881話 私は……
ジナルさん達の食べっぷりに笑みが浮かぶ。
「良かった……でも、ちょっと食べ過ぎじゃないかな?」
昨夜、合流したジナルさん達は、とても疲れた表情をしていた。
その姿を見たお父さんが皆にスープを食べさせると、もしかしたら必要になるかもしれないと設置しておいたテントに「しっかり休め」と追いやった。
あんなに疲れ切ったジナルさん達を見たのは初めてで、少し戸惑ってしまう。
いつも余裕の笑みを見せているシファルさんまで、顔色が悪かったし。
一体、何を見たのか、知ったのか。
凄く気になって、その日の夜はなかなか寝付けなかった。
翌日、ちょっと睡眠不足状態で朝食作りを始める。
既に起きていたお父さんも一緒に作り始めたんだけど、マジックバッグから大量の肉を出した時は驚いた。
しかも、躊躇なく味を付けて焼きだした時は「お父さん、どうしたの?」と、心配した。
まぁ私の心配は、ジナルさん達が「肉の匂いだな」と言いながら起きてきた事で解決したけど。
まさか、肉の焼ける匂いで起きて来るとは、昨日の様子から想像できなかった。
大量の肉と、昨日作ったスープの残り。
慌てて作ったサラダも全て完食した皆は、ようやく落ち着いたのかゆっくりとお茶を飲みだした。
「昨日は悪いな。何も言わずに休んでしまって」
ジナルさんの言葉に、お父さんが首を横に振る。
「気にするな。そういう日もある」
「そうだな」
ラットルアさんが、マジックバッグからお菓子を取り出すのが見えた。
それにちょっと驚いてしまう。
「ラットルアさん、大丈夫?」
少し食べ過ぎでは?
「んっ? 大丈夫だよ。皆も食べるし」
あっ、皆も食べるんだ。
「はい、どうぞ」
ラットルアさんからお菓子を受け取る。
「ありがとう」
私も食べるけど。
あっ、果実の味が濃くておいしい焼き菓子だ。
「それで、話は出来そうか?」
フィロさんの言葉に、ジナルさんが眉間に皺を寄せた。
「大丈夫だ。気分が悪くなるかもしれないがな」
ジナルさんが私を見た。
それに「大丈夫」という気持ちを込めて頷く。
「木の魔物には、魔法陣が刻まれた魔石だと思う。砕けていたが、埋め込まれていた。あの赤く光っていた部分だ。他にも、数ヵ所。それと、人にも魔石が埋め込まれていた」
あの襲って来た人達にも?
魔物だけじゃなかったのか。
「人について気になるのは、あっ……埋め込まれた場所だ」
ジナルさんの様子に首を傾げる。
今、言い直したよね?
私には、聞かせたくない事なのかも。
昨日の彼等については、しっかり話をした方がいい。
私がいて、それが出来ないなら。
「あの、私はサーペントさんと一緒にいるね。だから、しっかり話をして欲しい」
少し離れた場所にいたサーペントさんを確認して、ジナルさんを見る。
「あ~、悪い。少しだけサーペントと一緒にいてくれるか?」
「うん」
申し訳なさそうな表情をするジナルさんに笑って頷くと、すぐにサーペントさんの所に行く。
私に聞かせたくないという事は、相当酷い何かがあったのだろうな。
気になるけど、子供の私は知らない方がいいんだろう。
「ククククッ」
傍に来た私に、そっと顔を寄せるサーペントさん。
「そういえば、朝の挨拶がまだだったね。おはよう、サーペントさん。あっ、木の魔物も」
「ククククッ」
「ぎゃっ」
私の挨拶に、サーペントさんと木の魔物が答えてくれる。
それに笑みが浮かぶ。
「ぷぷ~」
あっ、もしかして起きたのかな?
ソラ達が寝ているテントを覗くと、ソラがボーっとした表情で私を見た。
「おはよう……あれ? まだ寝てる?」
起きているように見せるけど。
「ぷ~」
ふわっと大きく口を開けて、欠伸をするソラ。
ジーっと私を見て、ぶるっと体を震わせるとパッと私を見た。
「あっ、起きたね。おはよう、ソラ」
「ぷっぷぷ~」
さっきは寝ぼけていたんだね。
可愛かったな。
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
フレムとソルの声に視線を向けると、2匹ともプルプルと体を震わせていた。
「フレムもソルも、おはよう」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
皆の様子を見ながら、ポーションとマジックアイテムをマジックバックから取り出す。
「ぷっぷぷ~」
嬉しそうに青のポーションに近付くソラ。
「まだよ。少し待ってね」
赤のポーションはこれでよし、マジックアイテムはもう少し必要かな。
「これでよしっと。皆、食べていいよ」
私の言葉に、嬉しそうに食べ始める3匹。
食べている様子を見ながら、皆の健康状態を確認する。
「皆、問題無しだね」
「ククククッ」
んっ?
サーペントさんの鳴き声に、テントから顔を出す。
「どうしたの?」
私の言葉に、サーペントさんの視線が少し離れた場所にいるお父さんに向かう。
それに首を傾げていると、私を見たお父さんが手招きした。
「あっ、もしかして呼ばれてた?」
「ククククッ」
なるほど、知らせてくれたのか。
「ありがとう」
サーペントさんにお礼を言って、ソラ達に視線を戻す。
「はやっ。もう食べきったの?」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
私の言葉に3匹が、少し体を反らして鳴く。
「もしかして、早く食べられた事を自慢してるの?」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
正解なんだ。
本当に、皆が可愛過ぎる。
「あっ。呼ばれていたんだった」
皆の可愛さに、癒されていたら駄目だったね。
「私はお父さんの所に行くから、皆はゆっくり過ごしてくれる?」
私の言葉に、3匹が応える。
それにお礼を言って、お父さんの下に向かう。
「ごめん。遅くなった」
「大丈夫だ。皆のご飯だろう?」
お父さんの言葉に頷く。
「それで、えっと」
私が呼ばれた理由は何だろう?
「あぁ、これからの事なんだけど」
ロティスさん達の事があるから、どうするか心配だったんだよね。
「木の魔物を、あんな風にした場所が分かった」
「本当に?」
「あぁ、カシス町の近くにある研究所だ」
カシス町の研究所。
「襲って来た奴等も、その研究所から来ていた」
彼等も被害者だったんだよね。
「アイビー、襲って来た奴等を憐れむ必要は無い」
えっ?
「彼等は被害者というより、希望者だ」
希望者?
「強さだけを求める者は、ときどきおかしな方法を試したがる」
もしかして、魔法陣の刻んだ魔石を自ら望んで体に埋め込んだの?
「でも、本当のところは分からないでしょう?」
ジナルさん達の予想が外れる可能性だってある。
「いや。彼等が持っていた契約書から判断したんだ」
つまり、自ら望んだことなんだ。
そんな、愚かな事をする人がいるんだ。
「奴等は自業自得と言えるから、気を揉むな」
「分かった」
自ら望んだ事の結果なら、もう気にしない。
「俺達は、カシス町にある研究所を潰しに行く事になった。でもその前に、カシム町に寄って、準備をする。ロティス達の準備していた物が、ほとんど無くなってしまったからな」
やっぱり、カシム町に一度戻るのか。
食べ物もだけど、装備も無くなったみたいだったからね。
「アイビーはどうする?」
お父さんの言葉に、視線を向ける。
「カシス町に一緒に行くか? もしかしたら、昨日のような木の魔物とまた会うかもしれない。もっと酷い状態の木の魔物や、他の魔物とも」
心配そうなお父さん。
私は、どうしたいだろう。
正直な気持ちは、一緒に行きたい。
でも、私が行っても足手まといになるだけだよね。
「アイビーは、足手まといにはならないよ」
シファルさんが、ポンと私の肩を軽く叩く。
「アイビーがいるから、サーペントと木の魔物がここにいるんだと思う」
「えっ?」
おかしな事を言うシファルさんに視線を向ける。
「ふふっ。別におかしな事は言っていないからな」
あれ?
声に出してた?
「いや、表情から」
……ここにいる皆は、私の表情を読み過ぎだと思う。
「あはははっ」
楽しそうに笑うシファルさんを睨む。
それに気付いた彼は、笑いを治めると私の頭を撫でた。
「サーペントと木の魔物は、ずっとアイビーを気にしている」
「えっ? そうかな?」
「うん。きっとアイビーが一緒に行くと言えば、あの子達が守ってくれるよ」
それは……。
「その事を気にすることはないぞ。アイビーを守っているサーペントと木の魔物は楽しそうだから」
お父さんの言葉に、驚く。
「本当に?」
お父さんとシファルさんが頷く。
そう見えるんだ。
サーペントさんと木の魔物を見る。
あっ、こっちを見てる。
「アイビー。正直な気持ちを言っていい。ここまで関わったんだから」
お父さんの言葉に、一度頷く。
「カシス町に一緒に行きたい」




