915話 お願い
カシメ町の門には、不機嫌そうな表情の女性がいた。
「こちらに冒険者ギルドのカードか商業ギルドのカードを載せて下さい」
女性が指したのは、10㎝ほどの正方形の箱。
おそらく素性を調べるマジックアイテムだろう。
「はい」
商業ギルドのカードを出すと、マジックアイテムに載せる。
白く光ったのを確認した女性が、厚さ1㎝の木の板を差し出した。
「こちらが許可証です。紛失にはご注意下さい」
「はい。ありがとうございます」
チラッと女性を見ると、なぜか顔を歪めていた。
えっ、私が何かしたのかな?
「ローナ。笑顔で対応しないと駄目だろうが」
不機嫌な表情の女性はローナさんというのか。
そのローナさんに注意をした男性に視線を向けると、呆れた表情で彼女を見ていた。
「黙って……二日酔いで頭が痛いのよ。だいたい、今日は休みのはずだったのに! いたたっ」
あっ。
「二日酔いか」
隣にいたお父さんが、呆れた様子で呟く。
「悪いって。あいつが急にいなくなったから」
「見つからないの?」
「あぁ」
今日の当番の人がいなくなって、休みなのに出て来るはめになったのかな?
大変だな。
「はぁ。あっ、すみません。ようこそカシメ町へ」
女性が私達に気付くと、気まずそうな表情をする。
男性も、ハッとした表情をしたあと申し訳なさそうな表情になった。
目の前にいたんだけど、忘れ去られていた様だ。
「お邪魔します」
ちょっと頬をひきつらせたラットルアさんがカシメ町に入る。
その後に続くと、前を歩くラットルアさんお肩が揺れ始めた。
「あれは、笑っているな」
お父さんの言葉に頷く。
「そうだね」
あっ、ヌーガさんに肩を叩かれている。
あれは痛そう。
というか、子供達が真似してる。
可愛い。
「あっ、お父さん。子供達はカードがなくても入れるの?」
ラットルアさんと遊んでいる3人の子供達を見る。
「ラットルアが門番に事情を説明していたから大丈夫だ」
ローナさんとは別の門番さんに対応してもらったのか。
門からカシメ町の中心に向かって大通りを歩く。
あれ?
何処に向かっているんだっけ?
「ドルイド、アイビー」
ヌーガさんが立ち止まって振り返る。
「どうした?」
ヌーガさんが、少し離れた所を歩いていた2人の男性に視線を向ける。
「こいつ等を自警団に連れて行く。ドルイド達は、子供達の父親に会いに行くんだろう?」
「あぁ、そのつもりだ」
お父さんが私を見るので頷く。
まずは、子供達を安心させてあげないとね。
「俺も子供達と一緒にいようと思うが、ヌーガは1人で大丈夫か?」
ラットルアさんが少し心配そうにヌーガさんを見る。
それに笑って頷くヌーガさん。
「問題ない。それより子供達の父親は何処にいるんだ?」
「大通りに面している病院にいると確認した。あっ、あそこだ」
ラットルアさんが指した方を見ると、大きな建物が見えた。
「なんだ、自警団の建物から近いな。自警団はこっちだ」
ヌーガさんが病院とは反対の場所を指す。
そちらを見ると、病院より大きな建物があった。
「正面か」
お父さんが少し驚いた表情をする。
確かに、こんなに近いとは思わなかった。
「こいつ等を渡したらすぐにそっちに行くから」
「あぁ、あとで」
ヌーガさんが、2人の男性を連れて自警団の建物に向かう。
それを見送ると、子供達のお父さんがいる病院に向かった。
病院に入ると、多くの人が走り回っていた。
それにお父さんが首を傾げる。
「何か様子が変だな。何かあったのか?」
ラットルアさんの言葉に、心配そうな表情をする子供達。
「皆、アイビーの傍に」
子供達が私の傍に集まって来ると、ラットルアさんが笑う。
「お父さんのいる部屋を聞いて来るから、ここで待ててくれ」
子供達が頷いたのを確認したラットルアさんは、受付と書かれた札が下がっているテーブルに向かう。
しばらく受付にいる男性と話をしたラットルアさんは、神妙な表情で戻って来た。
「どうした? 父親に何かあったのか?」
「いや、父親は問題ない。部屋は3階だ。この状態なのは、飲み屋で爆発があったらしい。怪我人が多数出ているそうだ。もう少ししたら怪我人がくるそうだから、ここにいたら邪魔になるな。3階に行こうか」
ラットルアさんの説明にお父さんが頷くと、怪我人が来る前に3階へ向かう。
扉に掛かっている札の名前を確認していたラットルアさんが、ある部屋の前で止まると扉を叩いた。
コンコンコン。
「失礼します。グルーフさんはいますか?」
「どうぞ?」
男性の少し緊張した声が聞こえると、ラットルアさんが扉を開けた。
「あっ」
グルーフさんはベッドの上から子供達を見ると、目を大きく見開く。
そしてぽろぽろと涙をこぼした。
「「「お父さん」」」
子供達がグルーフさんの下に走って行く。
彼は、子供達がベッドに乗り上げるとギュッと抱きしめた。
それを見てホッとした。
グルーフさんは、全身に包帯が巻かれていて顔色も悪い。
でも、子供達を抱きしめる力はある。
だからきっと大丈夫。
「ありがとうございます」
しばらくすると、グルーフさんがラットルアさんとお父さんに向かって深く頭を下げた。
「頭を上げて下さい。それより体の方が大丈夫なんですか?」
ラットルアさんの言葉に、グルーフさんが頷く。
「はい。剣に何か塗ってあったのかポーションの効きが悪かったんです。でも傷は塞がりました。血を多く流したので、まだ少しふらつきますが少しずつ改善されるそうです」
「そうか。それなら安心だな」
ラットルさんが嬉しそうに笑うと、子供達の頭を順番に撫でた。
「良かったな。お父さんは元気なるぞ」
「うん、うん。良かった」
少し心配そうにグルーフさんの話を聞いていた一番年上の男の子が、嬉しそうに何度も頷く。
「あの……こんなお願いはおこがましいのですが」
グルーフさんが真剣な表情で、ラットルアさんとお父さんに視線を向ける。
「私の体がもう少し回復するまで、子供達をお願いできないでしょうか? 子供達に掛かった費用と面倒を見て頂いた費用はお支払いします。どうか、お願いします」
深く頭を下げるグルーフさんに、子供達が戸惑った表情をする。
ラットルアさんとお父さんも、少し困惑しているのが分かる。
「カシメ町に知り合いはいないのか?」
「います。ただ今は行方が分からないそうなんです」
ラットルアさんの質問に、グルーフさんの表情が曇る。
グルーフさんの言葉に首を傾げる。
カシメ町の門番さんも行方が分からなくなっていたよね?
何だろう?
凄く気になる。
「カシメ町の自警団員からは、面倒を見てくれる場所があるから大丈夫だと言われました。でも、どうも不安で」
「俺はいいけど、ドルイドは?」
「俺も特に問題はないな。アイビーは?」
「いいよ。でもジナルさん達はどうかな?」
私を見てラットルアさんが笑う。
「絶対に大丈夫だと思うぞ。ジナルもセイゼルク達も子供が好きだから」
「ありがとうございます」
深く頭を下げるグルーフさん。
子供達もグルーフさんと同じ様に頭を下げる。
「お父さんがもう少し元気になるまで一緒にいような」
ラットルアさんの言葉に、子供達が笑顔になる。
それを見たグルーフさんが、ホッとし表情になった。




