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871話 変わったよな

―ジナル視点―


洞穴に戻り、折り重なっている骨を調べる。

脚や頭の数を確認して、何匹分か考える。

1ヵ所目の研究所で見た限り、正常な姿だった可能性は少ない。


「7匹か、8匹か? いや、もっと少ない可能性もあるのか?」


1ヵ所目で見た魔物を思い出す。

脚が5本だったり6本だったり……あぁ、逆に少ないのもいたな。


「最低6匹でいいか」


魔物の頭蓋骨をそっと撫でる。

どれほどの苦痛の中を生きてきたのだろうか。


「酷い事をするよな」


以前の俺なら、こんな事を考える事は無かった。

魔物は魔物だと切り捨てたはずだ。

でもテイムされていない木の魔物やサーペントと関わった事で、少しだけ変わった。


血を流しながら襲ってくる魔物はマーチュ村でも見たが、あの時は「酷い姿」という感想しか出てこなかった。


でも1ヵ所目の研究所で見た時は、あの姿にした者に怒りを感じた。

それはきっと、彼等にも楽しいや悲しいという感情があると分かったから。


「大丈夫か?」


ラットルアの声に、視線を向ける。


「なかなか出てこないから、心配になって見に来たんだ」


「大丈夫だ」


ラットルアが俺の背後にある骨を見て顔を歪めた。


あの1ヵ所目の研究所で、ラットルアを始め全員が衝撃を受けた。

それは、死を望む魔物がいたから。


その事が、研究所を出た後も尾を引いた。

いつもなら、簡単に気持ちを切り替えられるのに。

あの時は、それが少し難しかった。


「なぁ、その骨はちょっとおかしくないか?」


ラットルアの言葉に、頷く。


「あぁ、綺麗に残っているだろう?」


魔物の世界は弱肉強食。

弱れば、他の魔物に食われるのが当たり前の世界だ。


それなのに、数はおかしいがおそらく全ての骨が揃っている。

つまり、弱っていたのに襲われなかったのだ。


「魔物に薬物を投与していたからな」


研究所で見つけた資料に載っていた。


「魔物の本能で、実験体の魔物を食べると危険だと分かったんだろう」


見た目だけではなく、全てが変えられていた魔物。

やはり、イラつくな。


「調べ終わったのか?」


「あぁ、6匹から8匹分だと思う。逃げた魔物は30匹ぐらいだから、まだ何処かにいるはずだ」


正確な数は分からないが、暗殺者達は30匹から35匹は見たと言っていた。


「そうか。それなら次の水場に向かわないとな」


「そうだな」


ラットルアと共に洞穴を出ると、全員の視線が集まった。


「次の水場に行こうか」


俺の言葉に、それぞれが動き出す。


アイビーに視線を向けると、俺が出てきた洞穴を気にしているのが分かった。

骨しかないが、見たいんだろうか?

まぁ、あれなら気分を害する事も無いか?


「あっ」


ドルイドがアイビーに声を掛けると、笑ってシエルの後を追って行くのが見えた。


「ジナル、どうした?」


洞穴を出たところで立ち止まっている俺に、セイゼルクが声を掛ける。


「疲れたのか?」


「まさか、この程度なら問題ない。行こう」


次の水場までは、どれくらいだろう?

地図をマジックバッグから出す。


「地図が正しければ……2時間弱だな」


シエルの後を追って、森を進む。

不意に聞こえた慌てた声に視線を向けると、木の魔物とアイビーの姿が見えた。


何をしているんだ?

あぁ、こけそうになったアイビーを木の魔物が助けたのか。


ははっ、ソラとフレムが心配そうにアイビーの周りを跳びはねている。

ソルはいないのか?

……見つけた、ドルイドの頭の上か。


「仲がいいよな」


セイゼルクの言葉に視線を向けると、楽しそうにアイビー達を見ていた。


「そうだな」


俺が小さい頃、テイマーとテイムした魔物の関係は今のようでは無かった。

もっと仲が良く、そして楽しそうだったのを覚えている。

それがいつの間にか、悪い方に変わってしまった。


「どうしてテイマーと魔物の関係は、悪くなってしまったんだろうな。小さい頃見たテイマー達は、仲が良かったのに」


「んっ? 俺が小さい頃からテイマーは今の感じじゃなかったか?」


「えっ?」


俺とセイゼルクの年の差は3歳だよな?

どうしてテイマーの印象が違うんだ?


「もしかして、良い関係を築いていたテイマーが傍にいたのか?」


「あぁ、そうなんだが」


あれ?

あのテイマーは、何処で出会ったんだっけ?

俺が……小さい時だから記憶があやふやだな。


「俺の生まれたオトルワ町にいたテイマー達と魔物は、俺が小さい頃から少し前までは最悪な関係だったぞ」


「そうなのか?」


「あぁ。40年ぐらい前だったら、どの村や町も同じような関係だったはずだ」


そうだっけ?


「おかしいな。俺が5歳か6歳だと思うんだが、アイビー達のような関係を築いたテイマーが傍にいたはずなんだが」


テイマーの、深い皺が刻まれた笑みを今でもはっきりと思い出せる。

そして、その彼女に寄りそう魔物の姿も。


「思い出した。彼女とは、俺が5歳の時に出会ったんだ」


そうだ。

「最後はこの子とゆっくり過ごしたい」と言って、近所に引っ越してきたんだ。

そして2年後に亡くなった。

彼女がテイムしていた魔物も、彼女が亡くなった次の日に冷たくなっていたのが見つかったんだよな。


テイマーと個人的に関わったのは、彼女だけだったかな?

他にもいたような、


「あっ……」


余計な事を思い出してしまったな。


「どうしたんだ? 面白い顔をして」


面白い顔?


「いや。昔の事を思い出していると、嫌な事も思い出してしまったんだ」


「嫌な事って?」


セイゼルクが、不思議そうに聞いて来る。


「チームにはテイマーが必要だろう? まぁ今は、金を払って免除してもらうのが当たり前だけど」


違法な捨て場を作らせないための規則だけど、今は金集めの規則だよな。


「そうだな。俺のチームも、ずっと金を払って免除してもらっているよ」


「俺のチームには昔、テイマーがいたんだ」


俺の言葉にセイゼルクが、凄く驚いた表情を見せた。

それだけ、テイマーをチームに招くのは難しくなっている。

テイマーのいるチームもあるが、その多くは幼馴染が集まって作ったチームだ。


「でもそのテイマーが最悪でな。我儘で横暴。気に入らない任務だと、来ないし」


俺の言葉に、セイゼルクが苦笑する。


「一時期、テイマー達の態度が問題になったよな」


「あぁ。テイマーの数が減ったせいで、どんな態度でも許されてしまったからな」


自分が偉いと錯覚したテイマーが、横暴な態度を取り出したんだよな。

すぐにテイマー達の能力が落ち始めたから、そんな態度を取る者はいなくなったけど。


「その我儘テイマーはどうしたんだ?」


「任務中に勝手な行動をして、俺達を危険に晒したんだ。それで、全員が『無理だ』と判断。すぐに、チームから出て行ってもらったよ」


出て行ってもらうのも大変だったけどな。

「どうして自分が!」と、話し合いをした部屋で大暴れ。

あれは、もの凄く面倒くさかった。

二度とテイマーをチームに入れないと、全員と誓ったぐらいだからな。


「そんな事があったから、テイマーへの印象も悪くて」


アイビーと関わるまで、ゴミを処理してくれるのありがたいが、関わりたいと思う事は無かったんだよな。


「アイビーと関わらなかったら、今も近づく事は無かっただろうな」


いつも読んで頂きありがとうございます。

次回の更新は2月22日(木)です。

どうぞ、これから宜しくお願いいたします。


ほのぼのる500



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― 新着の感想 ―
ジナルさんたち40歳過ぎてるんですね……なるほど……
[気になる点] あれ? 「アイビーと関わらなかったら、今も近づく事は無かっただろうな」 嫁の妹のロスティさんテイマーですやん?仲いいですやん?
[良い点] ティムをしていないけど、ジナルさんはサーペントさんと超仲良し\(//∇//)\ ドルイドパパさんもアイビーに毒されてるし、アイビーの一貫した魔物たちへの寄り添いがいいですよね。 ジナルさ…
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