884話 忌み子
「ねぇ、ロウじい。教会はどうして星なしを『忌み子』だと、広めたの?」
「教会の屑共が攫いやすいようにだ。『忌み子』なら、いなくなっても誰も探さないだろう?」
「あぁ、なるほど」
ロウじいさんの説明に、ロティスさんが嫌そうな表情をする。
その隣でフィロさんも、同じ表情になっている。
「『忌み子』と呼ばれていたのは、星なしだけでないんだ。星なしより前には、『過去読み』がいる。彼等が一番、『忌み子』と呼ばれたせいで被害を被ったと言っていいだろうな」
過去読み?
占い師が持つスキル、過去視とは別のスキルなのかな?
「過去読み? そんなスキルは聞いたこと無いが」
フィロさんの言葉にロウじいさんが、首を傾げる。
「んっ? あぁそういえば、言い方が変わっていたな。たしか、過去視だったな?」
「過去読みは、過去視なのか?」
お父さんの言葉に、ロウじいさんが頷く。
「あぁ。過去視は教会が作った言葉だ。教会が過去読みを『忌み子』と広めせいで、多くの過去読みが居場所を追われたそうだ。今以上に教会が信じられていた時代だったからな。教会は居場所を失った過去読みにつけ込み、不当な契約をして利用した。スキル名を過去視と変え、占い師としてな 彼等は、教会に捕まって利用され続けた被害者だ」
占い師さんの顔を思い出す。
いつも優しく微笑んでいた彼女は、どんな気持ちで私に王都の隣町に行けと言ったんだろう。
「スキルを見られたら、一発でバレそうだけど」
ロティスさんの言葉に、ロウじいさんは首を横に振る。
「占い師に、誰がスキルを調べさせて下さいと言うんだ?」
確かに、誰も言わないよね。
占い師は、ちゃんと地位を確立しているから。
「随分と詳しいのね」
「俺の奥さんが過去読みだったからな」
「「えっ!」」
ロティスさんとフィロさんの声が、食堂に響く。
「彼女の生まれた場所は王都からかなり離れた村で、教会の力がまだ強かったんだ。だから過去読みと分かったその日に、両親と逃げ出したそうだ。各村を転々としている時に出会って、俺の一目惚れ。奥さんは一つの所に長くはいられないというから、着いて行ったんだ。いやぁ、若かったな。大変だったが、懐かしい思い出だ」
「そうだったんだ。 あれ? ロウじいの奥さんは、テイマーだったよね?」
えっ?
過去読みでテイマーだったの?
「ははっ。彼女のスキルは過去読みと確率読みだ」
「もしかして確率読みと言うは、今の確率視か?」
「あぁ、そうだ」
お父さんの言葉に、ロウじいさんが苦笑する。
つまり、占い師として必要なスキルを持っていたという事だよね。
「えぇ? でもテイムしていた魔物がいたわよね?」
「くくくっ。あの子は俺がテイムしていたんだ」
ロウじいさんの言葉にロティスさんが小さく唸る。
「ん~。でも、テイムの印が違ったじゃない!」
「あぁ、あれな。あれは俺も奥さんも驚いたんだ。いつの間にか、テイムの印が変わっていたんだから」
2人の会話から、シエルを思い出す。
私のために、自らテイムの印を作ってくれた。
「何を騒いでいるんだ? 彼は?」
食堂に入って来たセイゼルクさんが、不思議そうにロウじいさんを見る。
その腕には、魔物の子供がいる。
「ロウじいさんよ」
「あぁ、初めまして」
セイゼルクさんが、ロウじいさんに向かって軽く頭を下げる。
「よろしくな。で、その子が伝言の子だな。ガル、少しここにいてくれ」
ロウじいさんは近くの椅子にガルを乗せると、魔物の子供に近付く。
そして手を伸ばし少し迷った後に、セイゼルクさんから受け取った。
そのロウじいさんの行動に首を傾げる。
「真っ白だな。これでは森では生きられんな。目立ちすぎる」
ロウじいさんの言う通り、魔物の子供はその色から森では目立つ。
それに目が見えていないしね。
「ロウじい。その魔物の事なんだけど」
ロティスさんの言葉に、ロウじいさんが頷く。
「目が見えていない事か?」
気付いていたんだ。
「うん。その魔物は、ある研究所から逃げ出した魔物が生んだ子なのよ」
「そうか、馬鹿共の被害にあった魔物の子か。大丈夫だ、しっかり守ろう。名前は何だ?」
ロウじいさんの言葉に、ロティスさんが首を横に振る。
「その子をどうするか、まだ決めていないの。だから、名前は付けていないわ」
「それは可哀想だろう。ちゃんとこの子を呼ぶための名前を、付けてあげないと」
ロウじいさんの言葉に、ロティスさんが笑みを見せる。
「それもそうね。どんな名前がいいかしら?」
ロティスさんが、皆を見る。
「そうだな。何がいいだろう?」
フィロさんが、ロウじいさんの腕の中にいる魔物の子供を撫でると、その手に鼻を寄せてクンクンと嗅いだ。
「臭いの?」
ロティスさんの言葉に、フィロさんが憮然とした表情になる。
「臭いわけないだろう。ちゃんと手を洗っている!」
そんな2人に笑っていると、ロウじいさんが呆れた様子を見せた。
「お前達は、いつまで経っても変わらないの」
「そんな事は無いわ。ちゃんと成長しているから」
ロティスさんの言葉に、なんとも表現しずらい視線を送るロウじいさん。
「なによ、その視線!」
「いや、自分の事には鈍いんだなっと思ってな」
ロウじいさんの言葉にフィロさんが笑い出す。
そんな彼の足を蹴るロティスさん。
「本当に変わっていないな」
「それより名前だろう。アイビー、何かないか? ドルイドも思いつく名は無いか?」
セイゼルクさんの言葉に、お父さんと首を傾げる。
「真っ白……『スノー』」
スノー?
意味は、なんだっけ?
真っ白な物だとは思うんだけど。
「スノー? いい響きだな」
お父さんの言葉に、セイゼルクさんが頷く。
「そうだな、綺麗な響きだ。ロティス達はどうだ?」
「いいわね。可愛いわ」
「あぁ」
ロティスさんとフィロさんも、気に入ってくれたようだ。
「スノーか、いい名だな。今日からお前はスノーだ。一杯食べて、一杯遊ぼうな」
ロウじいさんが、魔物の子供に向かって名前を教える。
魔物の子供は、不思議そうに周りを見回すと、ロウじいさんの腕の中で体を丸めた。
「ロウじい、スノーをお願いね」
ロティスさんは、スノーの様子を見て安心した表情をする。
「あぁ。大丈夫だ。ガル。今日から一緒に生活するスノーだ。一緒に、子育て頑張ろうな」
ガルは、傍に来たスノーに顔を近付ける。
そして、ペロッとスノーの顔を舐めた。
それに驚いた様子のスノー。
でも、嫌がるそぶりは無い。
「うん。大丈夫そうだ」
ロウじいさんの言葉に、全員がホッとした様子を見せる。
ロウじいさんが良くても、ガルかスノーが嫌がったら預けることは出来ないからね。
「さて、家に帰ったらスノーの寝床を作ってあげないとな。ガル、帰ろうか」
ロティスさんから、スノーとガルが入るカゴを受け取ると、2匹を連れて食堂を出て行くロウじいさん。
「帰って来たら、様子を見に行こうな」
ロウじいさんの背を見送っていると、お父さんがポンと頭を撫でた。
「うん。絶対ね」
「まだ、聞きたい事もあるしな。さて、朝ご飯も終わっているし始めるか」
あっ、そうだった。
これからおにぎりとサンドイッチを大量に作る必要があるんだった。
「そうだね。頑張らないと」
「まずは必要な食材の買い出しだな」
お父さんの言葉に頷く。
「昨日、寝る前にある程度は書きだしたんだけど、他にも必要な物があるか確かめてくれ」
昨日、お父さんはすぐには寝なかったのか。
私には、疲れているだろうから寝るように言ったのに。
「ありがとう。確認するね」
お父さんから、食材の書かれた紙を受け取ると、内容を1つ1つ確認していく。
「これだと、おにぎりに入れる具材が少なくない?」
「そうか?」
「うん、ご飯の量から考えると少ないと思う」
お父さんと紙を覗き込みながら、買う量を決めていく。
そして数が決まったら、食材の隣に数やグラムを書き込んでいく。
「よし、これでいいな」
「うん」
「任せて!」
必要な量を書き足した紙が、ロティスさんによって奪われる。
そして、わたしたちに向かって笑みを見せる。
「すぐに買って来るから待ってて」
えっ?
買い出しにはロティスさんが行ってくれるの?
「フィロ、荷物持ち、行くわよ」
驚いている間に、食堂を出て行くロティさんとフィロさん。
「行っちゃったね」
「そうだな。まぁ、任せたらいいだろう。俺達は、調理場の方の準備をしておこうか。朝ご飯の片付けもあるし」
「そうだね」
お父さんと2人で、調理場に入る。
よしっ、まずはパン作りから。
発酵時間もあるからね。




