913話 カシメ町へ
自警団の人達の姿が見えると、オグート副隊長さんが片手を上げた。
「こっちだ」
自警団員の数は5人。
オグート副隊長さんが5人を紹介してくれるので、ソラ達の入っているバッグに手を当てながら聞く。
紹介が終わると、馬車の中を確認しだした自警団員さん達。
邪魔にならない様に、彼等から少し離れる。
「どうだった?」
お父さんの質問に首を横に振る。
バッグは一度も揺れなかった。
「1人か」
「そうだね」
ここにいる裏切り者は1人。
それにちょっとホッとする。
自警団員に裏切り者が沢山いたら、オグート副隊長さんもジナルさんも大変になるからね。
ジナルさんが少し心配そうな表情で私達の下へ来る。
「1人だった」
「そうか」
ホッとした表情をしたジナルさんは、タブロアさんを見た。
「どうした、悩みか? もしかして奴と知り合いか?」
「いや、違う。ただオグート副隊長の様子を見る限り、ずいぶんと信頼しているみたいだから。どう説明すべきかと思ってな」
ジナルさんが溜め息を吐く。
そんな彼の肩をお父さんが軽く叩いた。
「とりあえず、黙っていた方がいいと思う。証拠を掴まない限り、オグート副隊長は納得しないだろう。下手な事を言うと、こっちを疑いそうだ」
「まぁな。あ~、悪い。ややこしい問題に首を突っ込んだみたいだ」
「巻き込まれるのは、慣れてるから気にするな」
お父さんのちょっと疲れた表情に、私もきっと似た表情だろうなと思いながら頷く。
「そうだな。しかし教会が潰れたから、もう大丈夫と思ったのにな」
ジナルさんの言葉に、お父さんと私が同時に溜め息を吐いてしまった。
「ジナル」
セイゼルクさんが、私達の元に来るとオグート副隊長さんの方を指す。
「捕まえた奴等の確認が出来たから、根城に連れて行くそうだ」
セイゼルクさんの言葉に、ジナルさんが眉間に皺を寄せる。
「わざわざ根城に? このままカシメ町に行った方が近いと思うが?」
「俺とシファルもそう言ったんだけど、補佐のタブロアが考えを変えなくてな」
タブロアさんが?
「オグート副隊長の意見は?」
「タブロアの提案に意義はないらしい。少し不思議そうな表情はしていたけど」
タブロアさん、何かするのかな?
捕まえた者達を使って?
それとも、彼等の仲間がまだいるとか?
「セイゼルク、ちょっと」
ジナルさんとセイゼルクさんは私達から少し離れると、小声で話し始める。
なんとなく周りを見ると、タブロアさんがこちらを見てる事に気付く。
慌てて視線を逸らしそうになるのを、ちょっと笑って小さく頭を下げる事で押さえる。
「こっちが気になるみたいだな」
タブロアさんからお父さんに視線を向ける。
「そうだね」
誤魔化せたかな?
あそこで、慌てて視線を逸らすと意識していると言っている様なものだからね。
「大丈夫だったかな?」
「大丈夫。問題ない」
ジナルさんとの話が終わったセイゼルクさんは、私の傍に来るとソラ達が入っているバッグを見る。
「凄いな」
ソラの事だよね。
「うん」
「ジナル。俺とアイビーは子供達を連れて先にカシメ町に向かうよ」
「そうだな。子供達は別行動の方がいいだろう」
ジナルさんは頷くと、オグート副隊長に話して来ると言って彼の下に向かった。
「セイゼルク。子供達はラットルアに懐いているから、彼にも一緒に来て欲しいんだけど、良いかな?」
セイゼルクさんは、お父さんの話を聞くとラットルアさんに声を掛けた。
「何? どうしたんだ?」
不思議そうな表情でラットルアさんが来る。
そんな彼の背で、女の子が眠っていた。
あれ?
男の子達は?
あっ、ヌーガさんが2人を抱っこしてる。
「ヌーガも一緒の方がいいみたいだな」
「何の話だ?」
お父さんの呟きに、ラットルアさんがヌーガさんに視線を向ける。
「ドルイドとアイビーが、子供達を連れて先にカシメ町に向かおうかと話しているんだ」
「あぁ、それは良いな。子供達が根城に行く必要はないから」
ラットルアさんは、おぶっている女の子に視線を向ける。
「お父さんにもなるべく早く会わせてあげたい。心配しているから」
セイゼルクさんも女の子に視線を向けた。
「ラットルアも子供達と一緒にカシメ町に行ってくれ」
「分かった。カシメ町に着いたら、この子達のお父さんのところに送り届けるよ。怪我の状態も知りたいし」
「そうだな」
「俺も一緒にカシメ町に行こう」
ヌーガさんの両腕には、男の子2人。
よく見ると、2人とも彼の肩に顔を預けて眠っていた。
「分かった」
「セイゼルクは根城の方に?」
ヌーガさんが、自警団員達を見る。
それにセイゼルクさんが頷く。
「うん。何かあった時に、ジナルだけでは心配だからな。俺とシファルが着いて行く」
「分かった。気を付けて」
ヌーガさんは、セイゼルクさんの話を聞くと少し首を傾げた。
傍に似るラットルアさんも、不思議そうにセイゼルクさんを見る。
「話はついた。ここから二手に分かれて行動する」
ジナルさんが私達の下に来ると、少し声を潜めた。
「奴が少しごねた。何かあるかもしれないから気を付けてくれ」
奴とはタブロアさんの事だよね。
「分かった」
ジナルさんとお父さんの会話に、ラットルアさんとヌーガさんの表情が険しくなる。
自警団員に問題があると気付いたみたい。
「今から、カシメ町に向かうよ。ラットルアとヌーガも問題ないか? えっと子供達はこのまま?」
「あぁ、そうとう疲れているんだろう。全く起きる気配がないんだ」
ヌーガさんが少し体をゆするが、確かに起きる気配はない。
「分かった、荷物は持っているな。では、俺達はすぐに出発する」
お父さんの言葉にジナルさんが頷く。
セイゼルクさんは、自警団の方を窺いながら頷いた。
「行こう」
お父さんを先頭に、カシメ町に向かう。
こちらの様子を見ていたタブロアさんが、一瞬だけ顔を歪めたのが見えた。
「奴か」
「そうみたいだな」
後ろから聞こえる冷たい声に振り返ると、ラットルアさんもヌーガさんもかなり険しい表情になっていた。
タブロアさんや自警団員が完全に見えなくなると、ヌーガさんが私の隣に来る。
「アイビー達は知っていたのか?」
「ソラが教えてくれたから」
「そうか。さすがソラだな」
後ろを歩くラットルアさんが楽しそうな声に、ちょっとホッとする。
さっきの彼は怖かったからね。
ヌーガさんも少し落ち着いてくれたみたい。
良かった。
「気を引き締めて行かないとな」
「にゃうん」
ヌーガさんの言葉に答える様に、シエルの鳴き声た聞こえた。
気配を感じないので、傍にいる事に気付かなかった。
ヌーガさんとラットルアさんが立ち止まり、慌てて周りを見回している。
「上だ」
お父さんの視線を追うと、太い枝の上にシエルがいた。
「シエル」
「にゃうん」
シエルは音もなく枝から下りると、私の傍に来る。
「一緒にカシメ町に行こうか」
チラッと子供達を見るが、起きる気配はまだない。
少しぐらい一緒に行動しても大丈夫だろう。
「にゃうん」
嬉しそうに鳴くシエルの頭を撫でると、ゴロゴロと喉の鳴る音が聞こえた。
カシメ町まで、何も起きないといいな。
ラットルアさんにヌーガさん、それにシエル。
襲ってきた人は、無事ではいられないだろうから。




