883話 魔力に色?
食堂のテーブルに並べられた物を見て、買って来たフィロさんを見る。
「あ~、何がいいかなぁって思っていたら、色々な店から『これも』『これも』と声が掛かって。気付いたら、こんな感じに」
フィロさんからテーブルに視線を戻す。
こってりした複数のお肉料理。
これは朝からは少し遠慮したいかな。
野菜スープはいいと思うけど、3種類は多いよね。
あと、半分以上が甘味なのはどうなんだろう。
「今日の朝は、野菜スープとパンでいいな」
お父さんの言葉に頷くと、3種類から1つを選んで専用のカップに入れる。
パンは、フィロさんではなくガガトさんが買って来てくれたらしい。
「「いただきます」」
「お父さん、お肉はいいの?」
いつもなら、お肉料理に必ず手を出すのに。
「あれはちょっと、朝にはきついだろう。もう少しさっぱりした料理だったら欲しいけど」
確かに、フィロさんが買ってきた肉料理はかなり濃そうな感じだった。
お酒との相性は良さそうだけど。
ガチャン。
「お~い。来たぞ~」
えっ、誰か来たの?
「誰だ?」
お父さんの言葉に、フィロさんが立ちあがる。
「俺が見て来るよ。たぶん知っている者だから」
しばらくすると、玄関から笑い声が聞こえて来た。
「どうしてこの時間なんだ。早過ぎるだろう」
少し呆れた様子で食堂に入って来るフィロさん。
その後に、真っ白な長毛の魔物を抱いた、年配の男性が入って来た。
「フィロ。この年になると、この時間は普通に活動時間だ」
今は7時30分。
特に早過ぎるという事はないか。
「そうかもしれないが。伝言に書いただろう? 昨日は夜遅かったので、お昼ぐらいで頼むと」
もしかして、この男性はロウじいさんかな?
年齢は60代ぐらい?
いや、もう少し上かな?
「あ~そうだったな。だが昼まで待っていると、出掛けるのが面倒になる。でもさすがに行こうとした時間を見て、2時間は待ったんだぞ」
「何時に来るつもりだったんだ?」
5時半?
「伝言を受けたのが、5時だからその30分後だな。でもさすがに早いと思って我慢した。偉いだろう?」
年配の男性の言葉に、フィロさんが大きな溜息を吐く。
それを見た男性は、肩を竦める。
「それで、どこだ?」
「だから、待て。朝ご飯は食べたのか?」
「当たり前だ。朝食は大事だぞ。んっ? 朝から酒のつまみを食べているのか?」
テーブルと見て眉間に皺を寄せる男性。
フィロさんが、少し視線をさ迷わせる。
「あぁ、またか。お前さんは、1人で買い物に行くと余計な物を必ず買って来るよな」
「別に無駄な物では無い。食べられるんだから」
「朝からか?」
「ただいま。あれ? もしかしてロウじいがもう来てるの?」
ロティスさんが、食堂に入ってくると男性を見て笑みを見せる。
やっぱりこの男性がロウじいさんなんだ。
「いらっしゃい。急なお願いをしたのに来てくれてありがとう」
「いやいや、早過ぎると今怒られていたんだ」
「ロウじい。別に怒ってはいないだろう?」
フィロさんが不服そうな表情で男性を見るが、笑って肩を叩かれている。
かなり親しい関係のようだ。
「あっ、2人ともおはよう。彼は、テイマーのロウじいよ」
ロティスさんの言葉に、軽く頭を下げる。
「俺はドルイドです。よろしくお願いします」
「娘のアイビーです。よろしくお願いします」
「俺はロウだ。そんな堅苦しい話し方はしなくていいぞ。気楽に頼むわ。んっ? どうした?」
ロウじいさんの腕の中にいた魔物が顔を上げると私を見る。
そして小さく鳴いた。
「もしかして、お嬢さんはテイマーかね?」
「えっ? はい。どうして?」
「ふふっ。ガルが反応したからな」
ロウじいさんに抱かれている魔物は、ガルという名前なのか。
あっ、こっちを見た。
あれ?
目が白い?
「どうやらお嬢さんは、ガルが大好きな魔力を持っているらしいな」
えっ?
大好きな魔力?
私の様子を見たロウじいさんは、「あぁ、普通は知らないか」と小さく呟いた。
「あの、大好きな魔力とは何ですか?」
私の言葉に、少し考えこむロウじいさん。
「署名された文献に書かれたものではないんだ。テイマーと魔物の関係を調べていた者に聞いたんだよ。それでいいかな?」
「はい」
私を見たロウじいさんが、頷く。
「人は大なり小なり魔力を持っとるだろう?」
「はい」
「その魔力は、人それぞれ異なる色を持っとると言っていたんだ」
異なる色?
「魔物達は、好きな色を持つテイマーにテイムされているってな。まぁ、実証出来なかったから本当の事だと言い切れないがね」
好きな色を持つテイマーにテイムされる、か。
「好きな色というより、体に合う合わないでは? テイムをする時、凄い拒否を示す魔物がいると聞いている。特にスライムは、絶対に従わないと。それを力技で従わせる、死ぬと」
お父さんの言葉に、驚いて視線を向ける。
「どうした?」
「テイマーとテイムする魔物について、よく知っているなって思って」
「あぁ。アイビーと会ってから、普通のテイマーについて勉強したんだ。色々と調べたり、文献を見たりして出した俺なりの答えだよ」
お父さん、テイマーについて勉強したんだ。
全然知らなかった。
それにしても、魔力の好き嫌いではなく、体に合う合わないか。
どっちが正解なんだろう?
それと「普通」と付ける必要は無いよ!
チラッとお父さんを見ると、不思議そうな表情を返された。
あっ、無意識だ。
「スライムは、傍にある魔力に影響を受けやすいのかもな。絶対に従わないのは、死にたくないからだろう」
傍にある魔力?
貰う魔力ではなく?
「ではやはり。テイマーの魔力が体に合うか合わないかが問題では?」
「いや、好き嫌いだと思うな」
お父さんの言葉に、ロウじいさんが首を横に振る。
「だって体に合わない魔力だったら、テイマーから魔力を貰わなければいいだけだからな」
ロウじいさんの言葉に、お父さんと私も驚いた表情になる。
「それって」
私は皆に魔力を与えていない。
合う合わないでなく、私の場合は少ないからだけど。
「今のテイマー達は知らないだろうが、前はたまにいたんだよ。好きな色を持つテイマーが自分の体に合わない魔力だったのか、テイマーから魔力を貰わない魔物が。あぁあと、テイマーの魔力が少なくても貰っていなかったな」
お父さんと顔を見合わせる。
「そういう人に会った事があるのか?」
お父さんの言葉に、ロウじいさんが不思議そうな表情をする。
「あぁ、あるぞ。お前さん達は『星なし』と呼ばれる者がいる事を知っているか?」
ロウじいさんの言葉に、息を吞む。
「んっ? もしかして教会の馬鹿共が言っていた『忌み子』を信じているのか?」
「違う。奴等の言った事など、信じることは無い」
お父さんの力強い言葉に、ロウじいさんが少し目を見開く。
そして嬉しそうに笑った。
「教会の馬鹿共のせいで、迫害を受けた者達がいる。その1つが星なしだ。彼等は不思議な魔力を持っている者達だ。魔力に色があると言っていた者は、無色の可能性があると言っていたな」
無色?
「無色だから、どんな魔物にも好かれやすいと」
サーペントさんや木の魔物を思い出す。
確かに最初から、好かれていたような気がするな。
「ん~、どうして無色が好かれるのかは、聞いたかな? いや、聞けなかったんだな。急にいなくなってしまったから」
「知らなかった。ロウじいがそんな事を知っていたなんて」
ロティスさんが驚いた表情で彼を見る。
「久しぶりだ、この話をするのは」
「どうして?」
ロティスさんの言葉に、ロウじいさんが楽しそうに笑う。
「教会の馬鹿共がいなくなったからだ。それに、今の俺は彼等の居場所を知らないからな」
ロウじいさんは、教会から星なし達を守るために話さなかったのか。
あれ?
私は教会で星なしと言われたけど、教会が私を追う事は無かった。
どうしてだろう?




