900話 えっ? 引退?
カシメ町の本屋か。
占い師さんがくれた本と同じ物なのかな?
あれ?
そう言えば以前、カシメ町は教会の関連施設が沢山あって問題が残っていると言っていたよね?
もう大丈夫なのかな?
「お父さん」
「どうした?」
「カシメ町の問題は、もう大丈夫なの?」
「んっ? あぁ、以前に話した教会の関連施設の事か?」
「うん」
「あれは、カシメ町の冒険者ギルドと商業ギルドのギルマス達が協力して大掃除をしたそうだ。王都の冒険者ギルドから派遣された冒険者達も加わって、かなり凄かったらしい。潰した施設の数も、捕まった者達の数もな」
そうだったんだ。
お父さんの説明に頷くと、ロティスさんが楽しそうな表情で私を見る。
「その時に、巨大な誘拐組織と裏取引を生業にしていた複数の組織を一緒に潰したのよ。カシメ町が手を焼いていた問題の組織を!」
誘拐組織に裏取引の組織も。
凄く大掛かりな大掃除だったんだろうな。
「カシメ町の自警団や一部のギルド職員は買収されていたから、本当に大変だったと思うわ」
ロティスさんの言葉に、セイゼルクさん達も頷いている。
「貴族を顧客に抱えていた、裏取引の組織を一緒に潰せたのはお手柄だよな。あいつ等は誘拐組織と手を組んでかなり手広く仕事をしていた。しかも貴族が邪魔をして、詳しく調べられなかったから」
セイゼルクさんの言葉にロティスさんが嬉しそうに笑う。
「その組織が捕まってくれて本当に嬉しい。カシム町でも被害が出ていたから」
それは捕まってくれて良かった。
「ただ、大掃除から逃げだ者達もいるから、カシメ町では気を引き締めてね」
「うん、分かった」
逃げた者もいるのか。
本屋は楽しみだけど、周りには注意をしておこう。
「可愛いなぁ」
えっ?
ロウじいさんの言葉に、視線を向ける。
「んっ? これだ、これ」
ロウじいさんが指した方を見ると、ソラ達とスノーが集まって眠っていた。
それがとても癒される光景で、自然と笑顔になる。
皆を見ていると、ソラがぷるぷると体を揺らし始めた。
隣で寝ていたスノーが、なぜか一緒になってぷるぷると体を揺らす。
そして不思議な事に、フレムやソルも体をぷるぷると揺ら出した。
「可愛い」
小声で言うと、お父さん達も頷く。
「あっ、止まる時は一緒なんだな」
お父さんの言葉に、不思議に思いながら頷く。
確かに皆の動きは一斉に止まった。
不思議。
「面白いな。あっ!」
ラットルアさんがチョンとソラを突くと、止まっていたぷるぷるが復活する。
そして、フレムやスノーもぷるぷるを始め、少し遅れてソルもぷるぷるし始めた。
可愛過ぎる。
「ロウじい。スノーは、どんな子だった?」
ロティスさんの言葉に、ロウじいさんが少し険しい表情をした。
「魔物にしては体力が少ない。年を取って体力が衰えたガルより疲れやすい。長い旅にはついていけないだろう。それと、気になる事がある。ガルと軽く追いかけっこをしたんだが、次の日は起き上がれなかった。よく見ると、後ろ脚が震えていた。体力が少ない以前に、後ろ脚に異常があるかもしれない」
眠っているスノーを見る。
ここ数日で、沢山食べさせてもらっているのかお腹の辺りがポッコリしている。
だから少し安心していたけど、後ろ脚に異常か。
解決出来る問題だったらいいけど。
あっ、解決出来るなら既にソラとフレムが治療しているはず。
でも2匹はスノーの治療をしない。
それって解決出来ない異常だからなのかな?
「そうか」
ラットルアさんが少し悲しそうな表情をした。
「スノーはどうするんだ? 旅に連れ歩くのは無理だぞ? ロティスはポポラがいるから無理だろうしな」
「そうね」
旅が無理なら、私も駄目だよね。
あれ?
私は、王都に行って……どうしたらいいんだろう?
「俺が育てるよ」
えっ?
セイゼルクさんに視線を向けると、真剣な表情でスノーを見ていた。
「セイゼルクが? まぁ、オトルワ町を拠点にしているから旅はしないかもしれないけど、依頼で数週間帰れない時もあるでしょ? そういう時はどうするのよ?」
ロティスさんの言葉に、セイゼルクさんは笑って頷く。
「それは大丈夫だ。俺は冒険者を引退するから」
「「えっ?」」
セイゼルクさんの言葉に、お父さんと驚く。
それを見た彼は、楽しそうに笑う。
「驚き方が一緒だな」
「いや、そんな事より本当に冒険者を引退するのか?」
お父さんの少し戸惑った様子に、セイゼルクさんが少し驚いた表情をする。
「あぁ、既にオトルワ町のギルマスには言ってある。そんなに戸惑う事か?」
「オトルワ町の問題を解決して、功労者として選ばれただろう? だから、勿体ないと思ったんだ」
功労者に選ばれた冒険者は、尊敬されるだけでなく仕事面でも優遇されると聞いた。
だから、引退するのは勿体ないと思う人は多いだろうな。
「セイゼルクは、結婚するんだよ」
「「結婚!」」
シファルさんの言葉に、お父さんとロティスさんの声が重なる。
私は、驚き過ぎて声が出なかった。
「そうなんだよ。それで2児の父になるから、危険な仕事から離れようと思って」
んっ?
2児のお父さん?
「彼女の連れ子で、5歳と7歳だ。彼女の元旦那は冒険者なんだけど、依頼中の仲間のミスで亡くなっているんだ」
そうなんだ。
「うまいと評判の食堂を営んでいる女性だよ。凄く綺麗な人で、セイゼルクの一目惚れ。行ける時は毎日食堂に通っていたよねぇ」
「シファル、黙れ」
セイゼルクさんが、少し頬を赤くしてシファルさんを睨む。
それを見たシファルさんは、楽しそうに笑う。
「あはははっ。彼女の事を言うとすぐに赤くなる」
「ほっとけ! 毎回、毎回揶揄いやがって」
セイゼルクさんの表情にロティスさんが少し呆然として、そして笑い出した。
「あははっ。揶揄いたくなる気持ち分かるわ!」
「分からなくていい!」
あぁ、そんな反応するから揶揄われるのに。
「セイゼルク。そんな風に焦るから2人は揶揄うんだ。落ち着け。それにしてもセイゼルクが結婚か」
お父さんの言葉に、少し恥ずかしそうに頭を掻くセイゼルクさん。
それを見て、お父さんが小さく笑った。
「おめでとう」
あっ、そうだ。
結婚するって聞いたのに、忘れてた。
「セイゼルクさん、おめでとう」
「ドルイドもアイビーも、ありがとう。俺も食堂を手伝う事にしているから、オトルワ町に来たら遊びに来てくれ」
「うん。絶対に遊びに行くね」
嬉しそうに笑うセイゼルクさんを見て、笑顔になる。
本当に幸せそうに笑うな。
「あっ、という事は『炎の剣』は解散?」
シファルさんとラットルアさん、ヌーガさんに視線を向けると、3人は首を横に振った。
「いや、『炎の剣』はそのまま継続。今は、誰がリーダーになるか話し合っている所だよ」
「そうなんだ、誰がリーダーになるの?」
「「「……」」」
あれ?
話し合いがうまく行っていないのかな?
「俺がリーダーになるって言うと、2人が止めるんだ」
シファルさんの言葉に、つい頷いてしまう。
「問題がある依頼を、笑って取って来そうだよね」
「そう。その心配があるからシファルだけは却下なんだ」
ラットルアさんの言葉に、ヌーガさんが頷く。
それに対して、肩を竦めるシファルさん。
「という事は、ラットルアさんかヌーガさん?」
「「……」」
チラッとお互いを見るラットルアさんとヌーガさん。
「面倒事が嫌いな2人だからね」
シファルさんの言葉に、気まずそうな表情をする2人。
これは、決まらないね。
というか、最終的にシファルさんがリーダーになると思うな。




