873話 確認
「なぁ、このサーペントは……知ってる子か? 普通に混ざっているんだけど」
ジナルさんの言葉に、全員がサーペントさんを見る。
「「「「「……」」」」」
そういえば、どうしてここにサーペントさんがいるんだろう?
だって、カシム町から一緒に旅をしていたサーペントさんは、暗殺者を運んでいるはず。
「ククククッ?」
でも、このサーペントさんから感じる気配を私は知っている。
だって、一緒に旅をしていたあのサーペントさんのものだから。
「一緒に旅をしているサーペントさんだよね?」
「ククククッ」
うん、正解みたい。
どうして、ここにいるのかは分からないけど。
「あのサーペントなのか。もしかして、ロティス達の用事が終わったからこっちに来たのか?。でも、サーペントだけ先に来させるかな? 変だよな」
ジナルさんの言葉にサーペントさんが顔を近付ける。
「どうした? んっ。首のこれは、細い縄か?」
サーペントさんの首から、ジナルさんが縄を外す。
その細い縄の先にはカゴが付いていて、そこに紙が入っていた。
「ロティスからの手紙だ。『暗殺者達を予定より早く引き渡したから、合流予定の場所に到着。何処にいるの?』だそうだ。サーペント、俺達を探しに来てくれたのか?」
「ククククッ」
ジナルさんがサーペントさんの首を撫でると、気持ちよさそうな表情を見せる。
「ありがとう。探すの大変だっただろう?」
「ククククッ」
「それにしても、ロティスから手紙か」
ジナルさんの言葉に首を傾げる。
「おそらく早く合流するためだろう。これは、何かあったな」
それで、手紙か。
「クル?」
小さな魔物の声に視線を向ける。
「あっ」
小さな魔物を囲うように、シエルや木の魔物。
ソラ達が集まっていた。
「どうしたの?」
ソラを見ると、私を見て体を横に伸ばした。
何かを伝えようとしているのかな?
ソラの傍に膝をつき、頭を撫でる。
「ぷ~」
ソラは小さな声で鳴くと、ふるふると震えている小さな魔物に視線を向けた。
「大丈夫だよ」
そっと小さな魔物を抱き上げると、想像以上に軽くて驚く。
そして手に当たる骨の感触に眉間に皺が寄った。
「かなり痩せているな」
「うん」
お父さんも小さな魔物を撫で、険しい表情を見せた。
「魔物の子供はアイビーに任せて、俺達は周辺を調べようか」
ジナルさんの言葉に、セイゼルクさん達が大きな穴の中や周辺の森を調べ始めた。
「ジナル、見てくれ。探していた魔物だと思う」
シファルさんの言葉に、ジナルさんが大きな穴の中に入っていく。
そしてしばらくすると、出て来て頷いた。
「探していた魔物で間違いなさそうだ。あと、食べた痕跡が残っている骨もあったから、狩りもしていたようだ」
彼の言葉に、亡くなった魔物を見る。
あんな状態でも、子供のために頑張っていたのかな?
「凄いね」
「あぁ、そうだな」
ジナルさん達が、大きな穴の前に集まると険しい表情で話している。
その様子に、少し緊張する。
「ドルイド、アイビー。確かめたい事がある」
ジナルさんが、私達の傍に来ると腕の中の魔物に視線を向けた。
「その子の状態はどうだ?」
「痩せすぎている。あと、目は完全に見えないようだ。体は……前脚が1本多いけど、それ以外は普通の魔物と同じだ。ただ、この毛色は独特だな」
小さな魔物の毛色は、ほとんど白い。
森に住む魔物ではありえない色だ。
「真っ白では無いが……目立つな」
「クル?」
ジナルさんが手を伸ばすと、クンクンと不思議そうに臭いを嗅ぐ。
「鼻には異常がなさそうだな」
「そうみたいだな」
ジナルさんの言葉に、お父さんが頷く。
良かった。
「それで確かめたい事なんだが、亡くなった魔物から気配を感じ取れたか?」
「やはりそれか。俺は、全く感じなかった」
ジナルさんとお父さんが私を見るので、首を横に振る。
「私も、感じなかった。姿を見た時も、近付いた時も」
水場の異常な状態が気になって、ずっと周りの気配を探っていた。
でも、あの魔物の気配は全く感じられなかった。
唸り声が聞こえた時も、頭を撫でた時ですら。
「そうか。全員が感じ取れなかったんだな」
ジナルさんの言葉に、お父さんと私は無言になる。
気配を感じ取れない魔物。
冒険者にとって、それがどれだけ危険な存在か。
「そういえばアイビー。あの時、どうしてソラを止めたんだ?」
お父さんの質問に首を傾げる。
「ソラが魔物に近付いた時、いつもなら止めないのに止めただろう?」
あぁ、あの時。
「ん~、なんて言ったらいいのかな? ソラが魔物に向かった瞬間かな、ぞわっとした気持ち悪さを感じて」
いつもなら、ソラの事を信じているから止めない。
でもあの時はなぜか「来ないで」と思った。
「あれ? 『来ないで?』」
おかしい。
ソラが近付いているんだから「行かないで」が正しいよね。
「来ないで」なんて、まるで亡くなった魔物側の思いみたい。
「アイビー、『来ないで』とはなんだ?」
お父さんが、不思議そうに私を見る。
「えっと……私も意味が分からないんだけど。ソラが魔物に向かった時に『行かないで』ではなく『来ないで』と思ったの。変だよね? それに、ソラがあの魔物を治せると全く考えなかった。『ソラなら』って考えてもおかしくないのに」
私の言葉を聞いたジナルさんが、「くそっ」と呟いた。
それに驚いて彼を見る。
「あの魔物を、調べないと駄目みたいだ」
ジナルさんの苦しそうな声に、腕の中の小さな魔物をギュッと抱きしめる。
「必要なら仕方ないだろう」
お父さんはそう言いながら、苦しそうな表情で亡くなった魔物に視線を向けた。
きっと、これ以上あの魔物を傷付けたくないのだろう。
私も同じ気持ちだ。
でも、気配を感じ取れない事や、きっと私の話た事も原因で調べないと駄目になってしまった。
話した事に後悔は無い。
ジナルさんの反応から、重要な事だと思うから。
でも、嫌な気持ちになるな。
「アイビー、大丈夫だ」
ジナルさんに視線を向ける。
「ちょっと触って調べるだけだ」
きっと、それだけじゃないはず。
「うん。分かった」
ジナルさんの指示で、お父さんとラットルアさん。
そしてサーペントさんや木の魔物達と一緒に少し離れた場所で待機する。
「座ってようか」
ラットルアさんが、マジックバッグから少し大きめのゴザを出す。
「ありがとう」
ゴザに座ると、足の上に小さな魔物を乗せる。
「クル?」
「ぷ~」
すぐにソラが足の上に乗ってくると、そっと小さな魔物に体を寄せた。
その後にフレムとソルが続く。
そんな皆の姿に、フッと笑みが浮かぶ。
「待て。サーペントは無理だろう」
お父さんの言葉にサーペントさんを見ると、なぜかゴザの上に乗ろうとしているのが見えた。
「ククククッ?」
不思議そうに鳴くサーペントさん。
「どう見ても、ゴザより体の方が大きいだろう?」
お父さんとサーペントさんの会話に、ラットルアさんが笑う。
「……ククククッ」
笑ったラットルアさんを見て、不満そうに鳴くサーペントさん。
そんな不満そうなサーペントさんの頭に、木の魔物がポンと根を乗せた。
「ククククッ!」
さっきの鳴き声より、あきらかに不服そうな鳴き声。
でも木の魔物は気にならないのか、ポンポンとサーペントさんの頭に根を乗せる。
そんなサーペントさんと木の魔物の様子に、笑ってしまう。
「ありがとう、皆」
ほんの少しだけ、気持ちが軽くなった気がした。
いつも「最弱テイマー」を読んで頂き、ありがとうございます。
次回の更新は2月29日(木)予定です。
これからも、どうぞよろしくお願いいたします。
前話でサーペントさんの事を気付いてくれて、ありがとうございます。
ほのぼのる500




