868話 あっという間に?
「セイゼルク、詳しく話を聞きたいから一緒に来てくれ」
ジナルさんの言葉に、セイゼルクさんが手を上げる。
「分かった。必要な物はあるか?」
「いや、大丈夫だろう」
ジナルさんが木の魔物を見ると、葉っぱを揺らしながら根を振り回している。
なんとなく、楽しそうに見えるのは気のせいかな?
「ぎゃっ! ぎゃっ!」
いや、間違いなく楽しんでいる。
だって、鳴き声が弾んでいるもん。
「ひぃ~」
男性の叫び声に、ジナルさんが笑い出す。
セイゼルクさんも、笑いながら男性に近付く。
「行くぞ。それとも運んでもらうか?」
男性がセイゼルクさんの言葉に首を横に振る。
「たい、じょうぶだ。ある、けう」
うわっ、恐怖で言葉がおかしくなっている。
あの状態で、詳しく聞けるのかな?
ジナルさんとセイゼルクさん。
それに木の魔物に連れて行かれる男性を見送る。
「尋問する時に木の魔物とサーペントがいたら、仕事が早く終わりそうよね。今回の件が終わった後も、協力してくれないか頼もうかしら」
ロティスさんの言葉に、フィロさんが苦笑する。
「木の魔物とサーペントがいる町で、犯罪を犯す挑戦者は現れるのか? 何かしたら、木の魔物かサーペントが出て来るんだぞ?」
「確かに、そうね。尋問の時間短縮より、犯罪抑止に繋がるわね。……やっぱり協力してくれないか、後で交渉してみようかな?」
やる気を見せるロティスさんに、フィロさんが困った表情をする。
「犯罪抑止にはなるが、商人達も怖がって町に来なくなるのでは?」
確かに、その可能性もあるのか。
「そうかしら? 悪い事をしないかぎりは、木の魔物やサーペントに会う事は無いのよ。それに彼等を怖がって、町に来る犯罪者はぐっと減るわ。つまり、安全で健全な取引が出来る町と噂になると思うの。商売している者達の根性を舐めたら駄目よ。彼等なら、絶対に来るわ」
安全で健全な取引か。
それが有名になったら、間違いなく商人達は集まってくるだろうな。
「まぁ、そう言われると……そうかな?」
フィロさんが、真剣な表情で考え込む。
その様子を見て、呆れた様子を見せるガガトさん。
「そもそも協力してくれる可能性はあるのか?」
「「……」」
ロティスさんとフィロさんが、私の傍にいるサーペントさんを見る。
サーペントさんは、なぜか私を見る。
「えっ? 私?」
今の話に、私は関係ないよね?
「アイビーが、カシム町を拠点にする事はないと思うぞ」
お父さんの言葉にサーペントさんは、ロティスさんを見て首を横に振る。
「えっ?」
どういう事?
今の反応から考えられるのは。
「私がカシム町を拠点にしたら、協力するの?」
「くくくっ」
本当に?
えっ、でもどうして私?
「アイビー――」
「駄目だ。余計な事は言うな」
お父さんが、ロティスさんの言葉を遮る。
まぁ、何を言いたいのかは分かる。
でも今すぐに決められる事ではないので、首を横に振っておく。
「お願いする前に、断られたわ。残念」
ロティスさんの表情から、本気で誘おうとしたわけではないと気付く。
「終わったみたいだな」
シファルさんの視線の先には、ジナルさんとセイゼルクさん。
男性と木の魔物の姿は無い。
「どうだった?」
「あぁ、とても素直に話してくれたよ。奴等は王都に拠点を持つ、暗殺を請け負う集団『ゾル』だ。奴等の標的は商人。貴族は標的にしない。ただ、貴族からの依頼は多いらしいが」
お父さんの問いに、セイゼルクさんが応える。
「この近くにある研究所を占拠したのは、カシム町からある程度距離はあるが、数日で着けるからだそうだ」
「つまり、カシム町に集まる商人達を標的にしていたわけね」
ジナルさんの言葉に、ロティスさんが嫌そうな表情を見せる。
「あぁ、そうだ。元研究所を襲ったのは約1年半前。教会の動きに異変を感じたので、奴等からの依頼を受けなくなったそうだ」
ジナルさんの言葉に、眉間に皺が寄る。
つまり、教会からの暗殺依頼を受けていたという事だよね。
まさかここで、教会関係者に会うとは。
「そのせいで、王都の外にある拠点が使えなくなった。教会から譲り受けていた場所だったらしい。それで、カシム町を中心に探していたら、良い場所に研究所を見つけた。警護をしている冒険者も強くない、それなら奪ってしまおうと、いう事になったそうだ」
「なるほどね」
ロティスさんが、研究所がある方を見る。
「カシム町で暗殺事件があっても、ここまで調べに来ることは無いわ。情報があれば別だけど」
「そうだろうな。ここからカシム町までに、何ヵ所か寝泊まり出来る場所を確保しているそうだ。見つけるとしたらそっちだけだろう」
セイゼルクさんの言葉にロティスさんが頷く。
「さて、相手が何者か判明した。そして人数は、さっき見たのが全員だ」
ジナルさんの言葉に、全員の視線が集まる。
「とっとと捕まえるとするか」
なんだか、軽いな。
相手は暗殺者集団なのに。
「そうね。とっとと終わらせて、次の研究所に行きましょうか」
ロティスさんも、簡単に言うな。
「アイビー、どうしたの?」
ラットルアさんが私を見て、首を傾げる。
「暗殺者は強いよね?」
「そりゃ、強いだろうな。特に集団に入っている暗殺者は強いよ。それなりの強さが無いと、集団には入れないから」
そうなんだ。
という事は、今から行く場所にいる暗殺者は強いって事だよね?
「でも、どうしてそんな事を聞くんだ?」
「皆の様子から、それほど強くないのかなって思って」
「あぁ、そういう事か」
私の言葉に苦笑するラットルアさん。
「彼等よりも、俺達の方が強いという事を知っているからだろうな」
皆の方が強い?
「もし、見た事のない暗殺者がいたら警戒する。でも、さっきここに来た者達が全てなんだろう? それなら相手の強さはある程度分かった。そして、恐れる相手ではないと判断したんだ」
「そっか」
それで皆の様子が、ちょっとそこまで行こうかみたいな感じなんだ。
「一気に叩くの?」
「あぁ、時間を掛ける必要は無いだろう。奴等を叩いた後で、研究所を少し調べたい。そっちの方が大切だ」
ジナルさんの言葉に、なんとなく相手が可哀そうになってしまった。
「アイビーは、ラットルアと共にここにいてくれ」
「うん、分かった」
「了解。よろしく、アイビー」
ラットルアさんが、嬉しそうに私を見る。
「こちらこそ」
「俺もここに残るよ。奴等を捕まえた後に必要な書類を作りたい」
「分かった」
ジナルさん達は簡単に作戦を話し合うと、研究所に向かった。
「ゆっくりしてようか」
ラットルアさんが、倒れた木に座ると隣を叩いた。
「うん」
3人分の果実水をコップに入れると、それぞれに渡す。
「「ありがとう」」
ガガトさんがマジックバッグから紙を取り出すと、書類を作りだした。
しばらく果実水を飲みながら、ソラ達と遊ぶ。
「よしっ。これでいいだろう」
ガガトさんを見ると、満足そうに笑っている。
「捕まえた者達は、どうするの?」
一度、カシム町に戻るんだろうか?
「彼等は、ポポラがカシム町まで運んでくれる」
「ポポラが?」
「そう。と言っても、実際にカシム町まで行くわけではない。連絡を入れるので、途中までカシム町から冒険者が来ているはずだ」
なるほど。
「あっ。戻って来た」
えっ、もう?
研究所の方を見ると、皆の姿が見えた。
「終わったぞ~」
ジナルさんが、こちらに向かって手を振る。
「おかえり。早かったね」
手を振り返すと、ジナルさんが肩を竦めた。
「さっきの煩かった奴が、書類を全て燃やしてしまっていたから、調べる物が無かったんだよ」
それで早かったのか。




