番外編 フォロンダ領主と組織4
―フォロンダ領主視点―
「また、殺し?」
書類を確認していると、気になる報告を見つけた。
それは王城に勤めているメイドが、死体で見つかったというもの。
「先月も被害にあった者がいたよな。確か犯人は『王城に勤めるメイドだったら金を持っていると思った。3人とも俺がやった』と供述したはずだ。強盗目的の殺人で片付いたが、なんとなく腑に落ちないんだよな」
そもそも3人のメイドは、お世話になった人に仕送りをしていて金を持ち歩いていなかった。
1人殺して目的の金が無かったら、狙いを変えないか?
どうして3人もメイドを殺した?
「今回も、メイドの持ち物は奪われているのか」
やはり気になるな。
メイドが狙われたのは、本当に金が目的なんだろうか?
「調べてみるか」
執務机にあるベルを鳴らす。
しばらくすると、部屋の扉が叩かれた。
「どうぞ」
「失礼します」
執務室に入って来たのは、アマリが信頼している部下の1人カルミーラ。
3年前に俺を殺そうとして、失敗。
アマリが脅し……説得して仲間になった者だ。
まぁ彼女は、家族を人質に取られたため命令を聞いていただけで、組織を憎んでいた。
家族を保護したら、組織の関係者を全員殺して幹部の首を持って来た。
笑顔で首を差し出した彼女に、呆れたのを覚えている。
「王城勤めのメイドが先月は3人が殺された。先月の犯人は捕まっているんだが、2日前にまたメイドが殺された。気になるから、詳しく調べてくれないか?」
「分かりました。メイドと犯人、どちらを先に調べますか?」
カルミーラの言葉に少し思案する。
犯人も気になるが、メイドが殺された理由が一番気になる。
「メイドの方を重点的に調べてくれ」
「はい。すぐに」
カルミーラが出て行った執務室で、次の書類に手を伸ばす。
コンコン。
「どうぞ」
「失礼します」
スイナスが眉間に皺をよせ執務室に入って来る。
「どうした?」
「あちこちの冒険者ギルドから、木の魔物を目撃したという情報が上がってます。あまりに目撃情報が多すぎるので、気になっているんです」
それは、俺も気になっている事だ。
以前には全く無かった、木の魔物の目撃情報。
マーチュ村を教会の者達が襲ったあの事件以降、木の魔物があちこちで目撃されるようになった。
「目撃場所周辺に何か異変は?」
「数ヵ所で魔法陣の残骸が見つかっています」
魔法陣か。
木の魔物が、魔法陣を無効化して回っている可能性が考えられるな。
「魔法陣関係でしょうか?」
「おそらくな」
「今まで、目撃されてこなかったのはなぜでしょう?」
スイナスの質問に、首を横に振る。
それが最も気になる事なんだよな。
どうして、今までは目撃されていなかった?
「魔法陣を無効化するために表に出てきたため目撃されている。つまり、今までは魔法陣に関わっていなかったから、目撃されていない。そう考えられるよな」
「そうですね。でも、どうして急に魔法陣に関わって来たんでしょうか?」
それなんだよな。
目撃情報が増えたのは、マーチュ村の事件以降。
あの事件の前と後で変わった事は……教会を隠れ蓑にしていた組織の壊滅。
「もしかして、組織が壊滅するのを待っていたのか?」
何のために?
そういえば、サーペントが組織に捕まって実験体にされていたんだったな。
もしかして、木の魔物も狙われていた可能性は無いか?
姿を見せなかったのは、組織から隠れるため。
でも木の魔物は強い。
ジナルの話では、人を襲う木の魔物と通常の木の魔物では動きも速さも全く別物らしい。
それを考えると、組織から隠れる必要性を感じない。
やはり別の理由があるのか?
「フォロンダ様。木の魔物について調べたいので、第一倉庫に言ってもいいでしょうか?」
スイナスを見る。
「珍しいな」
魔物にあまりいい感情を持っていなかったスイナスが、木の魔物を調べたいなんて。
「仲間が木の魔物に守られたので、知りたいと思ったのです」
第一倉庫か。
あそこには、署名のない文献が大量に保管されている。
署名がないので情報が正しいとは言えないが、重要な情報が載っている事も多い。
「分かった、許可しよう。気になる情報は、全て知らせてくれ。真偽は気にしなくていい」
引き出しから第一倉庫の鍵を出し、彼に渡す。
「ありがとうございます」
「あと、サーペントについても調べてくれないか?」
「サーペントですか?」
スイナスが不思議そうに首を傾げる。
「あぁ、サーペント達がこちらに向かってきている」
俺の言葉に、目を見開くスイナス。
そして神妙な表情になり頷いた。
「分かりました。では、失礼します」
スイナスが出て行くのを見送ると、背もたれに体重を掛ける。
「木の魔物の目撃情報にサーペントの大移動か」
木の魔物にサーペント。
どちらも、マーチュ村を襲った事件で手を貸してくれた魔物だ。
「どうして王都に近付いて来るんだ?」
木の魔物ほどではないが、サーペントの目撃情報も少し増えた。
そして目撃された場所から考えて、サーペントが王都に近付いて来ていると考えられる。
王都に何かあるのか?
それとも王都周辺?
「まさか未知の大地に? いや、それは無いか」
執務机の後ろの壁に飾ってある、この世界の地図を見る。
地図の半分は、真っ白で何も書かれていない。
なぜなら、そこは未開地だから。
これまで、冒険者達が幾度も未知の大地に挑戦した。
でも、誰も戻ってくる事は無かった。
あの地に何があるのか、全く不明。
ただ、リュウ達が住みついている事は知っている。
未知の地から、リュウがこちら側に飛んで来るのは目撃されている。
そして戻っていく姿も。
「最近、あちら側も騒がしいんだよな」
今はまだ漏れていないが、未開地から魔物が溢れてきている。
これまでも時々、未開地から魔物が来ることはあった。
でも今回は、これまでとは違う。
魔物の数が多く、頻度が増えている。
「教会の組織が片付いたら、今度は未知の大地の魔物か?」
少しは休ませてくれ。
「はぁ」
ジナル達はどの当たりだろうか?
旅か、いいなぁ。
「いや、ジナル達の旅は危険だな。俺が求めるのはゆっくり出来る旅だ」
「旅が出来るほど時間が空くのは、まだまだ先ですね。残念です」
不意に聞こえた声に、体がビクリと震える。
「……扉は叩いたか?」
俺の言葉にアマリは肩を竦める。
どうやら、叩かなかったらしい。
「なんだ? というか、急に声を掛けるのは止めてくれ」
「気を抜いているので、引き締めようかと」
「家でぐらい、気を抜いても良いだろう」
「今はまだ、暗殺者に気をつける時なので」
確かにそうだが。
「暗殺者が来ない日なんて、来るのか?」
「……たぶん」
アマリがニコリを笑う。
「あっ、敵を一掃したら来なくなるのでは?」
「新たな敵が生まれそうだけどな」
俺の言葉に、視線を逸らすアマリ。
そういう未来が想像できたんだろうな。
「それで、どうした?」
「オローガス子爵の下に、問題の貴族がほとんど集まりました。パシューラ公爵が顔を見せた事で、様子見だった貴族も集まったみたいです」
「そうか」
パシューラ公爵が、オローガス子爵のために動いたように見えるな。
「資金と、貴族が抱えている護衛騎士に裏家業の冒険者達。それと情報がかなり集まっていますね。大きな問題を起こす可能性があります」
「そうだな」
何かするなら、こちらが全貌を掴めていない今だろう。
時間が経てば、集まった者達の情報が洩れる事は分かっているだろうからな。




