番外編 フォロンダ領主と組織5
―フォロンダ領主視点―
ロティスの部下から来た報告書に、溜め息が出る。
まさか、魔物を使って王都を衝撃する計画が動き出していたとは。
「教会の奴等に集中し過ぎて、こちらの動きに気付けなかったのは俺の落ち度だな」
「襲撃される前に分かったのですから、対処出来ますよ」
アマリの言葉に頷く。
そうだな。
まだ王都は襲撃されていない。
今は、考えられる対策を全てやるだけだ。
「ギルマスに指示を頼む。王都襲撃の情報を掴んだので、守りを固めろと。あと、王都内から魔物が現れるかもしれないと伝えてくれ」
「その可能性が?」
俺の言葉に、アマリが険しい表情をする。
「あると思っている。マーチュ村を襲った大量の魔物は、別の場所から魔法陣によって転移された。マーチュ村の襲撃は失敗したが、転移された場所がマーチュ村の中だったら成功しただろう。そして、王都襲撃を考えている者も、きっと同じ事を考えるはずだ。成功させるために、ありとあらゆる方法を模索しているだろうからな」
俺の言葉に、アマリが首を傾げる。
「マーチュ村を襲った魔物の様子は聞きました。教会関係者は、完全には魔物を制御出来ていなかったと思います。王都襲撃をしようとしている者達は、魔物を完全に制御出来ているのでしょうか?」
「どうだろうか? 俺は、無理だと思っているけど」
いや、本当に無理か?
魔物に、魔法陣による洗脳が効いたら?
「フォロンダ様?」
「いや、なんても無い。とりあえず、何が起こっても対応出来るようにしておこう。あと、オローガス子爵の下に集まった全ての貴族が所有する建物を調べてくれ。魔物を転移させるには、巨大な魔法陣が必要になる。それを描ける場所が必要だ」
オローガス子爵が所有する建物に、マーチュ村近辺で見つかった魔法陣を描ける大きさの建物は無かった。
おそらく、奴の下に集まった貴族が場所を提供するはずだ。
「分かりました。すぐに調べます。あと、メイド殺しの件ですが」
「あぁ、何か分かったのか」
アマリの眉間に皺が寄る。
「殺されたメイド達は、王城内の事を外で話していたようです」
王城内の事を?
「情報を洩らしていたのか? でもメイド達は、それほど重要な場所を任されていなかっただろう?」
「えぇ、でもまぁ、王城内の事ですからねぇ。例えば、ある貴族がメイドに手をつけたとか。他にも、ある貴族とある貴族が、こっそり話をしていたとか」
んっ?
「1つ1つは、それほど重要じゃなくても集まれば力となります」
あぁ、そうだな。
「集まった情報で、脅していたようです。主に貴族を」
「殺されたメイド達が?」
「いえ、そのメイド達を王城に送り込んだ貴族、ミローゼ伯爵がです」
あぁ、メイド達はミローゼ伯爵の手先というわけか。
「殺されたメイド達ですが、ミローゼ伯爵の事は知りません。彼女達は、お世話になった人を楽しませようと王城内で流れる噂を話しただけです」
お世話になった人?
「彼女たちを助けたのはミローゼ伯爵ではなく、彼が用意した老人です。その者は、身寄りのない子供達を引き取って、面倒を見て仕事も見つけてくれるとかなり評判ですね。実際は、ミローゼ伯爵のために動く駒を育てていたようです。あとミローゼ伯爵は、自分に敵対する貴族を潰すのに子供達を利用しています。そして利用された子供達ですが、現在の所在が分かっていません」
つまり、既に殺されているかもしれないと。
「屑どもが。ミローゼ伯爵はオローガス子爵と繋がっていたな?」
「はい。オローガス子爵に、かなりの額を提供しています」
「分かった」
ミローゼ伯爵をすぐに捕まえたいが、オローガス子爵と繋がっていることが気になる。
こちらの動きに反応して、王都襲撃を早める可能性がある。
それは駄目だ。
まだ、こちらは何も対応出来ていないのだから。
「ミローゼ伯爵は、暫くこのままで。監視はしっかり頼む」
「分かりました。では、私はギルマスに指示を伝えてきます」
「頼む」
アマリが執務室から出て行く。
「はぁ、考える事もやる事も多過ぎる」
コンコン。
少しぐらい、休憩を取りたいんだけどな。
「誰だ?」
「スイナスです」
第一倉庫で木の魔物とサーペントについて調べていたな。
何か、分かったのか?
「どうぞ」
「失礼します」
執務室に入って来たスイナスは、軽く頭を下げた。
「それは、木の魔物についての文献か?」
文献と言っても、署名の無いものだが。
「はい。そうです」
随分と多いな。
「サーペントの文献もあります。あと他にも気になる文献を持ってきました。まずはこれを見てください」
紙の束を執務机に置いたスイナスは、一番上にあった紙を俺に差し出す。
「んっ?」
受け取った文献の内容を読む。
「えっ? 木の魔物とサーペントが大移動?」
昔もあったのか。
しかも木の魔物とサーペントが一緒に?
「原因は不明。あれ? 王都から……ハタタ村に? 今と逆方向なんだな」
今のサーペントは王都に向かっている。
昔は、王都から地方に。
「それに関係してる文献が見つかりました。これを」
スイナスが別の文献を差し出すので、中身を読む。
「木の魔物と交流をしていたテイマーがいたのか。テイムは出来なかったが、いつも一緒にいた」
まるでアイビーのようだな。
えっ……このテイマーも、星なしなのか?
「星なしのテイマーが、上位の魔物とどういう経緯で関係を築いたのか、継続調査中」
継続とあるが、続きは無いみたいだな。
残念。
「ここを見てください」
スイナスが指す箇所を見る。
「ハタタ村のテイマーなのか」
2つの文献が書かれた時期を見る。
1年違い。
アイビーの下に集まる、木の魔物とサーペント。
ハタタ村にいた星なしのテイマーと一緒にいた木の魔物。
そして、ハタタ村に集まっていた木の魔物とサーペント。
木の魔物とサーペントは、星なしに惹かれるのか?
でも、どうしてだ?
「フォロンダ様が気にしている少女は……」
スイナスの言葉を、視線で止める。
おそらく、かなり怖い表情になっているだろう。
「申し訳ありません」
スイナスが頭を下げる。
「極秘だ」
「はい、分かりました。次に気になった文献はこちらです」
「ありがとう」
新たに渡された文献に目を通す。
「未知の大地に住む魔物と……魔法陣について?」
未知の大地には、魔法陣があるのか?
そんな話は、聞いたが事ないな。
えっと、未知の大地と呼ばれる場所は、かつて「捨てられた大地」と呼ばれていた。
なぜ「未知の大地」と呼ばれるようになったのか、それは冒険者を送り込むため。
捨てられた大地より未知の大地の方が、冒険者が集まりやすかったからだ。
「はっ? そんな事で呼び名が変わったのか?」
スイナスを見ると、肩を竦めた。
署名の無い文献なので本当の事なのか判断出来ないが、本当だったら呆れるな。
未知の大地を調査するために集まった冒険者の数は112名。
戻って来た冒険者の数は2名。
「えっ、2名だけ?」
少な過ぎるだろう。
冒険者達が亡くなった原因は?
「未知の大地は、至る所に魔法陣があり避けて通る事が出来なかった。また、そこに住む魔物は巨大で凶暴。上位冒険者でも討伐は難しく、また次々に襲ってくるため逃げる事も不可能だった。生き残った2名も酷い怪我を負い、二度と冒険者には戻れなかった」
未知の大地はかなり危険みたいだな。
だが、魔法陣が気になる。
放置しても、大丈夫なのか?
ん~、魔法陣はもちろん気になるが、今は星なしテイマーの方が気になるな。
「スイナス」
「はい」
「第一倉庫で、テイマーの文献を探してくれないか? あと、星なしについても」
俺の言葉に、頷くスイナス。
「悪いな」
「いえ、問題ありません」




