865話 2ヵ所目
先頭を歩いていたシエルが立ち止まり、ジナルさんを見る。
「この辺りなのか?」
「にゃうん」
シエルの返答に全員で周りを見回すが、研究所と思われる物は何処にもない。
「おかしいな」
ジナルさんが、地図と1枚の紙をマジックバッグから取り出すと、シエルに見せる。
「地図のこの岩が、あれか?」
「にゃうん」
「そうか。という事は、やっぱりこの辺りで合ってるよな?」
ジナルさん達の様子から、やはりこの辺りに目的の研究所があるみたい。
でも、それらしい物はないし、人の気配もない。
「稼働していないとしても、研究所があった痕跡ぐらいはあるとおもうんだけどな」
シファルさんの言葉に、ジナルさんが頷く。
「そうだよな。でも、何もないよな?」
「周辺を調べてみましょう。何か、見つかるかもしれないわ」
ロティスさんの言葉に、2人組になって周りを調べる。
「お父さん、何か見つけた?」
一緒に調べているお父さんに視線を向ける。
「いや、何も無いな」
私とお父さんが調べている場所には、特に気になる物はないみたい。
「戻ろうか」
「うん」
お父さんの言葉に、元いた場所に戻る。
「あれ? 皆は何処だろう?」
元の場所に戻るが、誰もいない。
サーペントさんも木の魔物もいないようだ。
「アイビー、こっちだ」
私達が調べた場所のちょうど反対側から、ラットルアさんが手を振っている。
それに手を上げて応えると、お父さんと一緒に向かう。
「何かあったのか?」
「研究所が見つかった。ただ、既に崩壊していたけど」
見つかったんだ。
崩壊していたという事は、稼働していなかったという事だよね。
良かった。
「あそこだ」
ラットルアさんが指した方を見ると、木々の間から蔦に覆われた石造りの建物が見えた。
「石造りの建物?」
「あぁ、凄く頑丈な作りになっているみたいだ。まぁ、壊れているけどな。あと、ジナルが『重要な研究をしていた可能性がある』と、言っていたよ」
教会にとって重要という事は、酷い事をしていた場所だったという事だろうな。
稼働していなくて良かった。
建物の前に来ると、お父さんが建物全体を見回す、
「蔦の状態から、放置されたのは4、5年前だな」
「ガガトも、4年か5年前だろうっと言っていたよ」
建物全体を見て首を傾げる。
ラットルアさんが「崩壊していた」と言っていたけど、何処も壊れていない。
まぁ、壁にヒビは入っているけれど。
「ラットルアさん。何処か壊れているの? それと、皆は何処にいるの?」
抑えられた気配を複数感じるから、近くにいる事は分かる。
でもなぜか、場所の特定が出来ない。
「皆は建物の裏にいるよ。そっちに行けば壊れている場所も見えるから、行こうか」
ラットルアさんの案内で、建物の裏に回る。
「「あっ」」
石造りの建物は正面と横の壁に問題は無かったが、裏の壁は完全に崩れ落ち瓦礫の山となっていた。
「アイビー、止まって」
ロティスさんの声に視線を向けると、ロティスさんが私達の方に歩いて来た。
「今、皆で瓦礫を調べているのよ」
なるほど、あの瓦礫の向こう側に皆がいるのか。
「いつ崩れるか分からないから、傍に来ない方がいいわ」
瓦礫の山を見上げると、小さな岩が転がり落ちた。
確かに、あれば危ないね。
「何か見つけたのか?」
お父さんの言葉に、ロティスさんが頷く。
「何かがぶつかった痕跡を、見つけたわ」
ロティスさんの説明に首を傾げる。
「見て、分かるの?」
「えぇ。壁の残骸に、抉れた痕跡が残っていたから」
そうなんだ。
ガラガラガラ。
「崩れそうね。皆、瓦礫から離れて!」
ロティスさんの言葉に、瓦礫の向こう側から皆が姿を見せた。
あれっ?
ジナルさんの姿が見えない。
それに、
「ジナルとフィロ。それにヌーガがいないな」
お父さんの言葉に頷く。
「ジナル達は、内部を調べに行っているからいないわ」
内部?
瓦礫の山から地面に、視線を向ける。
壁はあるけど建物は壊れているから、内部は無い。
何処を調べているんだろう?
「あぁ、ごめん。説明不足だったわね。この下に、地下があるのよ」
「地下?」
お父さんの言葉に、ロティスさんが頷く。
「そう。木の魔物が地下までの道を作ってくれて、今ジナル達が調べているわ」
「そうか」
ガラガラ、ガラガラ、ガラガラ。
音がした方を見ると、瓦礫の山から大きな岩が転がり落ちている。
「危ないな。ジナル達に、出てくるように言った方がいいんじゃないか?」
お父さんの言葉に、ロティスさんが頷く。
「そうね――」
ボコッ、ドコッ、ドーン。
何処からか、何かを殴るような音と大きな物と落ちる音が聞こえた。
「良かった、外だ~」
フィロさんの声に視線を向けると、建物から少し離れた場所に大きな穴が出来ていた。
そしてそこからジナルさん達が出て来る。
「大丈夫?」
慌てた様子のロティスさんが、ジナルさん達に駆け寄る。
「あぁ、途中で天井が崩れたけど、木の魔物が助けてくれた」
ボコボコボコ。
大きな音と共に、地面から木の魔物が出て来る。
「大丈夫?」
傍によって木の魔物を見上げる。
「ぎゃっ、ぎゃっ」
サワサワと揺れる枝に、笑みが浮かぶ。
「ジナルさん達を助けてくれて、ありがとう」
私の言葉に、枝が少しだけ激しく揺れる。
「それで、どうだった? 何かあったのか?」
セイゼルクさんの言葉に、ジナルさんの眉間に皺が寄る。
「あぁ、ここは木の魔物を研究してた場所のようだ」
木の魔物の動きがピタッと止まる。
そして、そっとジナルさんの傍に寄る。
「見つけた書類によると、木の魔物を魔法陣で操ろうとしていたようだ」
バシン。
木の魔物が、根を地面に叩きつける。
表情も少し険しいような気がする。
ジナルさんがポンポンと木の魔物の幹を撫でる。
「ぎゃっ」
木の魔物の根が、ジナルさんが持っている書類を指す。
「続きか?」
「ぎゃっ」
「……捕まえた木の魔物。大きさから言って、おそらく子供だな。その子を実験に使っていたようだ」
酷い。
「あっ、もしかしたら」
シファルさんの言葉に、全員が視線を向ける。
「木の魔物、根を思いっきり地面に叩きつけてくれるかな?」
「ぎゃっ?」
「頼むよ」
「ぎゃっ」
ヒュッ、バシーン。
木の魔物が振り落とした根で、地面が抉れる。
「やっぱり」
抉れた部分を見たシファルさんが、木の魔物を見る。
「どうやら木の魔物が、捕まった仲間を助けたみたいだな」
えっ?
「そうね。私達が見つけた壁に残った跡は、これにそっくりだわ」
あぁ、「何かがぶつかった痕跡を見つけた」と言っていた。
それが、木の魔物が残した跡に似ているのか。
「ぎゃっ、ぎゃっ」
嬉しそうに鳴く木の魔物。
捕まっていた木の魔物の子供が、助かったのかは分からない。
だけど、木の魔物が建物の壁に攻撃したことは痕跡から予測出来る。
だから、助かったと思いたい。
「この研究所からは、これ以上に得られる物はなさそうだ。次に行こうか」
ジナルさんの言葉に、次の研究所に向かう。
次の場所は、少しここから遠いと聞いた。
また、稼働していない事を祈ろう。




