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891話 見せられないな

―ジナル視点―


ロティスとフィロに合図を送る。

2人はすぐに反応し、俺の視線の先にいる見張り役に視線を向ける。


俺とロティスとフィロは、他の者達より先に研究所に来た。

アイビーには、研究所周辺の状態を調べるためだと言った。

3人なのは、こちらの動きを敵に知らせないため。


彼女は少し首を傾げたけど頷いてくれた。

おかしいとは思っているだろうけどな。


だって、あれだけ崖や森で暴れたんだ。

研究所の中の者達が、気付かないわけが無い。

でも、アイビーは何も言わず見送ってくれた。

彼女の凄いところは、引くところをしっかり分かっている事だろう。


ロティスとフィロからの合図で、俺は見張り役に向かって走りだす。

見張り役は、少し焦った表情を見せたがすぐに俺に向けて剣を構えた。

が、後ろからロティスに蹴り飛ばされ、地面に叩きつけられた。


「ぐあぁ」


「さて、準備しようか」


地面に転がった見張り役に素早く近付くフィロ。

そして、髪を後ろに引っ張り口を開けさせると、手に持っていた瓶の液体を流し込んだ。


「はい。飲んだ。完了」


「ごほっ、ごほっ」


喉を抑ええづく見張り役に、フィロが無表情で視線を向ける。


「無駄だよ。飲んじゃったからね」


フィロの言葉に、見張り役は青くなる。

それを見て、にこりと笑顔になるフィロ。


「では、全て話して貰おうか」


フィロのそんな姿を見ながら、アイビーには絶対に見せられないなと思った。


俺達が別行動をしたのは、見張り役から話を聞くためだ。

その時に使う薬が、ちょっと問題だった。


その薬は、人生で1回だけ使う事が出来る「特別な自白剤」。

なぜ1回なのかというと、使った相手が必ず死ぬからだ。

つまり、かなり強い毒だ。

そのため、使用は禁止されている。

表向きは。


俺が持っていたのは、裏の仕事では必要とする時があるからだ。

例えば、情報を素早く得ないと多くの人が死ぬとか。

つまり今回は、王都が襲われるかもしれないため、使用が許された。

まぁ「使用していいよ」とは言われていないが。

だって禁止されている薬だからな。


「どうして」


「その印」


見張り役の言葉に、彼の手首を指す。

そこには、小さな印が肌に刻まれていた。

それは教会の情報操作部隊の印だ。

人を混乱させたり、裏切らせたりするかなり危険な部隊。

その部隊にいる者達は、決して口を割らない事で有名。

だから俺は「特別な自白剤」を使用した。


「ははっ、無駄だ」


見張り役は、俺を見てニヤリと笑う。


「あぁ、契約? 安心しろ。その薬を飲むと契約が無効化されるから」


俺も同じ様な笑みを見張り役に向ける。


「えっ、くそっ」


「さぁ、はじめましょうか」


ロティスが見張り役の尋問を始めると、フィロが時計を確認した。

この薬の効果は、20分。

その間に聞けるだけ聞かなければならないからだ。


俺は周辺を見ながら、他の見張り役や魔物がいないか警戒する。

いつもなら、魔物は気配で確認するが今回はそれが使えない。

さっき襲って来た魔物は、気配が全く感じられなかった。


「あんな魔物がまた大量の出て来ると、厄介だな」


先ほどの事を思い出して、げんなりする。


研究所で実験体にされた魔物。

研究所に近付けば、そんな魔物が出て来る可能性を考えていはいた。

でも、あんなに大量だとは考えていなかった。


それにしても、研究所を警護する者達がいないな。

どういう事だ?

雇わなかったのか?


「ジナル」


「どうした?」


ロティスを見ると、険しい表情をしている事に気付いた。


「今日の朝から、研究所内の様子がいつもと違うそうよ。それと数日前に、急に研究所内にいるほとんどの魔物を森に放ったらしいわ。その原因は見張り役には分からないみたい。あと、岩に刻まれた魔法陣についても知らなかったわ」


つまり研究所内には、魔物がほとんどいないという事か。

それは良かった。

そして朝からいつもと違う、か。

俺達の動きを察知して、予定を早めた可能性があるな。


「あの見張り役、情報を知り過ぎない様に活動を制限していたみたい。でも、研究所の地下に大きな空間があって、1カ月前から何かし始めた事は知っていたわ」


大きな部屋の床か。

そこに魔法陣があるんだろうな。


「地下への行き方は?」


「大丈夫。聞いたわ」


「ぐぅぅ」


不意に聞こえた苦しそうな声に視線を向ける。


「時間だ。聞く事があるなら最後になる」


フィロの言葉に、ロティスが俺を見る。

俺は首を横に振って「ない」事を伝えた。


もう見張り役に聞く事は無い。


「あがぁぁぁ」


見張り役が苦しそうに地面を転がる。

しばらくすると、ぴたっと動きを止めた。


フィロが脈を確認すると、俺を見て頷く。


「これ、どうする?」


「木々の間に隠しておいてくれ。研究所を燃やす時に、一緒にそれも燃やすから」


「分かった」


俺の言葉にフィロは、見張り役を研究所の近くの木々に隠した。

少し離れた場所にいるロティスが、フィロに声を掛けた。

どうやら、ロティスの場所から見張り役の足が見えたそうだ。


セイゼルク達の下に戻る。

休憩していたアイビーは、俺達の姿を見るとホッとした様に笑った。


「おかえり。お茶は飲む?」


彼女の言葉に首を横に振る。


「全ての事が終わったら貰うよ。皆、研究所の内部の事が少し分かった」


見張り役から聞き出した情報を、ロティスが説明する。

研究所内にいる魔物は、あまり多くない事。

研究所地下に魔法陣がある可能性。

研究者の中に魔法陣で狂った者がいるため、危険な事。

彼女は全てを話すと、アイビーからお茶を受け取った。


「全員で研究所に入るのか?」


セイゼルクの言葉に、首を横に振る。


「いや、二手に分かれる」


先に入った者達が、全員殺された場合の事も考えておく必要がある。

見張り役の話では、警護に雇われた冒険者達はそれほど強くないそうだが、もしもという事がある。


それに魔法陣で狂った者達。

彼等が何人いるのか、見張り役は知らなかった。

彼等は自分達にとって邪魔だと判断すると、何をしてくるか分からない。


「ジナル、警護の冒険者はまだ全員生きているのか?」


「あぁ、研究所周辺にはいなかったからな」


警護の冒険者を減らしおく予定だったが、出来なかったんだよな。

予定外の事があって。


俺の言葉に、セイゼルクが首を傾げる。

それにロティスが笑う。


「雇った冒険者は、ほとんど仕事をしないらしいわ。普通は外で警護するのに、研究所内でのんびり過ごしているそうだから」


彼女の言葉に、セイゼルク達が呆れた表情をする。


「油断だけはするなよ。見張り役から見た情報で、本当のところは分からないから」


警護をしている冒険者達が、そう見えるようにした可能性もある。

理由は、考え付かないが。


俺の言葉に、セイゼルク達の表情が引き締まる。

彼等の事だから、緊張し過ぎて動けなくなる事は無い。


だから注意するのは、気の緩み。

相手が弱くても、気が緩めば隙が生まれ殺される事だってある。

まぁ、セイゼルク達だったら大丈夫だろう。


「先に研究所に入るのは、俺とセイゼルク達『炎の剣』。異論は?」


全員を見渡す。


「無いようだから、行こうか」


ロティス達とドルイド達は、少し後から研究所に来る様に言う。


「分かったわ」


「分かった」


ロティスとドルイドが頷くを見て、研究所に向かう。

木の魔物とサーペントが一緒に来た。


「魔法陣で狂った者に会った事は?」


セイゼルクの言葉に、ジナルは頷く。


「ある。彼等は知性も理性も無い。ただ魔法陣を使わずにはいられない狂った者達だ。魔法陣で攻撃をしてくるだろうから気を付けてくれ」


「捕まえる必要は?」


シファルの言葉に、小さく笑う。


「必要無い。魔法陣で狂った者達は、助からない。見つけ次第、殺してくれ」


「「「「分かった」」」」


申し訳ありません。

4月30日は更新をお休みいたします。

次回は、5月2日です。

これからも、どうぞよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 見張り役から聞き出した情報を、ロティスが説明する。 研究所内にいる魔物は、あまり多くな事 「あまり多くない事」
[良い点] アイビーの違和感はここに繋がるのですね。 大きな魔法陣はきついですね。 ソルは、、、、そこまで広がるのだろうか、、、、。 モモンガみたいで可愛いかな。 [一言] よいおやすみをお過ごしくだ…
[一言] うーん、修羅の道 確かにこれはアイビーに見せられないよ!
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