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92話 フォロンダ領主

冷たい水で顔を洗うが、寝不足のため少し頭が痛い。

昨日、夜遅くまで起きていたせいなので仕方ないのだが、ちょっとつらい。


昨日は、フォロンダ領主に会いに行ったボロルダさんが心配で、夜中まで帰って来るのを待っていたのだ。

なかなか姿を見せない彼に、ソラの判断が間違っていたのかと途中から気分が最悪だった。

そんな私を心配してくれたラットルアさんに勧められて、途中でテントに戻ったのだが、そこからの記憶が途切れている事から、どうやら寝てしまったようだ。

ふと意識が浮上し、慌てて飛び起きたが既に朝。

ドキドキしながらテントから顔を出すと、ラットルアさんがボロルダさんが帰って来ていることを教えてくれた。


「よかった」


「大丈夫って言っただろ」


「はい。でも、本当によかった」


安堵から「はぁ~」と大きなため息が出た瞬間、頭にズキッとした痛みが走った。

表情に出たのか、寝不足だねと笑われた。


痛みが落ち着いてから、朝食作りを始める。

朝なので簡単なスープだ。

それと昨日の残りのお肉を食べやすい大きさに切って、パンに挟んでみた。

ちょっと野菜を多めにしたので、さっぱりと食べられるはずだ。

マヨネーズが欲しいところだけど、そう言えば見たことが無いな。

今度探してみよう。


「おはよう。昨日は随分遅くまで待っていてくれたんだってな。悪かったな」


ボロルダさんの表情はいつも通り、穏やかで優しい。

帰って来ているとは聞いたが、姿も確認できたことで本当に安心できた。


「いえ、勝手に待っていただけなので。あの~、それでどうなりましたか?」


「あぁ、それについては、後で話すよ」


「はい」


「それにしてもそれは何だ? 手に持っているそれ」


「サンドイッチもどきです」


「へぇ~、面白いな。どこかの町で知ったのか?」


「……そんな感じです」


どうして私は、これを作ったのだろう。

やっぱり、色々テンパっていたのかもしれない。

なんせ、わざわざ記憶の中から引っ張りだして作ったのだから。


「なんか美味しそうだけど、初めて見るな」


ハハハ、シファルさん止めを刺さないでください。

って、知らないから仕方ないのだけど。

とりあえず、聞こえなかった事にしようかな。


「用意は終わっているので、食べましょうか」


「おはよ~。あれ、アイビーはまた面白い物を作ったな」


マールリークさんも止めて!

ぅう~、パンに挟んだだけなのに。

きっとどこかに似たようなモノがあるはずだ。

そうだ、きっとある!

あるといいな~。


「ロールか? ちょっと違うか?」


ロールと言う物があるなら、それで誤魔化せないかな。


「『さんどいっちもどき』と言うらしいぞ」


あ~、しまった。

ボロルダさん名前が違う!


「へぇ~『さんどいっちもどき』なんだ」


あっ、これ駄目だ。

皆が聞いてしまった。

……お腹が空いたな。


「食べましょうか」


サンドイッチは好評だった。

お肉と野菜をパンに挟んだだけなのだが。

ロールはちなみに、チーズを挟んだパンらしい。

なので、それを真似してみたと言い張っておいた。

そして名前は『サンドイッチもどき』になった。

ロールもどきにしたいが、何か言うと墓穴を掘りそうで怖すぎる。

名前の理由を聞かれたので、思いつきと答えておいたけど納得してくれたのだろうか?

ちょっと不安だが、そう食べる事も無いだろうからいいか。

なぜなら、柔らかいパンが手に入らないと作れないからだ。

主流となっている黒パンは、硬くてサンドイッチには向かない。

今日はたまたまラットルアさんが、朝方パンを買いに行ってくれて柔らかいパンがあったのだ。

ちなみに柔らかいパンは値段が高い。


「さて、そろそろ落ち着いたから話すか」


食後のお茶を飲んでゆっくりしていると、マジックアイテムを起動させたボロルダさんが昨日の夜の事を話し出す。

フォロンダ領主は、ソラが判断したように問題なし。

拠点とした元商家を、ギルドの取り締まりの場所として紛れ込ませたのはフォロンダ領主だ。

正確にはフォロンダ領主の味方の冒険者さんだが。


フォロンダ領主は、8年前に組織から逃げて来た子供を保護した事で組織を認識。

ラットルアさん達が組織を知る、1年前の事だ。

それからずっと独自に調査を続けて、何とか組織を壊滅させようと奮闘してきたそうだ。

だが、なかなか組織の全貌が掴めない状態で、長く痛恨の念に苛まれていた。

そんな時に飛び込んできたのが、ファルトリア伯爵が掴んだ裏商売をしている商人の情報。

だが、その情報にフォロンダ領主が疑問を感じた。

彼はその商人を既に調べていたのだ。

そして組織とは無関係と判断していた。

もしかしたら、ファルトリア伯爵が騙されている可能性を考えて、長年信頼している冒険者に独自に調査を依頼。

商人はやはり組織とは無関係だと判断した。

そして確認した情報をどうするべきかと考え、最初はファルトリア伯爵に全てを話すつもりだった。

だが、もしファルトリア伯爵の近くに組織の者がいた場合、彼の命が危うくなる可能性を考え断念。

前々から怪しいと思っていた元商家を、取り締まりの場所として秘密裏に変更させることにした。

元商家は狙い通り組織の拠点だった、だが情報が洩れてしまい証拠が全て持ち出された後だった。

そしてその動きによって、フォロンダ領主が組織を追っている事に気付かれた可能性がある、と判断したらしい。


「あの取り締まりの時まで、組織を欺けるとはさすがフォロンダ領主だな」


セイゼルクさんが、尊敬するような表情を見せる。

ボロルダさんが嬉しそうにしている。

信じていた人が、ずっと組織と戦っていた事がうれしいのだろうな。

裏切り者がごろごろいると分かった後では特に。


「で、こちらの作戦については何と?」


「自警団や冒険者に裏切り者がいる事は話した。覚悟していたようだが、人数を聞いて驚いていたよ」


「あ~、まぁな。あれは誰でも驚く人数だろ。だが冒険者にだって、まだいる可能性が高いだろ? 全員を調べたわけではないからな」


確かにソラに判断してもらったのは、ギルマスさんが紹介してくれた冒険者のみ。

結果、半分が問題ありという慄然とする結果になったが。

……もしかして自警団よりやばいのかな?

まぁ、それは追々考えればいいか。


「それと、ファルトリア伯爵が組織の者だと話したら、あり得ないとも怒鳴られたよ。まぁ、そう言われるだろうとは思っていたから問題ないのだが、信じてもらうためにマジックアイテムを使用したと言っておいた」


「この町でファルトリア伯爵と組織を結びつける者は、今ここにいる者と他に数名だけだな」


「あぁ。愕然としていたよ。信じてもらえないかと不安になったが、マジックアイテムを使用した事とギルマスが信じた事で信じてくれた。こちらの作戦については話していない。それよりも、問題が浮かび上がってしまったから」


「問題?」


「数日前に、組織を追っている事をファルトリア伯爵に相談したらしい。それで彼から護衛として、信頼出来る冒険者を紹介してもらう事になっているんだ」


「それは、危険だろ」


確かに組織を追っている領主など、組織にとって邪魔な存在だ。

では、組織としてどうするか。

間違いなく、消しにくる。

そして、組織に利益を生む者を領主に据えるだろう。


「フォロンダ領主も危険性に気が付いていて、どうするか悩んでいた。護衛の件を断ると、すぐに組織が動く可能性もある。だからと言って紹介された冒険者を近くに置くのもな」


「冒険者たちは本当に敵でしょうか? フォロンダ領主だけでなく、その冒険者たちも一緒に殺されると思うのですが」


「えっ、フォロンダ領主はわかるけど冒険者も?」


「一緒に殺してしまった方が効果的だと思いますけど……」


「ん~……効果的って?」


「えっと。自分が紹介した冒険者達も、そして大切な友人も亡くしてしまったと悲嘆にくれる姿は同情を誘います。そして力が及ばず守れなかった彼のために、組織と戦う意思のある者を紹介するとか言って、次の領主に組織の手の者を置く。同情を集めるには、1人でも多くの人が死んだ方が効果的かと思います。この組織は、これぐらいは平気ですると思うのですが、どうでしょうか?」


『………………』


あれ?

何かおかしな事を言ったかな?

どうして、全員が私を見て固まっているのだろう?

ん~、同情は人をもっとも愚かな行動に走らせると前の私が言っているのだけど、違うの?


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― 新着の感想 ―
同情って『何も分かってないのに分かった気になってる』事が多いからね。同情自体は良い事なんだけど。それの仕方が浅はかな人が多いってだけ
[一言] 同情は人をもっとも愚かな行動に走らせる そうなんだ〜…
[一言] 例えばフランスパンでもドイツパンでも黒パンでもサンドイッチにしませんか?
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