番外編 フォロンダ領主と組織7
―フォロンダ領主視点―
魔法陣のある建物を特定した。
ミローゼ伯爵家の嫡男の妻が持っている建物で、今は空き家となっているそうだ。
その空き家に、4ヵ月前から人の出入りが確認された。
そして昨日、その建物にオローガス子爵が入った。
他にも我々が目をつけていた貴族達が集まったようだ。
おそらく魔物を呼び出す日が近いのだろう。
ただ気になるのがパシューラ公爵。
彼がまだ来ていない。
調べた限り、王都襲撃にかなり協力している。
そんな彼が、別行動をするだろうか?
「フォロンダ様は、後方で指示を出して頂きたいのですが?」
アマリの言葉に首を横に振る。
「無理だな。建物内には奴等がいる」
貴族は特別だと偏った主張をしている者達がいる。
特に目に余るのがパシューラ公爵。
そして、他にも2人。
その2人もどうやら、王都襲撃に手を貸した様だ。
建物に入るのを確認した。
「あいつ等を黙らせられるのは、俺だけだ」
奴等は、本当にうるさい。
尊い血だの高潔だのと。
話をしていると、奴等の口に剣を刺したくなる。
俺も毎回、よく我慢しているよな。
「そうか。それが今日は許されるのか」
「絶対に許されません」
あれ?
口に出したかな?
アマリを見ると、呆れた表情をしていた。
「長年の付き合いですから、何を考えているかは分かります。駄目ですよ」
非常に残念だ。
「準備が調いました」
部下からの言葉に、執務室を出る。
「失礼します」
少し慌てた様子でローザスが来る。
「どうしたの?」
アマリの言葉にローザスが俺を見る。
「建物の近くにある広場でお祭りが開催されています」
「はっ? そんな予定は無かったはずだが?」
人が集まる祭りなどは、あらかじめ許可が必要になる。
警備の関係からだ。
ここ数週間、目的の建物周辺では祭りも集会も無いはずだ。
「はい、予定にはありません。ですが、準備していた様で多くの者達が集まっています」
やばいな。
建物周辺の地図を思い出す。
広場と言えば、かなり近くにある。
もし魔物が王都に転移して来て、それを祭りに来た者達が目撃したら?
「かなり大混乱になるな」
「はい」
奴等の目的は、混乱か。
となると、狙いは新しい王か。
「王城の警備を強化。俺が良いというまで、門を閉めて誰も入れない様にしろ」
「はい」
ローザスが指示を出すために駆けて行く。
「多くの人が混乱した場合、どうなりますか?」
アマリの言葉に、溜め息が零れる。
「被害は大きくなるだろう。人が混乱した場合を予想して動くが、予想外の事が起こりやすいから」
数人の混乱でも、周りの人達を巻き込み大きな混乱となる。
今回は、祭りに来ている者達を混乱させるつもりなのだろう。
一体、どれほどの規模になるか予測ができない。
「すぐに動く。行こう」
「はい」
馬に乗って、目的の建物に向かう。
一緒に行動するのは、精鋭の騎士100人だ。
「冒険者ギルドのギルマスは?」
「魔物を見たらすぐに対応できるように、王城で待機しています。王城から建物がよく見えるので。あと、冒険者達はギルマスの指示で警護に当たっています」
俺の警護のため、一緒に行動しているスイナスの言葉に頷く。
もしも、魔物が現れても冒険者達に任せられるな。
騎士達には、建物内にいる各貴族が抱える護衛騎士の対応をして欲しいからな。
「分かった。見えたぞ」
「扉が閉まっていますね」
目的の建物まで数分。
王城から本当に近いな。
「扉を開けさせますね」
「必要ない、扉を壊せ」
俺の指示で、建物に入るための扉が破壊された。
大きな音と共に建物内に入ると、男性が怒鳴りながら近づいて来た。
「誰の指示だ! ここはミローゼ伯爵家の関係者が管理している物だ、すぐに出て行け」
喚き散らす男性に向かって剣を抜く。
「フォ、フォロンダ様。これは何事ですか!」
「ここに魔法陣がある事は、分かっている。魔法陣に関わる事は禁止されている。従って、この建物は差し押さえる。やれ。建物内にいる者すべてを捕まえろ、抵抗する者は殺してかまわない」
俺の言葉を聞いて、ミローゼ伯爵の顔色が悪くなる。
その横を騎士達が、通り過ぎて行く。
建物内で剣のぶつかる音が聞こえる。
やはり、抵抗してきたな。
ここに連れてきた騎士達は、皆強い。
早々に決着をつけてくれるだろう。
「どうしたら……」
ミローゼ伯爵が頭を抱える。
本当に王都襲撃が上手くいくと思ってたのか?
というか、計画がバレているとは考えていなかったんだな。
仲間から連絡が途絶えた事もあるのに。
「このままだとお前は死罪だ。ミローゼ伯爵家も潰されるな」
「し、死罪、こんな……」
「助けてやろうか?」
「えっ? 金なら――」
「必要無い。魔法陣がある場所まで案内しろ」
俺は、金で買収出来ると思われているのか?
心外だ。
ミローゼ伯爵は視線をあちこちに彷徨わせ、そして俺をチラッと見て頷いた。
その彼の表情には、微かに笑みが窺えた。
こいつ、何か仕掛けるな。
アマリとスイナスを見ると、2人も気付いた様だ。
かなり険しい表情でミローゼ伯爵を見ていた。
「こっちです」
ミローゼ伯爵の案内で、建物の奥に向かう。
建物内の地図を思い出す。
間違いなく、魔法陣がある場所には案内してくれる様だ。
では、どこで仕掛けてくるのだろう?
んっ? ここは左では?
「あれ? こっちは遠回りでは?」
アマリの言葉に、ミローゼ伯爵の動きが止まる。
そしてそっと俺を見た。
それに笑うと、剣の柄で思いっきり殴りつけた。
案内してくれないのであれば用は無い。
「行こう、時間稼ぎをしたという事は、時間がない」
時間稼ぎするだけでいいと考えたミローゼ伯爵。
既に魔法陣が動き出しているのかもしれない。
魔法陣があると確認された場所の扉を開ける。
「やっぱり」
広い部屋の中央には、光り出した魔法陣。
その奥に、オローガス子爵をはじめ協力した貴族達の姿があった。
「フォロンダ様、こんな所でお会いするとは、嬉しいですよ」
オローガス子爵の言葉に、眉間に皺が寄る。
「俺は会いたくなかったけどな。それより王都に魔物を引き入れて何をするつもりだ?」
話しながら周りを見る。
こちらからは、魔力を送る必要はないみたいだな。
魔法陣に魔力を注いでいる者はいない。
んっ?
部屋の片隅に、倒れている者達がいるな。
その顔を見ると、苦しそうに歪んでいた。
バタン。
俺達が入って来た扉とは違う扉が開き、一緒に来た騎士達が入って来た。
その姿を見て、少し安堵する。
「どうしますか?」
先頭にいる護衛騎士団長ホルに視線を向ける。
「動くな。既に魔法陣が動き出している」
俺の言葉に、騎士達が少し動揺した。
「ふっ、既に魔法陣は動き出しています。これは止められませんよ。あなた方は、間に合わなかった」
楽しそうに笑うオローガス子爵を始め協力した貴族達。
その姿に、ギュッと剣を握る手に力を籠める。
パシューラ公爵の動きを意識し過ぎてしまった。
俺の失敗だ、くそっ。
他に方法は無いか?
確かに、動き出した魔法陣を止める事は難しい。
多くの被害者を出しながら調べた結果、それは分かっている。
だが、止めないと。
「あははははっ、来い!」
オローガス子爵の言葉に反応する様に、魔法陣の光が増す。
「こうなったら、魔物をここで倒すしかないな」
「「「「「はい」」」」」
アマリ、スイナス、騎士達が武器を構える。
「木の魔物!」
アマリの言葉に、ギュッと剣を握る。
木の魔物については色々報告が来ている。
通常の木の魔物はかなり強い様だが、魔法陣から出てきたという事は実験体だった木の魔物だ。
という事は、この木の魔物はそれほど強くない。
ここにいる騎士達だけでも、倒せるはずだ。
「えっ?」
んっ?
戸惑った声をあげたオローガス子爵に視線を向ける。
なぜか木の魔物の周りを見て、困惑している。
「予想外の事があったみたいですね」
スイナスの言葉に頷く。
「なんでこいつだけなんだ! くそっ! おい、目の前にいる奴等を殺せ!」
苛立ったオローガス子爵の声に緊張が走る。




