ていってしまった。

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