912話 えっ、もう?
「子供達の父親が無事で良かったよ。ところで、カシメ町にいるアーファンを知っているか?」
ジナルさんを見ると、笑顔だけどどこか警戒している様子が分かった。
それに首を傾げる。
何を警戒しているんだろう?
そっと肩から提げているバッグを触る。
ソラは反応していないよね?
「アーファンって、あのアーファンの事か?」
自警団が驚いた表情でジナルさんを見る。
「そう」
「俺は、アーファンの知り合いだ。元気だが、少し問題を抱えているみたいだ」
「そうか」
「ジッカ、ルトー。仲間に救出予定の子供達は無事だと報告を。あと馬車の中に捕まえた者達がいるから、見張り役を手配してくれ」
「「分かりました」」
自警団員の2人が元来た道を戻る。
その姿を見ていた残った自警団員がジナルさんを見る。
「まさか『風』の方が、あっ……いえ。なんでもないです」
自警団員が少し焦った様子を見せるので首を傾げる。
それに話し方がさっきまでと違う。
「大丈夫。彼等は俺が属している組織について知っているから。それよりカシメ町で起こっている問題ってなんだ?」
んっ?
ジナルさんが属している組織って、教会を潰した組織の事だよね?
もしかしてこの自警団員も仲間なの?
「アーファンは仲間内の合図か」
セイゼルクさんの言葉にジナルさんと自警団員が頷く。
「そう。彼が組織の人間に助けを求めていたから」
ジナルさんの言葉に、自警団員を見る。
いつ、ジナルさんに助けを求めたんだろう?
「彼等だけに通じる合図があるんだろう」
不思議そうに自警団員を見ていると、お父さんがそっと教えてくれる。
「なるほど。お父さんは、なんだと思う?」
「ん~、服は自警団員で全員同じだし。行動か?」
自警団員と会ってからの行動を思い出すけど、特に違和感はない。
「分からないね」
「そうだな」
「悪いな。それは教えられないんだ」
お父さんと私を見て笑うジナルさん。
「分かってる。ただ、気になったから考えていただけだ」
お父さんの言葉に頷く。
別に暴きたいとは思っていないからね。
「それで、カシメ町で何が起こっているんだ?」
ジナルさんが自警団員を見ると、彼は真剣な表情になる。
「教会の関連施設の調査で多くの者は捕まえたのですが、要注意人物の3人に逃げられました。その彼等が『教会上層部が探していた鍵』を本格的に探し始めたんです」
「鍵?」
ジナルさんが首を傾げると、自警団員が神妙な表情になる。
「はい。どうやら教会上層部の者達が教会の崩壊前に探していた様で、その鍵を見つけたら教会の隠し資産を手に出来ると言われています。どこまでが本当の情報なのか不明なのですが。逃げ出した3人は、教会が隠した資産を手に入れようと動き始めたんです」
教会の隠し資産。
想像だけど、凄い資産がありそう。
「その3人の居場所は?」
「それが完全に姿を消してしまって、今どこにいるのか分かっていません」
「全く分からないのか?」
「はい。森に出たのか、カシメ町のどこかで身を潜めているのか」
居場所が分からないのは、怖いな。
何をし始めるか分からないもんね。
「それがカシメ町の問題か?」
「いえ、問題は自警団です。彼等の中に裏切者がいます。そのせいで3人を見失った可能性があるんです。組織の仲間に自警団員を調べてもらっていますが、なかなか証拠が掴めず。2日前、仲間の1人が大怪我を負いました。どうやら自警団の誰かに切られたみたいです」
自警団員の表情に怒りが浮かぶ。
仲間を切られたら、怒って当然だよね。
それにしても自警団の裏切者か。
仲間を裏切って、何を得られるんだろう?
「あ~、それは最悪だな」
セイゼルクさんが険しい表情をする。
シファルさん達も、彼の言葉に頷いている。
「あぁ、オトルワ町も確か……」
ジナルさんが言葉を濁すと、セイゼルクさんが肩を竦める。
「自警団だけでなく冒険者からも裏切り者を大量に出したな。嫌な記憶だ」
セイゼルクさん達は、あの時に多くの仲間を失ったんだよね。
裏切った冒険者の中に、彼等が面倒を見ていた者達もいたと聞いた。
悲しくて、苦しかっただろうな。
「怪しいと思われる者はいるのか?」
ラットルアさんの言葉に自警団員は首を横に振る。
「まだ何も出て来ていません。家庭内の問題やお金の問題を抱えている者もいますが、調べた結果『問題無し』となりました」
「カシメ町にいる仲間に会ってから、調査に参加するか決めるよ。こちらも色々と予定があって、絶対に手を貸すとは言えないんだ」
「分かりました。ですが、協力を頂けると助かります」
んっ? 予定?
そんな重要な予定は、なかったよね?
ジナルさんを見ると、自警団員とこれからの事について話し始めている。
「お父さん?」
予定とは? という気持ちを込めてお父さんを見る。
「彼の言っている事が本当なのか見極める時間を稼ぐためだろう。あとは、俺達に相談する時間かな」
自警団の人が嘘を言っている可能性があるからか。
「お父さん、反応はしてないよ」
お父さんが、ソラ達の入っているバッグを見る。
頷くと、ポンと私の頭を撫でた。
「副隊長、どこですか?」
木々の間から、男性にしては少し高めの声が聞こえた。
「こっちだ」
自警団員は副隊長だったんだ。
あっ、そう言えば名前を聞いてない。
「いた! あぁ、良かったです。森で迷子になりそうになりました」
あれ?
ソラ達が入っているバッグを見る。
今、揺れた?
「大丈夫か?」
「はい。えっと、こちらが子供達を助けた冒険者の方達ですか?」
「あぁ、そうだ。彼はって、俺の自己紹介もまだだったな。俺はカシメ町自警団副隊長のオグート。こっちは俺の補佐をしてるタブロアだ」
「初めまして、オグート副隊長の補佐をしているタブロアです」
ソラ達のバッグが揺れる。
ははっ、さっそく裏切者を見つけたね。
お父さんの服を掴むとそっと引っ張る。
「んっ? えっ?」
私を見たお父さんが目を見開く。
そして補佐のタブロアさんを見ると、もう一度私に視線を向けた。
「うん」
頷きながらソラ達が入っているバッグを見る。
「さすがだな」
小声で呟くお父さんと私の様子に、傍にいたシファルさんが溜め息を吐く。
「どうした?」
ヌーガさんの言葉に、シファルさんが首を横に振る。
「なんでもないよ。それより、馬車の中にいるゴミをとっととカシメ町に届けよう。いい加減、声が鬱陶しい」
「ははっ、申し訳ないです。今仲間がこちらに向かっているので、もう少しだけ待ってください」
タブロアさんが馬車に視線を向ける。
「えっと、あれはうめき声ですか?」
馬車から聞こえる声に、タブロアさんが少し戸惑った表情を見せる。
「そうです。悪夢でも見ているんでしょう」
シファルさんの言葉に不思議そうな表情をするタブロアさん。
今の表情や態度からは、裏切り者だなんて思えないよね。
「あっ、来ました」
タブロアさんの言葉に、シファルさんとお父さんがそっと武器に手を掛けた。
ジナルさんがそれに気付き、お父さん達を見た。
シファルさんがジナルさんに向かって、笑みを見せる。
それに顔を引き付かせるジナルさん。
そしてタブロアさんを見て溜め息を吐いた。
凄い、今のやり取りで気付いたの?
シファルさんを見る。
あぁ、確かにこれは気付くね。
笑っているのに、もの凄く冷たい目でタブロアさんを見てるから。




