869話 どっちを選ぶ?
ジナルさんの後に戻って来たお父さんとロティスさんが、地図を見ながら話をしている。
捕まえた者達から、何か情報が得られたのだろうか?
「珍しいよな」
のんびり果実水を飲み、お菓子まで食べているラットルアさんの言葉に首を傾げる。
「何が?」
「ドルイドが、暗殺者達を捕まえに行った事だよ」
意味が分からず首を傾げると、ラットルアさんが驚いた表情をした。
「ドルイドのこれまでの行動から、アイビーを置いて行くとは思わなかったから」
別々に行動する事もあるけどな。
「それにセイゼルク達がいるんだから、彼が行く必要は無かっただろう?」
そう言われれば、そうかな?
「何か、気になる事があったのかもしれない」
「気になる事?」
「うん」
たぶんだけど。
「そうか。あっ、フィロとヌーガさんが戻って来た」
ラットルアさんの言葉に視線を向けると、2人が手を振っているのが見えた。
そういえば、どうしてバラバラに戻って来るんだろう?
「話は聞けたか?」
「あぁ、聞けた」
捕まえた者達を尋問していたのか。
セイゼルクさんとシファルさんが戻ってきていないけど、まだ尋問中なのかな?
「あ~、嫌な報告があったみたいだな」
ラットルアさんの言葉に、ジナルさん達に視線を向ける。
フィロさんとヌーガさんからの報告に、ジナルさん達の表情が曇っていた。
お父さんも、かなり険しい表情をしている。
「何があったんだろう?」
「ん~」
ラットルアさんを見ると、眉間に皺を寄せている。
「思い当たる事でもあるの?」
「えっ?」
私の質問に、戸惑った表情をしたラットルアさん。
これは、当たりかな?
「まぁ、あるな」
「そう」
彼に視線を向けると、スッと逸らされた。
これは、聞いても話してくれないかな。
「アイビー」
「お父さん、どうしたの?」
「暗殺者達から話を聞いた。研究所には実験台にされていた魔物が複数いたそうだ」
全身を血に染め、暴れ回る魔物達を思い出す。
どの子も、苦しそうな鳴き声をあげていた。
「うん」
「その魔物達だが、森に逃げたそうだ」
お父さんの表情が曇る。
「探しに行くの?」
「あぁ、その予定だ。それで……最終的に倒す可能性もある」
「そっか」
森に戻って、苦しみから解放されたのならいい。
でもジナルさんやお父さんの様子から、今も苦しんでいる可能性があるのだろう。
「早く、助けてあげないとね」
「そうだな」
お父さんが私の頭をそっと撫でる。
「それでこれからの事なんだが、二手に分かれて動く事になった」
二手に?
「暗殺者達をカシム町に届けるチームと、逃げ出した魔物を探すチームだな」
ラットルアさんは分かっていたのか、お父さんを見る。
「あぁ、そうだ。アイビーはどっちがいい?」
私は、どうしよう。
「魔物の方は、殺す事も視野に入れて考えてほしい。それに……実験台だった魔物は、普通の姿でな無い可能性もある」
苦しそうな表情で話すお父さんの手を握る。
逃げている時に、チラッと見た。
魔物の脚の数がおかしかったり、体の一部が抉れていたり。
逃げている時は必死だったから思わなかったけど、後で思い出して凄く悲しくなった。
「私は、魔物を探したい」
苦しんでいるなら、終わらせたい。
「そうか。分かった」
優しい笑みを見せるお父さんに、笑顔を返す。
1ヵ所目の研究所には、実験台にされていた魔物がいたらしい。
詳しくは話してくれなかったけど、報告を聞いたお父さんは凄く怖い表情をしていた。
おそらく、魔物の状態が凄く悪かったのだろう。
「きついかもしれないぞ」
お父さんが、真剣な表情で私を見る。
ラットルアさんも、私の様子を窺っている。
「そうだね。泣くかもしれない。でも、早く探してあげたいから」
魔物の状態によっては、悲しい気持ちや苦しい気持ちになるだろう。
でも、苦しんでいるなら少しでも早く解放してあげたい。
「分かった。でも無理だと思ったら、すぐに言う事。約束できるか?」
「うん。約束する」
ラットルアさんを見ると、複雑そうな表情をしている。
「ラットルアさん?」
「あぁ、うん。アイビーが選んだから何も言わないけど……本当に大丈夫か?」
ふふっ、心配性だな。
「うん、大丈夫だよ」
ちょっと不安だけど。
「ラットルアはどうする?」
「俺も魔物を探す方に入るよ」
「分かった。ジナルに言って来る」
お父さんがジナルさんの下に向かう。
少しすると、ジナルさんの怒鳴る声が聞こえて来た。
「あれは……」
「アイビーの事だろうな」
私の言葉に、ラットルアさんが苦笑する。
「あっ、ジナルが溜め息を吐いた。ドルイドの勝ちだな」
別に勝負はしていないと思うけど。
「一緒に探しに行けそうだな」
「うん。よろしくね」
「任せとけ」
ジナルさんを説得したお父さんは、研究所に行くと捕まえた者達を連れて戻って来た。
「お疲れさま」
戻って来たセイゼルクさんとシファルさんに声を掛ける。
「魔物を探すんだって?」
シファルさんの言葉に、頷く。
「そうか」
少し考えこむシファルさん。
視線を私に向けると、ポンと頭に手を置いた。
「無理だと思ったら、目と耳を閉じていたらいい」
えっ?
「俺達が倒すから」
ふふっ、皆優しいな。
「うん。そうするね」
「あぁ、すぐに終わらせる」
ジナルさんの指示で、ポポラに意識のない暗殺者達が乗せられて行く。
彼等と一緒に、ロティスさんとフィロさんガガトさんがカシム町に向かう。
カシム町には既に連絡済みらしく、向こうからも冒険者達がすぐに出発するだろうとの事。
「暗殺者が多いから、ポポラがちょっと苦しそうなのよね。引きずろうかしら」
ロティスさんの言葉に、ポポラを見る。
確かに、ちょっと苦しそうに見えるような?
でも、引きずるのは……。
「くくくっ」
ロティスさんの傍にサーペントさんが寄る。
そして、ポポラから5人の暗殺者達を下ろしてしまう。
「えっ? どうして?」
サーペントさんの行動にロティスさんが、首を傾げる。
「サーペントさんは、ロティスさん達と一緒に暗殺者達を運びたいのかも」
「くくくっ」
私の言葉に、返事を返すサーペントさん。
「本当? ありがとう。あっでも、アイビーとは離れて行動するけど、大丈夫?」
「くくくっ」
頷くサーペントさんに抱き付くロティスさん。
「さっそくジナルに報告してくるわね」
「くくくっ」
ロティスさんとサーペントさんが、ジナルさんの下に向かう。
すぐに許可が下りたのか、嬉しそうに笑うロティスさん。
サーペントさんは、ジナルさんに顔を寄せて……押し倒していた。
「力が強すぎたみたいだな」
お父さんが、ジナルさん達を見て笑う。
「うん。ジナルさん、大丈夫かな?」
「ははっ。大丈夫、大丈夫。あれぐらいで怪我はしないし、あの程度の事で怒る事もないよ」
私の心配を、ラットルアさんが笑う。
まぁ、ジナルさんがあれで怒る事は無いだろう。
でも、擦り傷ぐらいは負いそう。
「うわっ」
「「「あっ!」」」
ジナルさんを起き上がらせようとしたのか、サーペントさんが彼を鼻先で持ち上げる。
ただ、勢いが良かったのか転がってしまっているけど。
「ぷっ。あはははっ」
ロティスさんの笑い声が森に響く。
「だめ、ジナル。あはははっ。ころが、ふふふっ」
かなり嵌ったみたいで、ロティスさんが苦しそうに笑っている。
「はぁ、用意が終わったらすぐに行動するぞ~」
立ち上がったジナルさんが、落ち込んでいるサーペントさんを撫でると指示を出す。
そして、まだ笑っているロティスさんを見て溜め息を吐いた。




