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875話 魔法陣に魅入られた者達

あれ?

研究所を支えていた教会関係者は捕まったんだよね?

それなら、今の研究所は誰が支えているんだろう?


「あの、ジナルさん」


「どうした?」


「研究所に支援をしているのは、誰なの? 数があったら、それなりの資金が必要になるよね」


私の言葉に、ジナルさんの表情が歪んだ。

えっ、聞いたら駄目だったのかな?


「金と権力に目が眩んだ貴族だ。それと……」


あぁ、貴族か。

あれ?

「それと」という事は、別にも資金を提供している人がいるって事だよね?


「……ジナルさん?」


「俺達は、教会に残っていた資料から研究所の場所を特定して、完全に破壊した」


二度と、その場所が使えないようにするためだよね。


「それで終わりだと思ったが、教会関係者の中に慎重な考えを持つ者がいたらしい」


「どういう事だ?」


お父さんの言葉に、ジナルさんが苦笑した。


「『もしも』の時を考えて、教会から切り離された研究所が存在したんだ」


「切り離された研究所?」


私の呟きに、ジナルさんがため息を吐いた。


「そうだ。教会が抱え込んでいる研究所とは別に、一切関わりの無い研究所があったんだ。そちらは、地位や権力に目が眩んだ貴族達で支えてきた。もちろんフォロンダ様は、貴族達の動きにはかなり注意をしていた。金の動きにもな。でも、見逃してしまった。原因は、動いた資金が微々たるものだったからだ」


「微々たるものっていっても、それなりの金額になるだろう?」


ラットルアさんの質問に、ジナルさんが首を横に振る。


「正確な金額は聞いていないが、注目するような金額では無かったらしい。それに研究所の者達は、表のやり取りで資金を手に入れる方法を持っていた」


「えっ? どういう事だ?」


セイゼルクさんも知らなかったのか、不思議そうにジナルさんを見る。


「研究所の者達は、冒険者ギルドを利用したんだ。まさか冒険者ギルドで販売されているポーションが、研究者の作っている物だとは思わないだろう?」


「はっ? 嘘だろう?」


驚いた声をあげるラットルアさん。

他の皆も、かなり驚いているのが分かる。


「残念だが、嘘ではない。王都や王都周辺の町だとポーションはいくらあっても足りない。そこに目を付けたんだ。しかも大量に売ったら目立つから、少量を定期的に卸していた」


「そんな売り上げで研究所を維持できたのか?」


「そんな人物が複数人いれば、問題ないだろう?」


「まぁ、そうだけど」


戸惑った表情のラットルアさんに、ジナルさんが肩を竦める。


「金が必要になった時は、ポーションをエサに集まって来た冒険者を利用してポーションを売ったりして稼いだそうだ。まぁ、いろいろとやりようはあったみたいだ」


ジナルさんの言葉に、お父さんもセイゼルクさん達も嫌そうな表情をした。


「研究者たちは自尊心が高い者が多いが、よく協力したな」


えっ、自尊心が高いの。

知らなかった。


「切り離した研究所に集められた研究者は、そんな事に文句は言わないだろうな」


「どういう事だ?」


ヌーガさんの言葉に、ジナルさんから表情が消えた。


「最初に潰した研究所にはいなかったが、魔法陣に魅入られた研究者達が集められているんだ」


魔法陣に魅入られた研究者。

そんな者達に実験体にされた魔物達は……。


「奴等は、魔法陣の情報と実験できる場所、それと……があれば満足する」


不意に途切れた言葉。

そこには実験体が入るんだろうな。

ギュッと両手を握る。


あぁ、むかむかする。


「待て、魔法陣に魅入られた者はいずれ暴走するだろう?」


セイゼルクさんの言葉に、ジナルさんが冷笑を浮かべる。


「研究者たちは、ある程度研究を続けると、忽然と消えるそうだ」


「それって……」


ジナルさんの言葉に、セイゼルクさんの眉間に深い皺が寄る。


「そうだ。暴走されたら困るから、使うだけ使って処分するんだ」


ジナルさんの言葉に、全員が黙る。


魔法陣に魅入られた者に同情はしない。

でも、悲しい気分になる。


「貴族が支援する研究所の厄介な所は、横の繋がりが3、4ヵ所と少なく、全くどことも繋がっていなかったりする事だ。そのせいで、探すのに時間がかかる。資金を出したと発覚した貴族達を調べたそうだが、場所を知らない者もいたと聞いた」


「でも、資料などのやり取りはあるんじゃないのか? そこから研究所の場所は探れないのか?」


「研究の新着状況や結果が出た魔法陣の情報など、やり取りはある。ただ、冒険者ギルドに依頼を出して運ばせたり、ポーションで関わった者にお願いしたり。全ての資料を見つけ出すのは至難の業だろう。冒険者達の持ち物を、全て調べるわけにはいかないしな」


それは、無理だよね。

冒険者にとって、荷物を守る事は信用を勝ち取る事に繋がる。

信用は次の仕事に繋がるから、調べるとなると相当な理由が必要になる。

「もしかして」という理由では、絶対に納得しない。


「名前が挙がった貴族や冒険者と関わった者の荷物を調べて書類や証拠品を押収した結果、研究所を探し当てた事もある。だけど、全部を見つけるのは難しいだろう」


「随分と冒険者ギルドが利用されているんだな」


お父さんの言葉に、ジナルさんが頷く。


「あぁ。いつの頃から始めたのか分からなかったが、長い時間を掛けて準備したようだ。最初は、冒険者ギルドに登録する。冒険者になってから、知り合いがポーションを作っているから卸したいと紹介する。ポーションを定期的に卸す事で、2人を信用させる。信用されたら、荷物のやり取りを始める。量がバラバラで相手先もその都度変えるなど、少しおかしな動きを見せる。でも、問題が起きなければ、おかしな事もいつもの事と処理される。そうやって、かなり時間を掛けて冒険者ギルドと信頼関係を築いていったんだ」


「随分と面倒な事をしているな」


「あぁ、ドルイドの言う通り、かなり面倒な方法だ。でも、長く信頼関係を築く事で、研究所は守られて来た。冒険者ギルドの職員は、巻き込まれないように注意をしてくれる。それが奴等の逃げる合図になるとも知らずにな」


「なるほど。ポーションも売れて信ぴょう性の高い噂話も手に入る。時間を掛けるだけの価値があるのか」


お父さんの言葉に、ジナルさんが頷く。


「でもそれを知っているという事は、もうその手は使えないって事だよな?」


ラットルアさんの言葉にジナルさんが苦笑する。


「そうでもない。研究所関係者以外にも、冒険者ギルドと長く関係を築いている者達がいる。誰が研究所からの回し者か、見た目からでは分からないからな。そして、そう言う者達は村や町に根付いていて、少し調べたくらいでは尻尾を掴ませない」


見た目で分からなくて、詳しく調べないと見つけられない。

大変だな。


「アイビー、ドルイド。研究所を壊すだけならよかったが、色々と問題が発覚した。ロティスと合流してから、いや、する前でもいいんだけど。カシム町に戻るか?」


ジナルさんの言葉に、首を横に振る。


「あっ、お父さんは?」


「俺もその気はない」


私とお父さんの言葉に、険しい表情を見せるジナルさん。


「今、説明していて気付いたんだが、かなり危険だぞ」


そうだね、でも……。


「大丈夫だ」


「にゃうん」


お父さんの言葉に応えるようにシエルが鳴く。

それにジナルさんが笑みを見せる。


「そうだったな。最強の護衛がアイビーには付いていたな」


「にゃうん」


自慢気に鳴くシエルに、笑ってしまった。


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