892話 研究所へ
ジナルさん達が戻って来た。
そして、これからの事が決まったんだけど、この短時間で調べたにしては情報が多く詳しい。
どんな方法を使ったんだろう?
チラッとジナルさんとロティスさんを見る。
ロティスさんが私の視線に気付き、こちらを見て笑った。
何だろう。
いつもと少し違う笑みだ。
「アイビー、どうした?」
お父さんが心配そうに私を見る。
「気になる事でもあったのか?」
「あっ、何でもないよ。大丈夫」
今は、余計な事を考えずにしっかり話を聞かない駄目だった。
研究所には、最初にジナルさんとセイゼルクさん達が行くみたい。
さっきの様に大量に魔物はいないみたいだけど、少しはいるんだよね?
彼等の強さは知っているけど、やっぱり心配。
んっ?
警護の冒険者が仕事を放棄しているの?
「お父さん、そんな冒険者を雇う人いるの?」
「雇った者がいる時だけ、仕事をしている風を装う冒険者はいるな」
いるんだ。
「あとは、弱そうに見せて相手の油断を誘う冒険者も」
「色々いるんだね。研究所の警護をしている冒険者はどっちなんだろう?」
私の言葉にお父さんが少し悩む表情を見せた。
「森の中にある研究所の警備だから、誰も襲って来ないと自己判断して油断している可能性はある。もしくは、襲ってくる相手を油断させるために演技をしている可能性もある」
「作戦の1つという事か」
「うん。今回はどちらなのか分からないが、何事も無ければいいな」
ジナルさん達が研究所に向かうのを見送る。
そして彼等の姿が少し見えるぐらい離れたら、私達も移動を始める。
ジナルさん達の姿を追いながら、ちょっとだけ考えてしまう。
二手に分かれたのは、もしもの事態に備えてではないかと。
最初の研究所では、二手に分かれる事はなかった。
まぁ私がいたので、研究所に行かなかった者はいたけど。
でも今回の様な感じではなかった。
魔法陣で狂った者達がいると言っていた。
彼等は、それだけ危険な者達なのだろうか?
もしくは、魔法陣が発動した場合の事を考えて?
「お父さん」
「どうした?」
「大丈夫だよね?」
「あぁ。大丈夫だ」
お父さんの力強い声に頷く。
そうだよね。
うん、大丈夫。
「行くみたいだな」
ジナルさんが私達に合図を送ると、研究所内に入って行くのが見えた。
お父さん達が、ゆっくり研究所に近付き武器を構える。
「アイビーも」
「分かった」
雷球用の手袋をつけ、すぐに投げられる様に2個の雷球を専用バッグから取り出す。
「逃げた?」
「えっ?」
ガガトさんの声に視線を向けると、研究所から4人の男性が走って出て来るのが見えた。
「あれが警護の冒険者みたいだな」
お父さんを見ると、険しい視線を冒険者達に向けていた。
「やばい! 何かするつもりだ!」
ガガトさんの声に、冒険者達に視線を戻す。
彼等は、バックから取り出した物を研究所に向けて投げようとしていた。
次の瞬間、彼等に向かって矢が放たれた。
グサッ。
グサッ。
グサッ。
グサッ。
凄い、全部命中した。
少し離れた所で矢を構えているフィロさんを見る。
ドガーン。
冒険者達がいた辺りで大きな爆発が起こると、爆風で舞い上がった小さな石や枝が飛んで来た。
とっさに顔を腕で隠す。
「大丈夫か?」
顔を上げると、お父さんが私の前にいた。
「大丈夫、ありがとう。お父さんは大丈夫?」
さっとお父さんの全身を見る。
良かった、怪我は無いみたい。
「大丈夫だ。ロティス、フィロ、ガガトは大丈夫か?」
「問題無いわ」
ロティスさんが、髪についた小石を払いながらお父さんを見る。
「俺達も大丈夫だ。少し怪我をしたけど、これぐらいならポーションですぐに治る」
フィロさんが、血が滲んでいる傷にポーションを掛けるとすぐに傷は治った。
ガガトさんは、警戒しながら研究所に向かう。
それにロティスさんが続く。
「大丈夫か?」
研究所内から、ヌーガさんが顔を出す。
「大丈夫だ? そっちは?」
ガガトさんの言葉に、ヌーガさんが頷く。
「驚いたけど、問題ない」
ヌーガさんは近くで倒れている冒険者達を見ると、すぐに研究所内に戻った。
「にゃうん」
シエルの鳴き声に視線を向けると、研究所とは違う方を向いていた。
その様子にお父さんが武器を構える。
私も雷球をすぐに投げられる様に持つと、シエルの視線の先を見た。
「何かあったの?」
私達の様子に気付いたロティスさんとフィロさんが、武器に手を掛ける。
彼女は、倒れた冒険者達を調べているガガトさんが守る様な位置に立ち、お父さんを見た。
「シエルが何かに反応をしている。でも、それが何か分からない」
お父さんの言葉にガガトさんは手を止め、周りを見回した。
さっと何かが木々の間を走り抜けた。
でも気配を感じない。
「魔物だ。数は不明」
お父さんの言葉に、ロティスさん達が武器を構えた。
「アイビー、木の上に。上から様子を見てくれ」
「分かった」
お父さんの言葉に、周りにある木を確認する。
少し離れた所に、太く大きな木を見つけた。
「お父さん、左にある木はどう?」
「あぁいいな。少し移動しよう」
シエルとお父さんが周りを警戒しながら、目的の木の傍まで移動する。
「頼むな」
「分かった」
木に登り、周りを見回す。
近くに潜んでいる魔物は5匹。
「5匹が近くにいて、お父さんに2匹。ロティスさん達にそれぞれ1匹ずつ」
周りを見ると、こちらに向かって来る魔物の姿もあった。
「周りから魔物が集まって来ているみたい。ガガトさん!」
ガガトさんの近くにいた魔物が動いたので声を上げる。
彼はすぐに対応し、魔物を切り倒した。
「ロティスさん! お父さん!」
1匹が動くと、次々に他の魔物も動き出した。
2人はすぐに魔物を倒すが、その内の1匹が上を向いて鳴いた。
ギャアウ。
魔物の声が森に響き渡ると、魔物の動きが一斉に速くなる。
「一気に攻めてきたよ」
「分かった。アイビーは上から攻撃してくれ」
「うん」
お父さん達が次々と魔物を倒して行く。
私も、雷球を魔物にぶつけ大型以外は倒す事が出来た。
ただ、しっかりぶつけないと倒せないのでまだまだ倒せる数は少ない。
シエルが、皆の間を走り回って、魔物を倒して行くのが見えた。
その迫力に、魔物が少し引いている。
シエルは本当に強いな。
「あっ! ロティスさん、後ろ」
2匹の大きな魔物の相手をしているロティスさんに、もう1匹の魔物が向かっていた。
少し距離があるけど、雷球を思いっきり投げつける。
バチバチバチ。
当たり方が良かったのか、ロティスさんに届く前に倒す事が出来た。
「アイビー、ありがとう。あぁ、それにしても鬱陶しい」
ロティスさんは足で前にいた魔物を蹴ると、少し体制を崩した魔物の首を切り落とした。
彼女の戦い方は、凄い豪快なんだよね。
特に足でよく蹴っている。
しばらくすると、襲ってくる魔物が減り皆に余裕が生まれた。
「アイビー、怪我は?」
「大丈夫。お父さんは?」
「少しな、だから気にするな」
大きな怪我は無いという事かな。
ロティスさんは大丈夫そうかな。
フィロさんとガガトさんもかすり傷程度みたい。
「さっきの魔物、崖の所にいた魔物とは違ったな」
「うん」
今襲って来た魔物は、普通の魔物に見えた。
痩せてもいなかったし。
ただ、気配は無かったけど。
「にゃうん」
シエルを見ると、私の傍に駆けて来る。
「シエル、ありがとう」
「にゃうん」
研究所内に行った、ジナルさん達は大丈夫かな?




