番外編 フォロンダ領主と組織6
―フォロンダ領主視点―
冒険者ギルドと騎士団からの報告書に目を通す。
どちらの組織も、すぐに動ける体制になったようだ。
それに少しホッとする。
もしも、町中に魔物が現れたら被害は相当なものとなる。
それを少しでも減らすためには、この2つの組織の連携が必要になる。
「だが、これでどれだけ対応出来るか」
マーチュ村の最終報告書を思い出す。
魔法陣によって村の傍に現れた多数の魔物。
それが王都を襲ったら……。
「はぁ。魔法陣が何処にあるのか、それさえ分かれば対応も出来るのだが」
コンコン。
「誰だ」
「アマリです」
「どうぞ」
執務室に入って来たアマリが、俺を見て眉間に皺を寄せた。
「少しでも睡眠はとって下さいね。体がもちませんよ」
「……分かっている」
まさかすぐにバレるとは。
そんなに酷い顔色なのか?
「目の下の隈。かなり酷い事になっていますよ」
そうか?
鏡で見て確かめたが、大丈夫だと思ったが。
「何年、フォロンダ様に仕えていると思っているのです? 主人の健康管理も私の仕事の1つです。最近は色々と調べる事が多く、傍にいませんが」
「悪いな」
その原因は、俺が仕事を頼むからだ。
「別に仕事は好きなので大丈夫です。心配なのはフォロンダ様の健康だけです。今日はしっかり寝ていただきます」
「いや、まだ……」
執務机にある書類の束を見る。
どれも重要な物ばかりで、人に任せる事が出来ない。
そして期日が迫っている。
「今日あたり、フォード様が手伝いに来ます」
息子が?
「フォードには、王城の警備責任者を任せているから無理だと思うが」
特に今は、第1王子と第2王子の取り巻きだった者達が集まり出した。
おそらく何か問題を起こすつもりだろう。
彼には、その対応もしてもらっている。
だから俺を手伝う余裕は無いはずだ。
「フォード様の仕事は、彼の補佐達がするので大丈夫ですよ」
何かおかしいな。
フォードがこちらに来る問題が起こったのか?
「えっ? もしかしてまだ報告書を読んでいないですか?」
俺の反応に首を傾げたアマリが、驚いた表情を見せる。
「報告書?」
「えっ?」
届いた報告書は、詳しく確認する前に全て目を通して重要度で分けている。
その中に、フォードがこちらに来るほど重要度の高い物は無かった。
だがこのアマリの驚き方からすると、重要度の高い報告書が抜き取られたようだな。
「まだネズミがいるようですね」
「はぁ、全て片付けたと思っていたがまだ残っていたか。それでどんな報告だったんだ?」
ネズミ狩りをすぐに行わないとな。
「オローガス子爵に手を貸す貴族の中に、魔法陣を描ける大きさの建物を持っている者がいました。しかも、王城の近くです」
あぁ俺が自ら動くと思ったから、フォードがこちらに来るのか。
「誰だ?」
「ミローゼ伯爵の嫡男です。おそらく、ミローゼ伯爵だとすぐに目を付けられるから子の名前を使ったんでしょうね」
「その建物の中を調べられるか?」
「既に調べるように指示を出しています。あとミローゼ伯爵家に潜り込んでいる者から、彼等が慌ただしく動き出していると報告が来ました」
「つまり、王都を狙う準備が整ったという事か」
「ん~」
俺の言葉に、首を傾げるアマリ。
「どうした?」
「それがどうも違うようなんです。ミローゼ伯爵が『奴等からの連絡が途絶えた』と、焦っていたそうです。あと彼の側近達が『失敗か?』とか『すぐに逃げた方が』などと話していたみたいなんですよね」
誰かからの連絡が途絶えただけで焦った。
それだけ、重要な人物なんだろうな。
「向こうでも問題が起こったと考えていいだろう。だが、それがどっちに転ぶかだな」
王都襲撃の計画を遅らせるか、それとも早めるか。
「建物の調査を『至急』で頼む」
俺の言葉に頷くアマリ。
王城の近くか。
ギルマスと騎士団の隊長に連絡しておかないとな。
コンコン。
「誰だ?」
「スイナスです」
第一倉庫でテイマーと星なしについて調べてもらっていたんだったな。
「どうぞ」
入って来たスイナスの姿に、俺とアマリは驚いた表情になる。
「失礼します。ここに来る途中でおかしな動きをしている者がいたので、確保して来ました。彼が持っていた物です」
スイナスはそう言うと、肩に担いでいた者を床に落とす。
そして数枚の紙を執務机に置いた。
「ぐぇ」
こいつは落とすと言ったら、本当に落とすからな。
床で苦悶の表情になっている者を見る。
そして、紙の内容を確認する。
どうやら抜き取られた報告書のようだ。
「あら、あなたは」
アマリの声が低くなる。
スイナスがスッと、床に転がる者から離れる。
「ロークよね。ふふっ。そう、あなただったのね」
「ひっ」
アマリの顔を見たローク、小さな悲鳴をあげる。
スイナスがもう1歩、ロークから離れる。
「さてと、色々と話して貰おうかしら? まずは誰からの指示でここに入り込んだんか、そこからね?」
ロークに手を伸ばすアマリ。
首をこれでもかと横に振る彼に、少しだけ同情する。
まぁ、助ける事は無いが。
「彼と2人っきりで話してきますね。ふふっ、すぐに話してくれると思いますわ。いえ、すぐに話したくなると思いますわ」
ロークの首根っこを持って、笑顔で引きずって行くアマリ。
執務室から2人の姿が消えると、スイナスと顔を見合わせる。
「テイマーと星なしについての報告です」
見なかった事にするのか。
まぁ、それが良いだろうな。
「あぁ、頼む」
「テイマーについてですが、昔のテイマーは星の数に重きを置いていなかったようです」
「そうなのか?」
昔から星の数は、どのスキルでも重要視されていたと思ったが。
「テイマーにとって、星の数は当てにならないと書いてありました。その証拠に、昔は星が1つでも上位魔物をテイムしていた者がいたようです」
星が1つのテイマーが上位魔物。
今では、考えられない話だな。
「あと、テイマーと魔物が上手く関係を築くためには、魔力が影響すると書いてある文献もありました」
「魔力?」
「はい。そこで魔力について調べて見つけたのが、『魔力の色』と言う文献です」
魔力に色?
「魔力には色があるのか?」
「いえ、分かりやすく書くために『色』を使ったようです。彼の文献には『魔力は人によって色が違う。似たような色が合っても、全く同じ色は無いと言ってもいいのかもしれない。そして魔物は、自分と同じ色、もしくは似た色を持つ者が好きなのでは無いか』と、ありました」
テイマーが持っている魔力で、テイムされるか、されないか決めると言うのか?
確かに、星3つのテイマーなのにあるスラムのテイムしようとしたら、もの凄く拒絶されて最後には逃げられたと聞いた事がある。
あれは、魔力が合わなかったからと言う事なのか?
「『魔力と色』について書かれた文献の中に、星なしについても書かれていました」
「えっ?」
「その文献には、星なしは無色の可能性があると書いてありました。そして、全ての魔物は無色を好むのでは無いかと。ただ研究継続中とあり、続きはありませんでした。その文献を書いた者について調べましたが、忽然と姿を消したようです」
文献を書いた者に、何かが起こったという事か。
もしくは、何かを感じて自ら姿を消したか。
「文献とは関係ないのですが、教会が星なし達を孤立させるために忌み子と広め、誘拐し集めていたようです。教会の書類を確かめたのですが、星なしを集めた理由は不明でした。それと、教会の書類を確認していて気になった事があります」
教会のせいで星なしたちが迫害された事については確認している。
でも気になる事?
「なんだ?」
「教会に集められた星なしは全てテイマーでした。もしかするとテイマーにしか星なしがいないのではないかと思ったのです。他のスキルの星なしについて、書類に書かなかった可能性はありますが」
星なしがテイマーだけ?
それは気付かなかったな。
「分かった。ありがとう」
「調査は続けますか?」
「いや。スイナスは俺の護衛をしてくれ。近々、王都を襲う者達の一掃をするから」
俺の言葉に、少し目を見開くスイナス。
すぐに元の表情になると、真剣な表情で頷いた。




