901話 次こそ……
「それでスノーは、セイゼルクさんが面倒を見るのかい? 相性が問題ないならいいが」
あっ、スノーの事を話し合っていたんだった。
ロウじいさんの言葉に、全員がハッとした表情をした。
「悪い。スノーと俺の相性なら問題ないと思う。懐いてくれていたから」
そう言えば、木の魔物が面倒見ていない時はセイゼルクさんが面倒を見ていたな。
スノーも、彼の腕の中で落ち着いていた。
「そうか。それなら大丈夫かな」
ロウじいさんが、優しい表情でスノーを見る。
それを見てセイゼルクさんが、少し考えこむ。
「ロウじいさんが、このまま面倒を見るか? スノーも懐いているし」
セイゼルクさんの言葉に、ロウじいさんが首を横に振る。
「無理だな。年で目もかなり悪いし、最後まで面倒を見れない可能性が高い。それに俺にはガルがいる」
ロウじいさんは、彼に寄り添うように眠っているガルの頭を撫でるとセイゼルクさんを見る。
「そうか」
「あぁ。それと、スノーは大人になっても普通の魔物のようにはなれんだろう。きっと体は弱いままだ。ずっと手助けが必要になるが、大丈夫か? 結婚するんだろう?」
あっ、そうか。
セイゼルクさんが結婚するなら、相手の女性に許可を貰わないと駄目なのでは?
「それなら大丈夫だ。ロウじいさんにスノーを預けた時に、彼女にふぁっくすを送っておいたんだ。スノーの生い立ちと、ずっと手助けが必要になるかもしれない事も書いて」
ふぁっくす……あっ!
「うわっ」
隣のお父さんから小さな声が聞こえた。
見ると、焦った表情をしている。
家族に送るふぁっくすを、またすっかり忘れていたもんね。
「今日、ふぁっくすが返って来ていないか調べたら『一緒に手助けするから大丈夫』と返事が来ていた」
セイゼルクさん嬉しそう。
いい女性と巡り合ったんだね。
「あ~。こまめに送って欲しいと言われていたのに」
お父さんが頭を抱えてた。
うん、その気持ちは分かる。
「お父さん」
「んっ?」
「話が終わったら、すぐにふぁっくすを送りに行こうね。後回しにすると忘れるから」
「そうだな」
「ぷっ、くくく」
んっ?
笑い声に視線を向けると、ラットルアさんが口を押さえていた。
「ラットルアさん?」
「いや、真剣に話しているから何かと思ったら」
ふぁっくすを送る話だったと。
「雷王のボロルダ達とラトメ村のオグト隊長達には俺達からふぁっくすを送ってあるから、大丈夫だぞ。あとフォロンダ様にはジナルが話しているだろう」
「そうなんだ、ありがとう」
心配だからふぁっくすをもう少し頻繁に送って欲しいと、オグト隊長とボロルダさんに言われていたんだよね。
セイゼルクさんがふぁっくすの話をするまで、すっかり忘れていたけど。
「ふぁっくすを送るのが面倒なのか?」
「あの、そのまま書けないので色々考える必要があって」
「あぁ。確かにそうだな」
そう、ふぁっくすを送るのは別に面倒だとは思わない。
でも、工夫が必要で。
それを考えるのがとても大変なんだよね。
「『皆で、森の奥に隠れていた研究所をぶっ壊して来たよ。魔法陣で操られた魔物が沢山いて大変だった』なんて書けないもんな」
シファルさんの言葉に、無言で頷く。
そんな事は、誰が見るか分からないので絶対に書けない。
「アイビーから届くふぁっくすは解読するのが楽しかったけどな」
シファルさんを、ジト目で見る。
「私は大変だったのに」
「ははっ、ごめん。でもあんなにハラハラしたふぁっくすを貰った事は無かったから」
ハラハラ?
「そうそう、一体何があったんだぁ!って思うふぁっくすなんて珍しいよ」
あれ?
ちゃんと「私達は無事です」と、書いて送ったよね?
「面倒だったら『色々あったけど、皆でやっつけて私は元気です』だけでもいいよ。ふぁっくすが届いたら、アイビーがいた辺りの噂を調べて『これか』と、納得しておくから」
シファルさんの言葉に、笑ってしまう。
「なんですか、それ。それに、やっつけては必要なのかな?」
「必要だろう。アイビーとドルイドが去った後は、必ず何かが変わっているからね」
「「えっ?」」
シファルさんの言葉に、お父さんと私の不思議そうな声が重なる。
「問題が起こっているところに突っ込んで、問題を解決してから移動しているだろう?」
彼の言葉に首を傾げる。
お父さんも、眉間に皺を寄せて考え込んでいる。
「気付いてなかったのか?」
関わった問題を解決してから?
ラットルアさんの言葉に頷くと、彼は目を少し見開いた。
「最後まで見届けずに、旅に出た事もあるので」
あとはお願いと、旅に出た事もあるよね。
だから解決してからとは言えないと思う。
「ただいま」
「ジナル、おかえり。こっちよ~」
ジナルさんの声に、ロティスさんが玄関の方を向いて声を上げる。
少しすると、ジナルさんが部屋に入って来た。
「「「「「おかえりなさい」」」」」
皆で迎えると、少し目を見開いたジナルさん。
「皆でどうしてここに……ロウじい? あれ?」
ジナルさんが時計を見る。
「少し早く来ただけだ」
ロウじいさんの言葉に、皆が苦笑する。
5時間前が少し早いか。
「スノーは、大丈夫そうだな。それにしても、癒されるなぁ」
ジナルさんがソラ達を見て、微笑む。
「それで、スノーは誰が面倒を見る事になったんだ? その話し合いをしていたんだろう?」
ジナルさんの質問に、ロティスさんが簡単に説明する。
セイゼルクさんが結婚する話になると、驚いた表情をしていた。
「あのセイゼルクが!」
「『あの』ってなんだよ」
「訳ありの女性に金を持ち逃げされたり、思い込みの激しい女性に追い掛け回されたりしたんだろう。他にも色々」
ジナルさんの言葉に、ラットルアさん達が大笑いする。
「どうして、それを。あっ!」
セイゼルクさんが、シファルさんとラットルアさんを見る。
2人はそっと視線を逸らした。
「はぁ、お前達は」
呆れた様子で溜め息を吐くセイゼルクさん。
その様子に、シファルさんもラットルアさんも楽しそうに笑った。
「ドルイド、アイビー。2人はいつ頃カシム町を出発するつもりでいる?」
ジナルさんの急な話に、お父さんが首を傾げる。
「まだ決めていないが」
「5日後ぐらいにどうだ? カシメ町に行ってから王都に行くんだろう? それなら俺も一緒に行けるんだけど」
お父さんが私を見る。
「5日後なら用意もゆっくり出来るし、いいと思う」
「俺達も一緒に行く予定だから」
私の言葉の後に、ラットルアさんが言葉を続ける。
「そうなるだろうと思っていたから問題ない。セイゼルク達も5日後で、大丈夫か?」
「あぁ、大丈夫だ」
セイゼルクさんの返事にジナルさんが頷く。
やっぱりみんなでカシメ町に寄ってから王都に行くみたい。
次の旅は心配事が無いから、楽しい旅になりそう。
……心配事は、無いよね?
カシメ町にも問題は、もう無いんだよね?
「どうした?」
お父さんを見る。
「カシメ町に行く道中や、逃げている人達以外に問題なんて無いよね?」
私の言葉に、お父さんが黙る。
なぜかジナルさんやセイゼルクさん達まで黙った。
「あるの?」
「いや、無い。でも……アイビーとドルイドだからな」
ジナルさんの言葉に、セイゼルクさん達が神妙に頷く。
「ははっ。次こそ平穏な旅になったらいいなぁ」
なんでだろう?
自分で言っていて……いや、大丈夫のはず。
「最弱テイマー」を読んで頂きありがとうございます。
901話で「王都と組織」の章を完結いたします。
すみません。
仕事が溜まっているため、しばらく更新をお休みします。
なるべく早く再開出来るように頑張りますので、次の章もどうぞよろしくお願いいたします。
ほのぼのる500




