907話 やっぱりフォロンダ領主
「良かったな」
ポンと私の頭に手を置いて笑うジナルさん。
「うん。あっ、そうだ」
ジナルさんに前世を持っていた人達について聞きたい事があったんだ。
「ジナルさんが読んだ記録の中に、前世の声について書かれてなかった?」
「声?」
私の質問に首を傾げるジナルさん。
あれ?
おかしな質問はしていないよね?
「アイビーは前世の声が聞こえるのか?」
「うん。声だけの時もあれば、フッと前世の記憶を思い出す時もある」
声だけの時の方が多いけど。
「記録の中には『前世の記憶がある者は』と書かれてあったけど、それがどんな状態で前世を知るのかは、書かれていなかった気が……いや、待て……書いてあったな、あれは……」
考え込むジナルさん。
別の資料を探している時にたまたま見つけた記録だと言っていたから、覚えていないかもしれないな。
「あっ、『声を聞く者』と『夢で見る者』だ」
「えっ?」
声? 夢?
「思い出した。記録には、前世を見る方法は人によって違うらしくて、『声を聞く者』と『夢で見る者』がいると書かれていたんだ。それで確か、夢で見る者はどんどん見なくなって大人になる頃には、全く見なくなると書かれてあったな」
つまり、前世の声もどんどん聞こえなくなるって事なのかな?
「声の方も同じなのか?」
お父さんの言葉にジナルさんが首を横に振る。
「いや、『声を聞く者』については、『既に数十年の付き合いだが、時々うるさいと感じてしまうのはしょうがない事だよな。これからも気長に付き合っていくさ』と書いてあったと思う」
「うるさい」か。
まぁ、いきなり声が聞こえるからちょっと思った事はあるかな。
「それで、声について何が知りたいんだ?」
ジナルさんが私に視線を向ける。
「前より声が聞こえなくなっていて、最近は全く。だから、消えてしまったのかって」
ずっと一緒にいた存在だから、少し寂しい。
「ん~、それは。俺が知っている事は、記録の中に書かれてあった事だけだからな」
記録の中に全てが掛かれているわけないもんね。
「あっ、フォロンダ様に資料を見せて欲しいとお願いしてみたらどうだ?」
「資料?」
「あぁ、フォロンダ様なら前世の記憶を持つ者達についての資料を持っている筈だ。たぶんというか、絶対に」
お父さんもフォロンダ領主なら「この国の様々な情報を把握している」と言っていた。
王都に行ったら、お願いしてみようかな。
「アイビー」
「何?」
「胸の前で両手を組んでみて」
んっ?
ジナルさんの言葉に首を傾げなら、胸の前で両手を組む。
「下からチラッと上を見つめる様に」
ジナルさんの不思議な言葉にそって、下からチラッと。
バコッ。
「いってぇ」
「えっ?」
ジナルさんを見ると、頭を押さえて苦悶の表情をしていた。
その隣で、お父さんが手を振っている。
「アイビー。フォロンダ領主には俺がお願いするから、アイビーはしなくていいぞ」
「えっ?」
何があったの?
「気にしなくていいぞ、アイビー」
ラットルアさんが、私の頭をそっと撫でる。
その傍でシファルさんとヌーガさんが、呆れた表情でジナルさんを見ていた。
いったい何があったんだろう?
それに、ジナルさんは私に何をさせようとしてたの?
確か胸の前て両手を組んで、下から覗き込む様に……あっ!
小さい子が両親にお願いしている時の姿だ。
えっ、あれは小さい子がするから可愛いのであって、私がしてもフォロンダ領主が困るだけだと思うけど。
「何をしているんだ、全く。そろそろ出発するぞ」
スノーを腕に抱いたセイゼルクさんが、呆れた表情でジナルさんを見る。
「スノーの状態は?」
シファルさんの言葉に、セイゼルクさんが頷く。
「大丈夫だ。昨日と変わらない。朝から元気ぞ」
「クル。クル」
セイゼルクさんの言葉に賛同する様にスノーが、彼の腕の中で鳴く。
その様子に、皆がホッとした表情をした。
「用意をして、行くか」
ジナルさんの言葉に、全員が出発の準備を始める。
「ソラ、フレム、ソル、シエル」
朝ご飯を終え、遊んでいた皆を呼ぶ。
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
傍に来たソラ達は、朝から元気な様で周りを跳びはねる。
シエルが少し遅れて来ると、すりっと私の手に顔をこすりつけた。
「シエル、皆の面倒を見てくれたありがとう」
私の言葉に、喉をゴロゴロと鳴らすシエル。
可愛いなぁ。
「皆、そろそろ出発するよ。今日は、このまま外で過ごす? それともバッグに入る?」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
ソラとフレムは、私から少し離れて跳びはねる。
「外で遊ぶんだね、ソルは?」
足元でジッと私を見上げるソル。
これは、バッグに入って寝たがっているのかな?
「眠たいの?」
「ぺふっ」
ソルを抱き上げ、バッグの中に入れる。
中を覗くと、もぞもぞと少し動きそのまま寝る体制に入った。
「そんなに疲れているのかな?」
まぁ、ソラとフレムより良く寝る子だからね。
そう言えば、いつの間にかフレムの睡眠時間がソラと変わらなくなっていたな。
昔は、気付いたら寝ている子だったのに。
「行こうか」
ジナルさんの言葉に、カシメ町に向かって出発する。
「アイビー」
隣に来たシファルさんを見る。
「マジックバッグの中に予備の弓があるから、昼を食べたら練習してみようか」
「うん、ありがとう。お願いします」
今日のお昼か。
大丈夫かな?
そうだ、周りに誰も近づかない様にしてもらおう。
しばらく歩くと、水の音が聞こえた。
「水の流れる音みたいだけど……」
川を流れる水の音とは、少し違う様な気がする。
なんだろう?
水の勢いがいいのかな?
「滝だ」
お父さんの言葉に、地図を思い出す。
「そう言えば、滝の傍を通るんだったね」
滝は旅の道中で見た事がある。
でも、こんなに水の音が大きかったかな?
というか、どんどん音が大きくなってきているんだけど?
「これから行く場所にある滝は、かなり大きいんだ。迫力があってかっこいいぞ」
ジナルさんの言葉に、セイゼルクさんが頷く。
「大きい滝なんだ」
私が今まで見た滝は、それほど大きくなかった。
水の量も少なく、迫力はなかった。
「楽しみだな」
川が見えてくると、水の音がさっきより大きくなる。
そして、川上に向かって歩くと滝が姿を現した。
「うわぁ」
まだ滝までの距離はあるのに、もの凄く大きい。
「凄いだろ?」
ジナルさんが楽し気な表情で私を見る。
「うん、凄い」
崖から大量の水が下に落下している。
その落下した水は、崖の下に出来た湖に落ち、水しぶきが立っていた。
迫力があるし、水しぶきが太陽の光でキラキラしている。
凄く、綺麗だな。
「少し休憩するか」
ジナルさんの言葉に、滝の水が当たらない場所に皆で座る。
ソラとフレムは、滝の水が少し当たる場所で遊びだした。
「拭く布を用意しておくか」
お父さんの言葉に笑って、マジックバッグからソラ達のための布を出す。
「あれ、大丈夫か?」
「えっ?」
ラットルアさんの言葉にソラ達を見ると、水たまりで遊ぶ2匹がいた。
「……ドロドロだな」
お父さんの言葉にラットルアさんが笑う。
「そうだね」
新たに3枚、新しい布をマジックバッグから出す。
「4枚で足りて欲しいな」




