893話 地下に
―ジナル視点―
研究所に侵入すると警護についている冒険者が4人いた。
戦うため構えたが、彼等はすぐに逃げて行った。
それに少し違和感を覚えたが、中に進む。
ドガーン。
不意に聞こえた爆発音に緊張が走る。
「外か?」
セイゼルクが研究所の出入り口を見ると、ヌーガが動いた。
「見て来る」
おそらく逃げた冒険者の仕業だろうが、おかしい。
普通は、俺達に向かって爆発物を投げ込むはずなのに、爆発音は建物の外でした。
ロティス達が、気付いて防いでくれたのだろうか?
「問題は解決済みだ」
戻って来たヌーガの言葉に頷くと、研究所の地下に向かって移動を始める。
今の爆発音は俺達を殺すためともう一つ、奥にいる者達に侵入者を報せる目的もあったのだろう。
爆発音が聞こえてから、こちらに向かって来る音がする。
気配は感じない事から、おそらく魔物だ。
「魔物が来るな」
シファルが武器を構える。
その傍で、木の魔物が根を振り下ろした。
バチン。
研究所内に、音が響く。
その音が聞こえたのか、こちらに向かって来る音が少し乱れた。
「止まらないな。殺すしかないのか」
セイゼルク達が武器を構えると、前方から魔物が来た。
数は、10匹。
さっきの事を思えば数は少ないが、研究所内にいる魔物の方が姿は異様だった。
「一気に行くぞ」
「「「「おう」」」」
地下への道順は見張り役から聞いて来たので、魔物を倒しながら突き進む。
「あ~、どれだけいるんだ! 後から後から!」
しばらくすると、ラットルアが苛立った様に叫んだ。
崖の時よりは少ないが、それなりの数が研究所内にいる様だ。
しかも、研究所内は入り組んでいるため、死角から魔物が飛び出してくる。
それを予測して動いているので驚く事はないが、さすがに疲れて来る。
「大丈夫か?」
ラットルアに声を掛けると、横から襲ってきた魔物を倒す。
「大丈夫だ」
彼は、襲ってきた2匹の魔物を魔法で倒すと、地下に続く階段を下り始めた。
「うわっ」
ラットルアの慌てた声に急いで階段に向かう。
「サーペントか」
目から血を流すサーペントが、下の階から上がってくるのが見えた。
シファルが弓を構える。
が、その隣を一緒に来たサーペントが通り過ぎた。
「クギャ~」
階段下から悲鳴の様なサーペントの鳴き声が聞こえ、眉間に皺が寄る。
「疲れる仕事だな」
シファルが苛立った様に手で髪をかき混ぜる。
体力ではなく心の事だろうな。
「はぁ、先に行くぞ」
ラットルアが一気に階段を下りると、動かなくなったサーペントを避けて奥に向かった。
その後に続く。
「魔物は、だいたい倒せたみたいだな」
セイゼルクの言う通り、襲ってくる魔物の数が減った。
「あそこが言っていた、地下に続く部屋か」
奥に見える、大きな両扉。
駆ける速度を上げ、一気に扉を開ける。
「来るなぁ」
開けた瞬間、こちらに向かって来る者達を一気に倒す。
倒れた者を見ると、瘦せこけた男性が4人。
「ジナル!」
セイゼルクの声に視線を上げると、光の玉がこちらに向かって来るのが見えた。
急いで横に避ける。
「ぐあぁ」
俺に攻撃をした者は、セイゼルクが倒してくれた様だ。
「助かった。ありがとう」
「イカレているな」
ヌーガの言葉に視線を向けると、檻が見える。
そしてその中には、楽しそうに笑いながら紙に魔法陣を描く者達がいた。
どの者達も、狂っているみたいだ。
「地下に続く道は……」
セイゼルクの言葉に周りを見回し、息を吞んだ。
壁には、飛び散った様な赤黒い痕。
そして、壁際に転がる骨。
魔物だけでなく、人の物も混ざっているのが分かった。
「こっちだ。下に行ける」
ラットルアが見つけた階段で地下に向かう。
暗い通路があり、その先に光が見えた。
「気を付けろ」
先頭を駆けるラットルアに声を掛ける。
彼は手を上げると、そのまま光に向かった。
「見つけた!」
ラットルアの言葉にホッとするが、見えた物に舌打ちをする。
既に魔法陣は、動き出していた。
その魔法陣の中心には、木の魔物がいる。
「魔法陣を動かしてるのは?」
「あそこだ」
俺の言葉にヌーガがある方向を指す。
見ると、白衣を着た男性と女性が魔法陣に触れて力を送り込んでいた。
そして彼等の後ろには、身なりの良い服を着た若い男性の姿がある。
「あれ?」
若い男性を見た時、会った事のある気がした。
何処で何時、会ったんだろう?
記憶を探りながら、彼等の下に駆ける。
「ラットルア、ジナル。止まれ! 魔法陣がある!」
シファルの言葉に、俺とラットルアの足が止まる。
そして、下を見る。
「ちっ」
前方から舌打ちが聞こえた。
どうやら、この魔法陣は危険な物の様だ。
「奴等はこっちに来れない。このまま奴を王都に送れ」
若い男性の言葉に、魔法陣の光が強くなる。
「させるか」
シファルが矢を放つが、足元にある魔法陣が光ると矢が落ちた。
やばい。
あんなのが王都に入り込んでしまったら、混乱が起きる!
木の魔物は冒険者が倒すはずだけど、王都は人が多い。
彼等が混乱して動けば、怪我人が多く出るだろう。
それに、その混乱に乗じて今回の事を計画した者が何をしでかすか分からない。
「やめ――」
バキバキボゴボゴ。
地下の一部の壁が、勢いよく崩れ落ちる。
そして、そこから木の魔物が姿を見せた。
それに全員が緊張する。
「な、なんだお前は!」
若い男性の言葉に、姿を見せた木の魔物を見る。
「もしかして、一緒に来た子か?」
シファルの言葉に、木の魔物は根を振り上げ地面に叩きつけた。
バチン。
地面にヒビが入り、魔法陣の光が少し弱る。
「急げ!」
若い男性は、根を振り上げる木の魔物に向かって何かを投げた。
バーン。
木の魔物に当たると、爆発し根の一部が吹き飛んだ。
「ぎゃ、ぎゃ」
奴を止めないと。
足下にある魔法陣を見る。
んっ?
胸元が光っていないか?
その部分に手を当てると、魔石に触れた。
「もしかして」
防具から魔石を取り、魔法陣の上に落とす。
バチバチバチ。
魔法陣から弾ける音がすると、足元にあった魔法陣がスーッと消えて行く。
「な、な、にが? くそっ! あとどれくらいだ」
「すぐです」
若い男性に応えた女性の言葉に、急いで彼等の下に駆ける。
シファルの放った矢が男性に当たり、倒れるのが見えた。
あとは、女性だけだ!
目の前に来た、女性を蹴り上げる。
「きゃぁ」
女性は魔法陣から手を放し、横に転がった。
「はははっ、もう遅い。えっ、待て。何をする!」
若い男性の言葉に、魔法陣が発動したと分かった。
だが、奴の焦った声に視線を魔法陣に向ける。
「えっ?」
中心にいた木の魔物が、魔法陣から押し出されていた。
そして代わりに、一緒に旅をしてきた木の魔物がそこにいた。
「おい、魔法陣を止めろ」
ラットルアが男性の胸元を掴んで揺さぶる。
青い顔色をした男性が必死に首を横に振る。
「無理だ。出来ない」
「はぁ、役立たずが!」
ラットルアが男性を殴り飛ばすと、若い男性を見る。
「ひっ」
若い男性は焦った様子で周りを見る。
そして木の魔物を見ると、俺達を指した。
「おい、俺を助けろ! こいつ等を殺せ!」
フッと魔法陣から光が消える。
見ると、木の魔物は消えていた。
「王都か?」
「その計画のはずだ」
俺の言葉にセイゼルクが応える。
「王都に連絡を入れる。送られた木の魔物は敵ではないと言わないと」
あの木の魔物は強い。
攻撃したら、俺達に友好的な木の魔物とはいえ反撃をするかもしれない。
それに、王都の何処に姿を見せるんだ?
それによっては、王都中で混乱が起こる。
あぁ、防ぎきれなかった。
「ぎゃ」
あっ、こっちにも問題がまだ残っていたな。
まずは目の前にいる木の魔物を倒さないと。
「ククククッ」
木の魔物がこちらに向かって来ようとした瞬間、サーペントが体当たりをする。
そして、尻尾で攻撃を続けると動かなくなった。
「ありがとう」
「うわぁ」
木の魔物が倒されたのを見た若い男性は、逃げる様に扉に向かう。
「ククククッ」
あと少しで扉に届くと思った瞬間、スッと横にサーペントが来た。
それを見た若い男性は、ふらっと意識を飛ばした。
「……弱すぎるだろう」
まぁ、いきなりサーペントが横に来たら怖いかもしれないが。
あっ、そんな事より緊急連絡だ。




