878話 間に合った
「ドルイド! ヌーガ!」
慌てた様子で、こちらに駆けて来るラットルアさん。
「どうした?」
「襲って来た奴等はどうした?」
あっ。
「悪い。全員死んだ」
「そうか、良かった」
「「「えっ?」」」
良かったとは、どういう意味だろう?
「あいつら、捕まったら魔力を暴走させるみたいなんだ」
魔力を暴走?
「どうやって?」
お父さんの言葉に、ラットルアさんは首を横に振る
「分からない。ただその暴走にロティスとフィロが巻き込まれて大怪我を負っているんだ」
えっ、ロティスさんとフィロさんが?
「大丈夫なのか?」
「ガガトが持っていたポーションを使って、ぎりぎり生きている状態だ。それでアイビー、ジナルがお願いできないかなって?」
えっ、私?
あっ、ソラの治療が必要なんだ。
「もちろん!」
ラットルアさんの先導で、ロティスさん達の下に急ぐ。
横たわる2人の姿に息を吞む。
「悪い、アイビー。ポー――」
「ソラ、お願い」
ソラの入っているバッグの蓋を開ける。
ソラ達は、移動だけだと面白くなかったようで今日は朝からずっとバッグの中だ。
「ぷっぷぷ~」
勢いよく飛び出して来たソラは、すぐにロティスさんを覆うと治療を始めた。
「えっ? あぁ、そうか」
少し驚いた表情したジナルさん。
それを不思議に思っていると、お父さんが「ポーションか」と呟いた。
「ポーション?」
お父さんを見ると、肩を竦められた。
んっ?
もしかして、ソラの治療ではなく、ソラのポーションが欲しかったの?
「ぷっぷぷ~」
ロティスさんの治療が終わると、隣のフィロさんに移動する。
「早いな」
ジナルさんが感心したように呟く。
確かに、大怪我のわりに治療時間が短かった。
「ロティスさん? 大丈夫?」
治療は出来たんだよね?
「ふふっ、まさかソラに治してもらえるなんて、ありがとう。アイビー、私は大丈夫よ」
良かった。
「ぷっぷぷ~」
ソラの満足そうな鳴き声に視線を向ける。
フィロさんの治療も、無事に終わったようだ。
「フィロは? 私をかばったせいで、私より酷い怪我だったの」
起き上がったロティスさんが、心配そうにフィロさんを見る。
「大丈夫。ほらっ」
フォロさんが寝っ転がったまま両腕をあげる。
それを見て、ロティスさんの目から涙が落ちた。
「良かった。腕が戻ってる」
えっ?
腕?
「あぁ、驚くよな。潰れた腕が、元通りになるなんて。ソラ、ありがとう」
潰れていたんだ。
魔力の暴走って怖いんだな。
「ぷっぷぷ~」
ソラの楽しそうな声に視線を向けると、ガガトさんを覆うところだった。
どうやら彼も、2人ほどでは無いが怪我を負っていたようだ。
「ガガト、動くとソラの治療の邪魔になるぞ」
ソラに包まれて焦ったのか、手をバタバタさせていたガガトさん。
セイゼルクさんの言葉に、ぴたっと動きを止めた。
そんな彼の様子に、皆に笑みが浮かぶ。
「ぷっぷぷ~」
ガガトさんの治療が終わると、ロティスさんとフィロさんはホッとした表所を見せた。
「それで、何があったんだ?」
ジナルさんの言葉に、フィロさんが起き上がる。
「暗殺者達を引き渡しす前、森の中で不審な行動する者達を見つけたんだ。すぐに捕まえて、そいつらの持ち物を調べたら、えっと……どこだっけ?」
フィロさんが、周りを見て首を傾げる。
「これだろ?」
ガガトさんが血まみれのバッグを渡すと、彼は中から折りたたまれた紙を取り出した。
「ありがとう。これを見てくれ、血で汚れてしまっているが」
「大丈夫だ」
ジナルさんは、その紙を受け取ると中を確認した。
「魔物を使った王都襲撃か。教会が計画していた王都襲撃は防いだが、他にもあったんだな」
ジナルさんの眉間に皺が寄る。
フィロさんは神妙に頷くと、ロティスさんを見た。
「捕まえた者達を尋問しようとしたんだけど、毒で死んだわ。その時の彼等の様子に異常を感じたの」
「異常?」
セイゼルクさんの言葉に、ロティスさんが頷く。
「その計画書を見つけた私達に向かって、笑ったの。普通は、計画を知られたら焦るわ。邪魔をされるんじゃないかって。でも、彼等は笑って死んでいった」
計画がバレたのに笑った?
それって、
「既に計画は動いていて、止められないと知っているから、か?」
お父さんの言葉に、ジナルさんが溜息を吐く。
「そういう事だろうな」
「私もそう思ったの、だからサーペントに手紙を託しのよ」
ロティスさんにサーペントさんが近付く。
彼女は手を伸ばすと、サーペントさんの鼻を撫でた。
「ありがとう、ジナル達を連れて来てくれて。そのお陰で、誰も死なずにすんだわ。本当にありがとう」
「……ククククッ」
あれ?
サーペントさんの鳴き声に、少し迷いを感じた。
それに、どこかソワソワしている。
「どうしたの?」
「ククッ?」
サーペントさんの視線がロティスさん、フィロさん、ガガトさんに向く。
ん~何だろう。
もしかして、サーペントさんはロティスさん達から離れた事を気にしているのかな?
「えっと……? アイビー、何か分かる?」
ロティスさんの言葉に、サーペントさんを見る。
「たぶん、ロティスさん達と離れた事を気にしているのかも」
「ククククッ」
正解だったのか、サーペントさんが鳴く。
「まぁ、ふふっ。私が『ジナルに手紙を届けて』と、お願いしたよ。あなたは私達の希望を叶えてくれた。だから気にする事は無いの。本当に感謝しているんだから」
「……ククククッ」
まだ少しだけ迷っているサーペントさん。
でもロティスさんを見て、頷いた。
「そういえば、ポポラはどうしたんだ?」
ラットルアさんの言葉に、周りを見る。
でも、近くにポポラの姿はない。
えっ、まさか?
「ポポラは、引き取りに来た者達と一緒にカシム町に行ったわ」
そうなんだ、良かった。
「別行動?」
ラットルアさんが首を傾げる。
「えぇ。暗殺者を引き取りに来た冒険者なんだけど、合流する前日に強盗団を捕まえていて馬車が一杯だったの。仕方ないからポポラに、暗殺者達を運んでもらう事にしたのよ。あぁ、そうだ。王都の襲う計画の事は、伝えてもらうように言っておいたから」
「分かった、ありがとう。それで、どうして怪我を?」
「引き渡した後、サーペントに手紙を託してから合流予定の湖に来たの。でも、その湖には既に人がいたの。すぐに隠れたんだけど、どうも様子が変。それで、いつも通り捕まえて尋問しようとすると、目の前でバン。さすがにあの時は死んだと思ったわ。ガガトが少し離れた所にいてくれたから、助かったのよね」
ロティスさんの言葉に、ガガトさんが首を横に振る。
「ポーションを全て使っても最悪な状態から脱する事が出来なくて、目の前が真っ暗になったよ。しかも、死んだ奴等の仲間が近くまで来ていたし。最悪……」
ガガトさんの顔色が悪くなる。
それを見たフィロさんは、彼の肩に手を置いた。
「そうはならなかった。それが全てだ」
2人の様子に首を傾げる。
最悪……2人を置いて行く?
「そうよ。しかも見て! 私もフィロもこの通り、いつも通りでしょ?」
ロティスさんが、その場で立ち上がってガガトさんを見る。
「足は?」
「元に戻ったわ。というか……怪我をする前より調子いいような気がするわね。なんだか得した気分だわ」
彼女の言葉に、ガガトさんが笑みを見せる。
あっ!
「これは……」
一度は消えた、ドロッとしたような気持ち悪い感覚に襲われた。
ジナルさん達も感じたのか、周りを警戒する。
バキバキバキ。
枝が折れる音に視線を向けると、ゆっくりと近付いて来る木の魔物が見えた。
全員が後ろを振り返り、一緒に旅をしてきた木の魔物を確認する。
「別の木の魔物だな」
「あぁ、動きが変だな」
ジナルさんとセイゼルクさんが、武器を手にし構える。
「あれは人を襲う木の魔物だ。動きは鈍いが、根の動きには気をつけた方がいい」
お父さんも武器を手にすると、私を守るような位置に立った。




