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911話 遠回り

森から響く悲鳴が止まりしばらくすると、ジナルさん達が戻って来た。


「「「おかえり」」」


「ただいま。子供達は大丈夫か?」


「うん。今は眠っているよ」


私の視線の先には、ラットルアさんの傍で眠る3人の姿。

ジナルさんはその姿を見て、安心した様に笑った。


「奴等は?」


お父さんの言葉に、シファルさんが楽し気に笑う。


「全員捕まえて、馬車に放り込んだよ」


馬車に15人?

いや、あとから来た女性と馬車を運転してた御者(ぎょしゃ)も入れると17人?

森の中を走る馬車は、それほど大きくないはず。


「えっ。入るの? もしかして、馬車が大きかったとか?」


「馬車は2人用で小型だ。積み重ねれば入るぞ」


あっ、声に出てたみたい。

というか、思っていたより小型の馬車だ。


シファルさんを見る。


「積み重ねて乗せたの? 2人用の馬車に?」


小さな空間に17人を……うわっ。


「あぁ、そうしないと入らないだろう?」


それはそうだけど。

一番下の人は、そうとう苦しいだろうな。


「ドルイドとアイビー、それにラットルアに相談があるんだ」


ジナルさんを見ると、マジックバッグから地図を取り出した。


「奴等を捕まえたらカシメ町に行く予定だったが、ちょっと遠回りをしたい」


遠回り?


ジナルさんが地図上のある場所を指す。

ただその場所には何も無く、首を傾げる。


「奴等の話によれば、ここに根城があって7人の仲間が待機しているそうだ。そして攫って来た子供が4人いると聞いた。俺は、その子達も助け出したいと思っているんだ。いいか?」


「もちろん」


お父さんの言葉に頷く。


「俺もいいぞ」


子供たちに囲まれた状態のラットルアさんも当然と頷く。


「ありがとう。えっと、どうしようかな?」


ジナルさんが困った表情で子供たちを見る。

それに、ラットルアさんが笑う。


「この子達は強い子だよ。だからちゃんと説明してあげて欲しい。大丈夫だから」


ラットルアさんがそう言うと、子供たちをそっと起こす。

子供たちはジナルさん達に気付くと、ギュッとラットルアさんの服を掴んだ。


「大丈夫だ。よく見て」


「あっ、俺達を助けてくれた人達だ」


一番年上の男の子の言葉に、ジナルさんが笑って頷く。


「あぁ、君達に悪い事をした者達は全員捕まえたからな。もう大丈夫だ」


「うん、ありがとうございます」


ちょっとだけ嬉しそうに笑った男の子は、弟と妹をギュッと抱きしめた。

少しその様子を見た後、ジナルさんがこれからの予定を話す。


「根城には、確かに4人の子供たちがいます。4人とも買い手がついていると、言ってました。根城の奥にある小さな馬車が俺達と4人がいた場所です」


男の子の話にジナルさんが頷く。


「貴重な情報をありがとう。助かるよ」


ジナルさんの言葉に、男の子が少しほっとした様子を見せた。


「あの子達も助けてくれるの?」


話をしていた男の子とよく似た子が、ジナルさんを見る。


「もちろん」


ジナルさんがそっと男の子2人の頭を撫でた。


「作戦は?」


シファルさんの言葉に、子供たちから離れたジナルさんが少し考えこむ。


「奴等の話だと、根城にはかなり強い護衛が2人いるそうだ。本当なのかは不明だがな」


強い人から倒して行くのかな?


「どれくらいの強さなのか分からないが」


ジナルさんがシファルさん達を順番に見る。


「特に気にする必要は無いか」


シファルさんにヌーガさんにセイゼルクさん。

そうとう強い人がいても、大丈夫だと思うな。


「強い者がいるのか、それは楽しみだ」


シファルさんの言葉にヌーガさんが笑う。


うん、絶対に大丈夫だろうな。

というか、何を想像したんだろう?

もの凄くあくどい表情をしたけど。


「移動しようか。奴等の根城は、ここから歩いて1時間弱だ」


ジナルさんの言葉に、セイゼルクさん達が動き出す。

子供たちもラットルアさんに促されて、準備を始めた。


先頭をジナルさん。

シエルは、姿が見えない位置にいる。

たまにシエルの気配を感じるので、傍にいる事を知らせてくれているのだろう。


ジナルさんの後ろに子供たちとラットルアさん。

その後ろに私とお父さん。

少し距離をとって、馬車。

そしてその馬車を守る様にセイゼルクさん達が歩く。


「お父さん」


「どうした?」


後ろをそっと窺う。


「馬車から変な音が聞こえるね」


まるでうめく様な、苦しんでいる様な。


「気のせいだろう」


絶対に聞こえるけど、気のせいなのか。


「あれ?」


「どうした?」


急に立ち止まったジナルさんに、ラットルアさんが声を掛ける。


「根城辺りに沢山の人がいる」


沢山の人?


「7人以上いるのか?」


お父さんの言葉に、ジナルさんが頷く。


「もう少し近付こう」


ラットルアさんの言葉にジナルさんが頷くと、根城にゆっくりと近付く。

しばらく歩くと、全員の足が止まる。


「いったい、何人いるんだ?」


「20人以上はいるよな?」


シファルさんが戸惑った表情を見せると、ヌーガさんも不思議そうに首を傾げた。


「この気配は、犯罪者とは違う様な気がするな」


ジナルさんの言うとお入り、犯罪者が持つ殺伐とした気配ではない。

どこか、凛とした強さがある気配。


「俺達の存在を気付かせるか。それで判断出来るだろう」


ジナルさんが気配を少し強めると、相手が気付いた様だ。

一気に警戒した気配になる。


「行こう」


ジナルさんは何か思う事があるのか、複数の気配がある方向へ歩き出した。

しばらく歩くと、向かう先から3人の気配がこちらに近付いて来るのが分かった。

あっ、隠れているけどあと4人もいるみたい。


「止まれ」


しばらくすると、停止の言葉が聞こえた。


「誰だ? 姿を見せろ」


ジナルさんの言葉に、木々の間から3人が姿を見せた。

その彼等の着ていた服を見て、ちょっとホッとした。


「我々はカシメ町の自警団だ。お前達はなぜこちらに向かって来た?」


「俺は冒険者『風』のリーダーでジナルだ。カシメ町に向かう途中で、子供を売ろうとしている犯罪者を見つけ捕まえた。話を聞けば、根城にまだ捕まっている子供がいると分かったから、救出に向かっていたところだ」


「『風』のジナル? あの有名な?」


自警団の1人がジナルさんの言葉に微かに緊張した様子を見せた。


ジナルさんを見る。

そういえば、有名な冒険者だった。

すっかり忘れていたけど。


あれ?

『炎の剣』も有名な冒険者だよね。

功労者にも選ばれたんだから。


「馬車があるのか?」


「あぁ、これは子供たちを引き取りに来た女が乗っていた馬車で、中に捕まえた犯罪者が入っている」


「えっ? あれに? 確か10人以上いるはずなんだが。あっ、子供たちは何処に?」


馬車を見て戸惑った様子の自警団員は、ジナルさんの後ろに視線を向ける。


「ここに、いるぞ」


ラットルアさんが手を振ると、3人の子供たちが一緒に手を振る。


「良かった、無事だったんだな。お父さんが、君達を探しているぞ」


自警団員の言葉に、子供たちの目が見開く。

そして戸惑った様子を見せた。


「どうした?」


「目の前で切られて死んだの見た」


ラットルアさんの服をギュッと掴む男の子は、自警団員を見て怯えた様子を見せた。


「意識を失ったが、致命傷では無かったんだ。ただ、意識が戻っても血を失い過ぎていて隠し持っていたポーションを飲んでも、少ししか治らなかったらしい。それでも、なんとか体を動かして偶然通りかかった馬車の前に飛び出して助けを求めたんだ。すぐに病院に運ばれたが、その時にはまた意識を失っていた。医者の話では、生きていたのが『奇跡だ』と、言うほど大きく切られていたそうだ」


女の子が小さく悲鳴をあげると、ラットルアさんにしがみつくと泣き出した。


「悪い。えっと……」


泣き出した女の子を見た自警団員が戸惑った様子を見せる。


「この子達の父親は? 母親は?」


「母親は亡くなっていた。父親は2日前に目を覚まして、すぐに子供たちを助けてくれと医者に叫んだんだ。それで自警団員が呼ばれて詳しく話を聞いて、根城を突き止めて救出に来たという事なんだ。えっと、お父さんは大丈夫だからな。先生も『大丈夫』と言っていたし」


自警団員に視線を向けた女の子が小さく頷く。

それにホッとした表情をした自警団員にちょっと笑ってしまう。


それにしても、お父さんだけでも生きていて良かった。

男の子達も嬉しそう。


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― 新着の感想 ―
ジェンガみたいに詰め込んだのかな? 始末したらもったいないしね。
[気になる点] 最後の部分、本当の話しなのか疑わしいけど、変だったらソラたちが動いて知らせてくれるか。 どこまでが真実でどこまでが作り話かな。
[良い点] 犯罪者詰め放題馬車
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