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876話 見られたね

まだ薄暗い時間に起き出し、簡単に朝食を済ませる。

こういう時に、おにぎりは便利だよね。

しかもマジックバッグに入っているから、ほんのり温かいし。


「アイビー。こっちの片付けは終わったけど、そっちはどうだ?」


テントの片付けをしていたお父さんが、私の傍に来る。

私は、ラットルアさん、ヌーガさんと一緒に朝食の片付けや火の始末などをしていた。


「大丈夫、終わってるよ。2人ともありがとう」


ラットルアさんとヌーガさんに声を掛けると「こちらこそ」と言って2人に撫でられた。

何故かちょっと豪快に。


「なんで?」


不思議に思って2人を見ると、笑っている。


「眠たそうだったからな。大丈夫か?」


ラットルアさんの言葉に、隠れてした欠伸がバレていたと気付く。

森の中を歩くのに、しっかり起きていないと危険だからね。


「大丈夫」


早朝から移動を始めるため、睡眠時間がいつもよりちょっと短かった。

と言っても、1人で旅をしてきた時と同じぐらいなんだけど。

でも、異様に眠い。

最近は最低5時間ぐらい寝ていたから、そっちに体が慣れてしまったのかも。


「そろそろ行こうか」


ジナルさんの言葉に、マジックバッグを肩から提げて準備完了。


「なるべくロティス達に近付きたいから休憩は最小限になる。疲れたらすぐに声を掛けてくれ」


ジナルさんが、皆を見て最後に私を見た。


「分かった」


足を引っ張らないように頑張ろう。


地図を見ながら移動を始めようとすると、スッとサーペントさんが前に移動した。

先導してくれるのかと思ったけど、どうも行く手を阻んでいる。


「どうしたんだ?」


「ククククッ」


サーペントさんは1回鳴くと、スッと視線を自分の背に向ける。

そしてジナルさんに視線を戻した。


「えっ?」


ジナルさんが首を傾げると、サーペントさんが私を見た。


やっぱりあの行動は、


「乗せてくれるの?」


「ククククッ」


私の言葉に嬉しそうな鳴き声をあげるサーペントさん。

ジナルさんが「あっ」と小さな声をあげた。


「悪い。そういえば、前にも見た行動だったな」


サーペントさんの首の辺りをぽんぽんと撫でるジナルさん。

何故かため息を吐いた。


「大丈夫か?」


セイゼルクさんがジナルさんに声を掛けると、小さく笑って頷いた。


「悪い。色々思い出して、ちょっと焦ってたみたいだ」


ジナルさんの表情に苦い物が浮かぶ。

思い出した色々な事は、悪い事なんだろうな。


「よし、もう大丈夫だ。サーペント、でも全員は無理だろう?」


たぶん乗れるだろうけど、移動が大変そうだ。


「ぎゃ」


それに応えるように、木の魔物がサーペントさんの隣に来る。


「あぁ、なるほど。木の魔物も協力してくれるのか」


「ぎゃ!」


木の魔物の葉っぱがわさわさと揺れる。

それを見て、ジナルさんがポンと木の魔物の幹を撫でた。


「ありがとう。それじゃ、今回は甘えさせてもらおうか?」


ジナルさんが、セイゼルクさんとお父さんを見た。


「そうだな。ロティスがなぜ急いでいるのか知りたいしな」


セイゼルクさんの言葉に、シファルさん達が頷く。

サーペントさんに手紙を託すほどの事だもんね。

大変な問題が、起こったかもしれない。


「それじゃ。誰がどっちに乗る?」


お父さんの言葉に、サーペントさんがジナルさんを木の魔物の方に押す。

次に、シファルさん、ラットルアさん、私を押した。


「俺達4人が木の魔物?」


「ククククッ」


サーペントさんが頷くので、皆で顔を見合わせる。


「どんな基準だと思う?」


シファルさんの言葉に、聞かれたラットルアさんが首を横に振る。


「さっぱり分からない。あえて言うなら……体重?」


体重?

全員を見比べる。

ん~、木の魔物の方に軽い人が集まっているのかな?

でも人数は木の魔物の方が多い。


それに、ジナルさんを見る。

お父さんの方が軽そうだ。


「まぁ、気になるが。とりあえず移動を始めようか」


ジナルさんが木の魔物の幹に乗って、私に手を差し出す。

彼の手を掴むと、ふわっと体が浮き同じ幹に足を下ろした。


「ありがとう」


「どういたしまして。2人も乗ったし、木の魔物は頼むな」


「ぎゃ、ぎゃ!」


嬉しそうな鳴き声をあげると、体がぐっと後ろにのけぞった。

慌てて幹に座り込んで、体を支える。


「驚いた。いつもより速いな」


「ぎゃ!」


シファルさんの言葉に、木の魔物が応えるように鳴く。


確かに、いつもよりかなり速いみたい。

これは気が抜けないな。


「サーペント達も来たな」


ジナルさんの言葉に振り返ると、お父さん達を乗せたサーペントさんが凄い勢いで追いかけてきた。

この光景、サーペントさんが木の魔物を追いかけている様に見えるだろうな。

まぁ、森の奥だから誰かに……いや、サーペントさんに乗って移動した時も森の奥だったのに見られたんだった。


「大丈夫かな?」


周りを見る。

んっ?

もしかして、少し遠くに見えるあれは村道?


「どうした?」


ジナルさんが不思議そうに私を見る。


「今の光景」


「今の光景?」


私の言葉を不思議そうに繰り返す彼に、ちょっと笑ってしまう。


「あぁ、木の魔物を追うサーペントか?」


「そう。誰かというか、この場合は冒険者に見られたら?」


私の言葉が聞こえたのか、シファルさんとラットルアさんの笑い声が聞こえた。


「大丈夫だよ、アイビー」


シファルさんの言葉に首を傾げる。

どうして大丈夫だと言えるんだろう?


「こういう危険な魔物を調べるのは、上位冒険者で場数を踏んだ者に依頼が回るんだ」


そうなんだ。


「ねっ。ジナル?」


えっ、ジナルさん?

あぁ、そういえばサーペントさん達と大移動した時もジナルさん達が調査したんだっけ?


ジナルさんを見ると、諦めた様子で笑った。


「まぁ、こんな光景を見た冒険者がいたら、間違いなく俺達に依頼が来るだろうな」


「あっ、あれ」


ラットルアさんが何かを指しているのが見えた。

そちらに全員が視線を向ける。


「人だね」


シファルさんの楽しそうな声が聞こえる。


「そうだな」


疲れた声で応えるジナルさん。


「こっちから見えるという事は、向こうも見えているよな。手でも振ってみる?」


手?


「馬鹿、止めろ! 面倒くさい事になる」


ジナルさんが慌てて止めるけど、ラットルアさんとシファルさんは既に手を振っていた。


「はぁ」


「何をしているんだ?」


お父さんの声に視線を向けると、隣を移動するサーペントさんがいた。

どうやら追いついたようだ。


「冒険者が今の光景を見たら、ジナルさんに依頼が来るねって話していたの」


私の言葉に、お父さんが笑う。


「そうだろうな。それで、冒険者はいそうなのか?」


お父さんの言葉に、ジナルさん以外の私とラットルアさん、シファルさんがある方向を指す。


「えっ? ぷっ、くくくくく」


「あははははっ」


私達が指した方を見たお父さんとその後ろに乗っていたヌーガさんが笑い出す。


「ばっちり見られているようだな。あれ? 慌てていないか?」


ヌーガさんの言葉に、視線を冒険者達に向ける。

まだ冒険者達まで距離があるので細かい動きが見えないけど、そうなのかな?


「なぁ、俺達が向かう先に彼等がいるんじゃないか?」


ラットルアさんの言葉に、ジナルさんとお父さんが「だから慌てているのか」と納得した。

いや、このまま真っすぐ行って大丈夫なの?


「冒険者達に顔を見られるのはまずいから、少し横に旋回しよう」


やっぱりそうだよね。


「ぎゃ!」


「ククククッ」


木の魔物とサーペントさんは一声鳴くと、右に大きく曲がり始める。

速度があるので、ちょっとワクワクする。


「これ、面白いね」


「ぎゃ!」


シファルさんの言葉に、木の魔物は葉っぱがわさわさと揺らす。


走りながら揺らすなんて器用だな。


しばらく移動すると、いつの間にか冒険者達の姿は見えなくなっていた。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 幹じゃなくて枝では…?
[良い点] 初めまして。 つい最近まんがから入りまして、今ではすっかりアイビー達が大好きになり、まんがと書籍全部買いました! こちらも全部楽しく読ませて頂いてます(*^^*) アニメも楽しく拝見させて…
[気になる点] ジナルさんが慌てて止めるけど、ラットルアさんとジナルさんは既に手を振っていた。 ジナルさんは手を振るなと止めているのに、手を振っている矛盾。 どちらかの名前記載部分がシファルさんでし…
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