866話 3ヵ所目まであと少し
2ヵ所目の研究所跡地から2日目。
地図を見ていたジナルさんが、あと少しだと山の方を指した。
「あの山の近くなのか?」
セイゼルクさんが、ジナルさんの持つ地図を覗き込む。
「書類では、山の麓にあると書かれていたから、あの辺りだろう。近付く前に、少し休憩を取ろうか」
ジナルさんの言葉にロティスさんが賛成する。
「お腹が空いた~」
倒れた大木の上に座ると、ロティスさんは持っていたマジックバッグを漁り出す。
「相変わらずだな~」
ガガトさんの言葉に、ロティスさんが首を横に振る。
「そうでもないのよね」
彼女の言葉に、ガガトさんとフィロさんが視線を向ける。
「どういう事だ?」
「フィロ。朝、私が食べた量を覚えている?」
ロティスさんの質問にフィロさんが、少し考えこむ。
そして、彼女の手にしている物を見て驚いた表情をした。
「食べる量が、半分ぐらいになっていないか?」
えっ?
これで半分?
ラットルアさんも驚いた表情で彼女に視線を向けた。
「そうなのよ。半分ぐらいなの!」
ロティスさんが傍にいるポポラを見る。
フィロさんも、心配そうにポポラに視線を向けた。
どうしてポポラを見るんだろう?
「ポポラの調子はどうなんだ?」
ガガトさんの質問に、ロティスさんは神妙な表情を見せる。
「大丈夫だと思う。元気は元気なの。でも私から送る魔力の量がぐっと減っているのよね」
あぁ、そうだ。
テイマーは、テイムした魔物に魔力を供給するのが普通だ。
私には馴染みが無いから、すぐに忘れてしまうな。
近くで揺れているソラ達を見る。
今日も元気に、飛び回って遊んでいる。
「ぷぷっ?」
「てりゅっ?」
「ぺふっ?」
私の視線に気付いたのか、3匹の体が傾く。
「もの凄く可愛い」
「ぷっ」
んっ?
近くで休憩していたシファルさんが、口を手で押さえた。
これは、お父さんでよく見る光景だ。
「別に笑ってもいいですけど」
「くくっ。アイビーはいいと言ってくれるけど、笑ったらソラ達が地味に攻撃してくるんだよ」
「えっ?」
攻撃?
ソラ達が?
「知らなかったのか?」
「うん」
ソラ達が本当に?
3匹に視線を向けると、なぜか自慢げな表情をしている。
いや、どうして自慢気なの?
もしかして、「叱っておいたよ」という気持ちなのだろうか?
「まぁ、攻撃されても痛くはなく、可愛いだけだけど」
「ぷっ!」
「てりゅ!」
「……」
シファルさんの言葉に、衝撃を受けたような表情の3匹。
あっ!
とっさに口を手で押さえる。
ここで笑ったら、3匹が不機嫌になってしまう。
そうなると、足にワザとぶつかってきたり……あっ。
「私も攻撃された経験があるみたい」
あの可愛いのが攻撃だったのかな?
たぶん、そうなんだろうな。
本気でぶつかったら悪いと思っているのか、微妙な力加減でぶつかってくるから可愛いんだよね。
「少し様子を見るしかないな」
ガガトさんに視線を向けると、ポポラを心配そうに撫でていた。
「やっぱり、それしかないわよね」
ポポラがロティスさんを心配そうに見つめる。
そして、なぜか木の魔物とサーペントさんに視線を向けた。
木の魔物とサーペントさんも、何かソワソワしているように見える。
どうしたんだろう?
「えっ、ポポラ?」
ロティスさんの焦った声に視線を戻すと、ポポラが木の魔物とサーペントさんの傍に寄った。
そして、ロティスさんを見ると首を傾げる。
何かを伝えようとしているみたい。
えっと、テイマーであるロティスさんの食べる量が半分になった。
その原因は、ポポラに渡す魔力が減ったから。
どうして減ったのかが、問題だよね?
ん~、必要な魔力が急に減るとは考えられない。
病気をしていたら別だけど。
でもポポラは、ロティスさんが言うように元気そうだ。
という事は、ロティスさん以外から魔力を貰った可能性があるよね。
「ロティスさん以外から魔力を貰う方法か……」
「んっ? どういう事だ?」
お父さんの言葉に、私が考えた事を話す。
「なるほど。ロティス以外から魔力を貰っている可能性か」
話を聞いたお父さんの眉間に皺が寄る。
「何か問題があるの?」
「魔力を与える事で、魔物との絆を強めると言われているんだよ」
シファルさんの言葉に、首を傾げる。
「別の方法でも絆は強まるよね? だって、私はソラ達に魔力を上げた事が無いけど、絆は強まっていると思っているもの」
私の言葉に、お父さんとシファルさんが「あっ」と小さな声をあげる。
「そうだった。アイビーもテイマーだったな」
えっ?
シファルさんは、私がテイマーという事を忘れていたの?
「アイビーがテイマーだと分かってはいるんだけど、今までのテイマーとは別枠だから」
別枠。
「あぁ、そうだな。俺達が学んできたテイマーとは、あまりにもかけ離れた存在だから。別枠という感じだな」
お父さんまで。
あれ?
スライムはゴミを食べる事で魔力を補っているから、テイマーからの魔力は必要としないよね?
待って、魔力は絆を強めるために必要と考えられている。
という事は、普通はスライムにも魔力をあげているの?
えっと本では……「テイムした魔物には魔力を与える必要がある。これは絆を強めるだけではなく、テイム関係を継続させるため」と、書いてあったっけ。
「つまり……」
スライムにも魔力を与えるのが普通なのか。
テイム関係を継続?
でも私は、ソラをテイムした時以外に魔力をあげた事が一度もない。
フレムは生まれた時からテイムの印があったし、シエルとソルはいつの間に印が現れた。
そういえば、シエルの印は途中まで偽物だったのに、いつの間にか本物に変わったんだよね。
……これって。
「アイビー、どうした?」
「ソラ達と私の関係は、普通とは全く違うという事を改めて認識してしまった」
うん、あまりに違い過ぎる。
「あぁ、そうだな」
お父さんが、苦笑しながら頷く。
シエルの傍で遊んでいるソラ達を見る、
あの子達は、私の魔力が当てにならないから自の力でテイム関係を継続させてくれているんだろうな。
「ポポラはロティスさんの負担を減らすために、魔力の補う方法を勉強したのかも? もしくは、魔力を消費しない方かもしれないけど」
そうだ。
魔力を貰う方法だけじゃない、魔力を消費しなくて良ければ貰う魔力量は減る。
「えっ?」
「ぎゃっ!」
「くくくっ」
ロティスさんの驚いた声と、木の魔物とサーペントさんの鳴き声が重なる。
「んっ? もしかして、木の魔物とサーペントさんが教えたの?」
確か、旅に出る前にロティスさんとは別行動をしたと言っていたよね。
「ぎゃっ!」
「くくくっ」
私の言葉に応えるように木の魔物とサーペントさんが反応する。
それにロティスさんが驚いた表情でポポラを見る。
「ポポラ――」
「待て、誰か来る!」
ロティスさんがポポラの頭を撫でていると、ジナルさんが立ちあがる。
そして、研究所があると言われている方に鋭い視線を向けた。
「皆、こっちに」
下ろしていたマジックバッグを肩から提げ、皆をソラ達専用のバッグに入れる。
「ごめんね。ちょっとそこで静かにしてて」
私の言葉に、バッグが揺れる。
「10人以上いるな」
セイゼルクさんが武器を持つと、ジナルさんにチラッと視線を向ける。
「気配の薄さから上位冒険者ぐらいか。最低10、いや12人か?」
気配が薄く、森の気配と混ざり合っているので人数が確認しずらい。
でも、最低12人はいるみたいだ。
「とりあえず、相手が何者なのか確認したいな。隠れるか」
フィロさんの言葉に全員が頷くと、隠れるために移動を始めた。




