885話 防御用の魔石
パンを捏ねて酵させて、同時にご飯を炊いて行く。
そして、パンに挟む具を作ったり、おにぎりの具を作ったり、とにかく忙しい。
「お父さん、そっちはどう?」
「大丈夫。あとは煮汁が無くなるまで煮込むだけだ。もう1つのお鍋は……もう少しかな?」
「ありがとう」
おにぎりにするには煮汁が無くなるまでしっかり煮込む事が大切。
具に味がしっかりつくからね。
「お父さん、味見して」
サンドイッチに挟むために作った焼いた味付き肉を、ちょっとだけスプーンに乗せるとお父さんを見る。
「はい」
あっ、おにぎりの具の灰汁取りをしていたのか。
「はい」
口を開けるお父さん。
それに笑って、スプーンをそっと口の中に入れる。
「うん、うまい。でもこれって野菜も挟むよな」
「うん。もちろん」
「お肉だけのサンドイッチを」と、希望は出ているけど却下!
「それならもう少し味が濃くても良くないか?」
えっ?
「そう?」
「うん。このまま食べてもいい感じだから、サンドイッチにすると薄いと思う」
「分かった」
少しだけ味を足して、少し炒めて……完成。
「よしっ」
もう1つ。
厚切りしたお肉を煮込んだ物は……まだ、少しかかりそうかな。
「ドルイド、悪い。頼まれていた防具を買って来たんだが、大きさを確認してくれ。調整するから」
セイゼルクさんが、調理場に顔を出す。
「分かった。アイビー、こっちのお鍋も見ててもらって良いか?」
「うん、いいよ」
今回、お父さんは戦力として参加する事になった。
だから、身を守るための防具などを一新する事にしたそうだ。
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
「皆、今日はごめんね。忙しいから、一緒に遊べないんだ」
シエルは、少し離れたところで寝ているんだね。
あれ?
ジッと見て来る皆に、首を傾げる。
「どうしたの」
「てっりゅ~」
フレムは一声鳴くと、プルプルと震えポンと魔石を作った。
「えっ?」
どうして今、魔石を作ったの?
「ぺふっ。ぺふっ」
魔石を拾おうとすると、ソルが慌てた様子で鳴き、魔石をパクッと食べてしまう。
魔石に伸ばした手をそのままに、ソルを見る。
お父さんとセイゼルクさんが、私の様子に気付いたのか調理場に入って来た。
「大丈夫か? どうしたんだ?」
お父さんの言葉に、伸ばしていた腕を戻す。
「うん、大丈夫。フレムが作った魔石を、ソルが食べたの」
これまでの事から、皆が作る魔石にはきっと意味があるはず。
ポン。
ソルが魔石を口から出すと、私の方に転がす。
「ありがとう」
少し戸惑いながら、転がって来た魔石を手にする。
赤と緑と青。
それに黒が混ざっている魔石のようだ。
そして、小さい。
「フレム、ソル。今回の事に、この魔石が役立つの?」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
「そうなんだ、ありがとう。えっとこれは攻撃用?」
「「……」」
違うという事は、
「防御用?」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふぃ」
んっ?
今、ソルがおかしな鳴き方をしたような?
「ぺふっ?」
ソルを見ると不思議そうに体を傾ける。
聞き間違いだったのかな?
「防御用の魔石ねぇ?」
どうして今なんだろう?
「あっ!」
お父さんを見ると、不思議そうな表情でこちらを見ている。
「お父さんの防具に付けるとか?」
「てっりゅりゅ~!」
「ぺふっ」
フレムの声が明らかに変わる。
ソルも、ちょっとだけ違うような気がする。
「お父さん、この魔石は防具に付ける物みたい。フレムとソルからだよ」
お父さんに魔石を持って行く。
「ありがとう。それにしても、随分と色が多いな。赤と緑と青と黒か」
「うん。何処かに付けられる?」
私の言葉に頷くお父さん。
身に着けている防具の胸のあたりに魔石を持って来る。
「ここに嵌めてもらうようにするよ」
「時間がかからない?」
「それは大丈夫だ。ロティスがお願いして優先してもらう事になっているから。それに、その大きさの魔石なら1時間もかからない」
セイゼルクさんの言葉にホッとする。
良かった。
ポン。
「「「んっ?」」」
後ろから聞こえた音に、振り返ると魔石が転がっていた。
それを視線で追うと、ソルがパクッと食べる。
そしてしばらくすると、
ポン。
お父さんに渡した魔石と似た物が、床を転がった。
ポン。
呆然とフレムとソルの様子を見ている、次々と生み出される魔石。
「んっ? あっ! お鍋!」
少し焦げた臭いに、慌てて火にかけているお鍋を確認していく。
「あ~、ちょっとだけ焦げちゃった。まぁ、でもこれぐらいなら大丈夫かな」
おにぎり用に作った具が少しだけ焦げてしまった。
でも、それほど酷くは無い。
きっと大丈夫だろう。
「大丈夫だったか? 作り直す必要がありそうか?」
お父さんが横に来ると、お鍋を覗き込む。
「大丈夫。少しだけだったから」
「良かった」
ポン。
ポン。
その間も、聞こえる魔石が作られる音。
「いったい、何個を作るつもりなんだろう?」
「ん~。もしかしたら人数分かな?」
お父さんの言葉に「なるほど」と頷く。
という事は、あと4個?
お父さんの言った通り、全員分。
9個を作ると、フレムとソルは満足そうな表情を見せた。
「皆の分だったんだね。ありがとう」
お礼を言いながらフレムとソルを撫でる。
お父さんは、転がった魔石を拾うとセイゼルクさんに渡す。
「ありがとう。しかし、凄いな」
魔石を翳すセイゼルクさん。
窓から入って来る太陽の光で、キラキラと魔石が輝く。
「これ、どうやって使うんだ?」
セイゼルクさんの言葉に、お父さんが肩を竦める。
「さぁ?」
「えっ? 分からないのか?」
「あぁ」
「そうか。防具なら……自然と防御魔法が展開するのかもな。これ、どんな魔石なのか調べてもらおうか? 冒険者ギルドに、星3つの鑑定スキルを持っている者がいたはずだ」
セイゼルクさんの言葉に、お父さんは少し考え首を横に振る。
「その魔石の存在を、あまり知られない方がいいと思う」
「えっ? どうしてだ?」
セイゼルクさんが、お父さんの言葉に首を傾げる。
「ソラのポーションや、魔法陣を無効化するソルの魔石。彼等が生み出して来た物は、本当に凄い力を持っていた。おそらく今回の魔石もそうだろう。下手に誰かに知られると、面倒な事になりかねない」
「あぁ、確かに」
お父さんの説明に、セイゼルクさんが納得したように頷く。
「フレム、ソル。この魔石は、防具に付けるだけでいいのか?」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
返事をするフレムとソル。
それにお父さんは頷くと、セイゼルクさんを見た。
「分かった。それじゃ、急いで皆の防具にこれを付けてもらうよ。あっ、大きさはどうだった?」
防具を取ったお父さんは、それをセイゼルクさんに渡す。
「問題なかった」
セイゼルクさんが、お父さんの防具と魔石を持って調理場から出て行くのを見送る。
「さて、料理作りに戻ろうか。それにしても、フレムもソルもありがとうな」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
「……ぷ~」
フレムとソルの元気な鳴き声の後に、元気が無いソラの鳴き声が調理場に響く。
「んっ?」
お父さんがソラを見る。
「もしかして、魔石作りに参加出来なかったから落ち込んでいるのか?」
「ぷっ!」
不貞腐れた様子で鳴くソラに、ちょっと笑ってしまう。
「ぷっ!」
あぁ、怒らせちゃった。
「ソラのポーションがあるから、ちょっと無理も出来るんだぞ。あれがあるから大丈夫って」
「ぷ~?」
「本当?」と、いうように体を傾けるソラ。
それにお父さんが頷くと、ソラを撫でる。
「そうだ。だからいつもありがとうな」
ん~私としては、ソラのポーションがあっても無理はしてほしくないんだけどな。
でもこれは、言っても無駄だろうな。
それに今回は、たとえ何が待っているとしても行かなければならない時なんだろうし。




