890話 木の魔物の来襲
鳴き声が聞こえた場所に向かっていると、また木の魔物の鳴き声が聞こえた。
「ぎゃー、ぎゃー」
「俺達と一緒に旅をして来た、木の魔物の声では無いようだな」
ヌーガさんの言葉に、ジナルさんが「そうだな」と応える。
「ぎゃ、ぎゃ」
「ぎゃぎゃ、ぎゃぎゃ」
「何匹いるんだ?」
「最初の鳴き声とも違うから、最低でも4匹か? 最悪だな」
セイゼルクさんの言葉に、ジナルさんが嫌そうな表情をする。
「いたぞ、ロティス達だ」
ジナルさんの視線の先には、3匹の木の魔物に囲まれ戦っているロティスさんとフィロさん。
そして、2人を守るように前にいるポポラの姿。
ガガトさんの姿は無い。
ジナルさんが一番近くにいた木の魔物に攻撃を仕掛けると、木の魔物の意識がロティスさん達から逸れる。
「ありがとう」
木の魔物に囲まれていたロティスさん達が、急いで木の魔物から離れる。
「ぎゃ、ぎゃ」
「ぎゃぎゃ、ぎゃぎゃ」
2匹の、木の魔物の根がロティスさんを追う。
それをセイゼルクさんとお父さんが、叩き切った。
「ぎゃ、ぎゃ~」
「ぎゃぎゃ~、ぎゃぎゃ~」
森の中に木の魔物の鳴き声が響き渡る。
「ぎゃー、ぎゃー、ぎゃー、ぎゃー、ぎゃー」
少し離れた場所から、木の魔物の鳴き声が響いた。
「ここ以外にもいるのか。何処だ?」
ジナルさんが、木の魔物から逃れてきたロティスさんを見る。
「向こうは4匹よ。ガガトが木の魔物に応戦してるわ。今はどうなっているか分からない」
4匹にこっちの3匹。
「7匹もいるのか!」
セイゼルクさんの声に、フィロさんが首を横に振る。
「ガガトが木の魔物2匹は倒していた。だからあと、最低5匹か? 増えていなければだけどな」
「ぎゃー」
離れた場所から木の魔物の鳴き声が聞こえ、緊張が走る。
そしてしばらくすると、バサバサと木々を倒しながらこちらに来る存在に気付いた。
「木の魔物が増えそうだな」
ジナルさんの声にかぶさるように、近くの木々が倒れ木の魔物が姿を見せる。
「大きい」
姿を見せた木の魔物は、今まで出会った中でも一番の大きさと良いっていいほどで、唖然としてしまう。
あまりの大きさに、ジナルさん達までその姿を見て動きを止めた。
「あぶない!」
ガガトさんの言葉にジナルさん達は、すぐにその場所を離れた。
バシーン。
大きな木の魔物は、根が太くとても長いため攻撃範囲は広い。
そして、振り落とされる速度は、どの木の魔物より速かった。
バシーン。
バシーン。
バシーン。
邪魔な木を倒しながら、根で攻撃を仕掛けて来る大きな木の魔物。
3匹の木の魔物も、ジナルさん達に攻撃を始める。
「ガガト、無事だったの?」
ロティスさんと合流したガガトさん。
彼に姿に、ロティスさんがホッとしたのが分かった。
「あぁ、あっちの木の魔物が全て倒して来たから。こっちは……あれは少し面倒だな」
大きな木の魔物を見て、ガガトさんが険しい表情をした。
何度も繰り出される根での攻撃。
ジナルさん達は、それを避けながら木の魔物に近付くと攻撃を仕掛けた。
「くそっ。効かない」
セイゼルクさんが木の魔物に火の攻撃を仕掛けたが、なぜか全く効いていない。
「防御魔法か?」
ヌーガさんの言葉に、お父さん達が焦りを見せ始める。
「ぎゃっ、ぎゃっ」
新たに聞こえた木の魔物の鳴き声に振り返って崖を見る。
「崖にも、木の魔物がいるの?」
今、聞こえた木の魔物の鳴き声は崖から響いて来たように聞こえた。
「崖にはまだ、死んだ魔物の処理をしているシファルとラットルアがいる。くそっ。別行動をするべきでは無かったか?」
バキバキバキ。
近くから聞こえた木の倒れる音に視線を向けると、新しく木の魔物が姿を見せた。
「また来た!」
フィロさんとお父さんが、剣を構えた。
「待って! その子は一緒に旅をした木の魔物だから!」
新しく姿を見せた木の魔物は、ずっと一緒にいた木の魔物だ。
「「悪い!」」
私の言葉に、お父さんとフィロさんが慌てて剣を下げる。
「ぎゃっ、ぎゃっ、ぎゃっ」
一緒に旅をしてきた木の魔物は、空に向かって鳴くと3匹の木の魔物に向かって一気に走る。
そして、攻撃範囲に入ったのか根を振り回して、次々と木の魔物を倒して行く。
その勢いに、ジナルさん達が驚いた表情をした。
「すごい」
「うん。向こうにいた木の魔物も、あの木の魔物が一気に倒したんだ」
私の言葉にガガトさんが、少し悲しそうな表情を見せた。
それに首を傾げる。
バシーン。
バシーン。
バシーン。
バキバキバキ。
大きな木の魔物が、味方の木の魔物に向かって根を振り下ろす。
最後の攻撃が枝に当たると、割れる音が森に響いた。
「ぎゃっ、ぎゃっ」
味方の木の魔物が鳴くと、大きな木の魔物はもう一度根を振り上げる。
根が振り下ろされると、全員が身構える。
が、何故か攻撃が止まる。
「どうしたんだ?」
大きな木の魔物は、根を振り上げたままで動かない。
それに首を傾げなら、ジナルさんが大きな木の魔物に少し近付く。
「ぎゃっ、ぎゃっ」
「……」
味方の木の魔物が鳴くと、大きな木の魔物の根がピクリと動く。
でも、攻撃はしてこない。
「ぎゃー」
不意に大きな木の魔物が鳴くと、根を動く。
それをジッと見る味方の木の魔物。
「逃げろ!」
ジナルさんが、味方の木の魔物に向かって叫ぶ。
それに応えるように、根っこがゆらゆらと揺れるが逃げようとしない。
大きな木の魔物の根が勢いよく振り下ろされた。
ひゅっ。
ばきばきばき、ばきばきばき。
ギュッと目を閉じる。
音が止んだのでそっと視線を向け、目を見開く。
大きな木の魔物は、高く振り上げた根を自らの幹に振り下ろしていた。
そして、大きく割れた部分に根を無理矢理入れると、中から何かを引きずり出した。
「魔石か」
ガガトさんの言葉に、魔法陣の刻まれた魔石が埋め込まれていた木の魔物を思い出す。
きっとこの子も同じなのだろう。
「ぎゃー」
ドーーン。
バキバキバキ。
大きな木の魔物が倒れると、下敷きになった木々の割れる音が聞こえた。
しばらく、誰も動くこと無く倒れた木の魔物の様子を窺う。
「ぎゃっ、ぎゃっ」
木の魔物の鳴き声に、ジナルさんが剣を構えると倒れた木の魔物に近付く。
「死んでいる」
全員が、ホッとした様子を見せたが表情は苦しそうに歪んでいた。
「シファルとラットルアは、大丈夫かしら?」
ロティスさんの言葉に、全員が崖の方を見る。
あれから、木の魔物の鳴き声は聞こえない。
争っているような音も聞こえない。
それが不安を煽る。
「俺とヌーガが、見に行くよ。助けが欲しい時は、合図を送るからよろしく頼む」
セイゼルクさんとヌーガさんが急いで崖に戻って行く。
その姿を見送っていると、ジナルさんが転がっていた魔石を拾ったのが見えた。
「……こんな物が」
低い声で呟くジナルさん。
彼は魔石を握ると、険しい表情をする。
そんなジナルさんから、1歩後ずさる。
彼から漏れ出る魔力で体が震えた。
「ジナル、殺気を押さえろ」
お父さんが私の背に手をあて支えると、ジナルさんに声を掛ける。
それにハッとした表情をした彼は、私を見て申し訳なさそうな表情になった。
「悪い。大丈夫か?」
「うん。大丈夫」
あれが、ジナルさんの本気の殺気?
怖かった。
「あれっ、戻って来たみたいだ」
ガガトさんが崖の方を見ると、片手を上げた。
「悪い、遅くなった」
サーペントさんに乗った、シファルさんとラットルアさん。
途中で合流したのだろう、セイゼルクさんとヌーガさんもいた。
「大丈夫だったか?」
「あぁ、サーペントが来てくれたから余裕で倒せたよ」
サーペントさんは、シファルさん達の方に行っていたのか。
全員を見渡す。
怪我を負っているロティスさんとフィロさん。
ガガトさんも、腕をさすっている。
「ソラ、お願いね」
「ぷっぷぷ~」
バッグを開けると、ソラがロティスさんに向かって行く。
そして怪我した部分を包み込むと治療を始めた。
「ソラ、ありがとう。あとでポポラもお願いしていい?」
「ぷっぷぷ~」
治療はすぐに終わり、ソラはポポラに向かう。
「ポポラも怪我を負ったのか?」
「うん。私とフィロを助けるために」
ジナルさんの言葉に、ロティスさんが少し泣きそうな表情でポポラを見た。
「ぷっぷぷ~」
ポポラの治療が終わると、フィロさんとガガトさん。
全員の治療が終わると、満足そうな表情で私の下に戻って来た。
「ありがとう。ソラ」
「ぷっぷぷ~」
ソラの頭を撫でる。
つるんとしたいつもの触り心地に、ホッとする。
「次は研究所だな」
ジナルさんの言葉に、ロティスさんが頷く。
「今日で研究所は完全に叩き潰すわよ」
彼女はチラッと倒れている木の魔物を見る。
「これ以上、悲しい子達を生み出させないためにも」




