887話 ちょっと休憩
朝食を簡単に済ませ、目的の研究所に向かう。
木の魔物とサーペントさんが頑張ってくれるので、明日には研究所近くに着く予定だ。
木の魔物達が本気で走れば今日中に着けるのだけど、それはジナルさんが丁寧に断っていた。
「戦闘になった時にふらふらだと困るから」と。
カシム町に着いた時の皆の状態を思い出して、もの凄く納得した。
ゆっくり走るので、シエルも余裕そうだ。
「そろそろ昼だな、少し休憩しようか」
ジナルさんの言葉に、木の魔物とサーペントさんは少しずつ速度を落としていく。
「あそこはどうかしら?」
ロティスさんの指す方を見ると、少し開けた場所が見えた。
「いいな。あそこに行ってくれるか?」
「ククククッ」
ジナルさんの指す場所を見たサーペントさんは一声鳴くと、木の魔物と向かう。
見つけた場所に着くと、木の魔物から下りてゴザを敷く。
その上に、おにぎりとサンドイッチが入ったカゴを5個ずつ出す。
その間に、セイゼルクさんとヌーガさんが飲み物を用意してくれていた。
「ヌーガさん、セイゼルクさん。ありがとう」
「アイビーもな。お~い、食べれるぞ」
セイゼルクさんが私の頭を撫でると、ジナルさん達に声を掛ける。
「ありがとう。朝が早かったから、お腹が空いたわ」
皆がそれおぞれおにぎりやサンドイッチに手を伸ばす。
その横で、ソラ達が入っているバッグを開けた。
「皆、少しの間だけど外で遊ぶ?」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
ソラ達はバッグから出ると、食べている私達の周りで遊び始めた。
「ずっとバッグの中だから嬉しそうだな」
お父さんの言葉に頷くと、サンドイッチを食べる。
野菜多めのサンドイッチは、さっぱり食べられていいな。
皆には、ちょっと不人気みたいだけど。
ジナルさん達は食事が終わると、地図を広げこれからの事を話し合いだした。
ジナルさんとセイゼルクさんの話を聞いていると、目的の場所の近くには崖があるらしい。
そしてそれが、少し気になるようだ。
「罠を仕掛けている可能性があると?」
「ん~、罠だったらいいが。魔法陣だと厄介だ」
フィロさんの質問にジナルさんが応えると、全員の表情が険しくなる。
「魔法陣か。確かに、それは厄介だな」
お父さんは地図を見て、ジナルさんが書き込んだ赤い丸を指す。
「研究所は、ここで間違いないんだよな?」
「あぁ。ロティスを襲った者達が持っていた地図に書き込まれていた場所だ。あと、彼らの持っていた書類に載っていた地図にも、この場所に印が付いていた」
「崖を先に調べよう。研究所を大きく迂回するから少し時間は掛かるが、安全を最優先にした方がいいと思う」
お父さんの言葉に、フィロさん達が頷く。
ジナルさんも、皆の反応を見て頷いた。
「そうだな。少し遠回りになるが、その方がいいだろう」
ジナルさんが地図を持って木の魔物とサーペントさんの傍に寄る。
「悪いんだが、ここをまっすぐではなく、右に大きく回り込む事になったんだ。いいか?」
「ぎゃ」
「ククククッ」
ジナルさんの言葉に、木の魔物とサーペントさんが鳴く。
どうやら、これからの道が決まったようだ。
空になたカゴをマジックバッグに入れ、ゴザも仕舞う。
飲み物のカップは、ガガトさんが洗ってカゴに入れてくれたので、そのままマジックバッグに入れる。
「ありがとう」
「どういたしまして。そうだ、おにぎりの具って色々あるんだな。どれもうまかった。特に野菜とお肉の煮込んだ物が。ありがとう」
彼の言葉が嬉しくて、笑顔になるのが分かった。
ジナルさん達が動き出したので、ソラ達に視線を向ける。
「皆、行こうか」
遊んでいたソラ達を呼ぶと、元気に戻って来る。
皆をバッグに入れると、木の魔物に乗る。
走り出すと、微かな違和感。
「あれ? さっきより速い?」
「そうみたいだな。少し遠回りする事になったから、速度を上げたのかもな」
お父さんの言葉に頷く。
「これぐらいだったら、ジナルさん達は大丈夫――」
「木の魔物もサーペントも、もう少しゆっくり行って欲しい」
駄目だったようだ。
少し慌てた様子でジナルさんが、ゆっくり走るようにお願いした。
「ぎゃぁ」
「ククククッ」
少し残念そうに鳴く木の魔物とサーペントさん。
その様子を見た、お父さんと笑ってしまう。
しばらく走ると、ジナルさんが止まるように木の魔物とサーペントさんに言う。
「どうした?」
フィロさんが周りを見てジナルさんを見る。
「今日は、この辺りまでの予定なんだ。セイゼルク、あの木と岩の位置から、この辺りが予定にしていた場所で間違いないか?」
彼は、地図を確認して頷くとセイゼルクさんに視線を向けた。
「あぁ、この辺りだ。シファル、覚えているか?」
「うん。あっちだ」
セイゼルクさんとシファルさんの会話から、この辺りを知っている事が窺えた。
シファルさんの指示で移動すると、大きな木の下に出た。
「ここだな」
「そうだな。でも木の魔物とサーペント、それにシエルがいるのに必要だったかな?」
シファルさんの言葉に、セイゼルクさんが笑う。
「確かに必要ないかもな」
どういう意味だろう?
不思議に思い2人を見ていると、お父さんが驚いた声を出した。
「凄いな」
「えっ?」
お父さんを見ると、大きな木を見上げている。
釣られて私も視線を向けると、
「うわっ」
一面に赤い小さな花が咲いていた。
でも、花に少し違和感を覚える。
「この木、花が全て下を向いて咲いているんだよ」
あぁ、だからここから綺麗に花が見えるのか。
ラットルアさんの言葉に頷くと、バッグがごそごそと動くのが分かった。
「皆?」
ソラ達の入っているバッグを開けると、勢いよく飛び出してくるソラとフレム。
ソルだけはゆっくりと出てきた。
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
嬉しそうに木の下で飛び回るソラとフレム。
その反応にセイゼルクさん達が驚いている。
「ソラ達は、どうしたんだ?」
ラットルアさんの言葉に肩を竦める。
「分からない。でも、凄くこの場所が好きみたい。この木が好きなのかな?」
ソラ達の反応から、木に反応しているのは分かる。
「少し心配だったんだけど、ソラ達や木の魔物達は大丈夫みたいだな」
「どういう事だ?」
シファルさんの言葉に、お父さんが視線を向ける。
「この近くで、魔物に襲われた事があったんだ。近くの洞窟から帰る時に」
シファルさんの言葉にお父さんが首を傾げる。
「上位魔物だった事と気付くのが遅れた事でちょっと危ない状態になってしまって、この木の所まで逃げて来たんだよ。そうしたら、なぜか魔物が追って来なかったんだ。それで、この近くに来た時はここで休憩する事にしているんだ。今回は木の魔物やサーペント。それにソラ達がいるから迷ったんだけど、全く問題ないようだな」
木の傍で遊ぶソラとフレム。
シエルやソルも木の近くでくつろいでいる。
あれ?
木の魔物とサーペントさんは?
「アイビー、あっち」
お父さんの指す方を見ると、木の魔物とサーペントさんもくつろいでいるのが見えた。
どうやら、この目の前にある木は不思議な力を持っているみたいだ。
「この木について調べたんだろう?」
「調べたけど、普通の木だったよ」
ガガトさんの質問に、セイゼルクさんが残念そうに言う。
それに、ガガトさんだけでなくロティスさんやフィロさんも驚いた声をあげた。
「それは、本当なの?」
ロティスさんがセイゼルクさんにぐっと近づく。
それに背を反らしたセイゼルクさんが頷く。
「近い! 本当だ。鑑定スキル持ち3人に枝や葉、それに花を調べてもらったが『森にある一般的な木』だそうだ」
あぁ、確かに葉っぱの形や枝の形が、森で一番よく見かける木だ。
ただ花だけは違うと思う……んっ?
咲く方向が違うだけだ。
これも森で一番よく見かける木の花だ!
「不思議な事があるのね」
木を見ながら呟くロティスさん。
その傍で、ポポラが木の幹に寄り掛かって欠伸をしている。
確かに不思議な木だね。




