860話 カシム町を出発
「お父さん、皆はもう集まっているみたい」
カシム町を守る門の前に、セイゼルクさん達やロティスさん達の姿が見えた。
「あれ? ロティスさんのテイムしているポポラがいないね」
「そうだな。一緒に行く予定だったと思うけど」
ラットルアさんが、私達に気付き手を上げる。
それに手を振ると、シファルさん達も私達に気付いたようだ。
「すまない、遅くなった」
お父さんの言葉にジナルさんが首を横に振る。
「大丈夫、約束の時間より早いから。それじゃあ、全員集まったし行くか」
カシム町の門番さんに挨拶をすると、全員で門を抜ける。
「いってらっしゃ~い」
門番さんの大声に、ロティスさんが少し呆れた表情をする。
「森に向かって大声を出すのは駄目だと、前に注意したんだけどな」
音に敏感な魔物が、大きな音に反応する可能性があるためだよね。
と、そんな事よりロティスさんがちょっと不機嫌に見える。
門番さんが大声を出す前からだから、彼のせいではないよね?
どうしたんだろう?
「怒られているみたいだぞ」
セイゼルクさんの言葉に振り返ると、大声を上げた門番さんが仲間に怒られていた。
あっ私達が見ている事に気付いた。
「あれは、全く反省をしていないな」
ジナルさんの呆れた声に、笑ってしまう。
確かに反省はしていないみたい。
だって、こっちに向かって元気に手を振ってるからね。
「行こうか」
ジナルさんの言葉に、森の奥に向かって行く。
「ロティスさん、ポポラは一緒じゃないんですか?」
私の言葉に、ロティスさんの表情が歪む。
もしかして、聞いたら駄目だったのかな?
「私よりサーペントといる方がいいみたい」
「えっ? サーペントさんと?」
どういう事だろう?
ロティスさんの兄で、チーム仲間のフィロさんを見る。
「昨日、ポポラと一緒にサーペント達の様子を見に森に来たんだよ。で、問題ないと分かったから帰ろうとしたら、ポポラが動こうとしない。ロティスが『町に戻ろう』と言ったら、サーペントの方に身を寄せて拒否したらしい」
ポポラとサーペントさんの仲が良くなったという事なのかな?
「それからロティスはちょっと拗ねているんだよな?」
えっ?
不機嫌なのではなく、拗ねているの?
「拗ねてないわよ!」
ロティスさんの態度にジナルさんが笑い出す。
そんな彼を睨み付けるロティスさん。
「はぁ、仕方ないでしょ。こんな事は初めてなんだから」
ロティスさんが少し寂しそうな表情をすると、それを見たジナルさんが彼女の肩を軽くポンと叩く。
「ポポラにも何か考えがあるんだろう」
「そうかな?」
ジナルさんの言葉に首を傾げるロティスさん。
「アイビー、そろそろ皆をバッグから出しても問題ないぞ」
お父さんの言葉に頷く。
「分かった。皆、お待たせ」
皆が入っているバッグを開けると、ソラ達が飛び出してくる。
ここ数日は、ずっと部屋の中だけだったので広い森に出られて嬉しそうだ。
「ぷっぷぷ~」
ソラが元気に跳ね回ると、その勢いのままジナルさんの肩に乗る。
「あっ」
どうしよう。
「大丈夫だ。今日は俺と一緒に行こうか」
「ぷっぷぷ~」
ジナルさんの言葉に元気に返事をするソラ。
今日のソラは、ジナルさんと行動を一緒にするようだ。
「フレムは俺なのか?」
不思議そうな表情でガガトさんがフレムを見ている。
「てっりゅりゅ~」
戸惑っているガガトさんなどお構いなしに、その胸元に飛び込むフレム。
彼は少し慌てたけど、無事にフレムを抱きとめた。
「ふふっ。ソルは俺なんだ」
「ぺふっ」
ソルがシファルさんに向かって触手を伸ばすと、彼は笑ってソルを抱き上げた。
「皆、自由過ぎるよ」
私の言葉に、みんなが笑い出す。
「確かに、ソラ達は自由だよな」
セイゼルクさんの言葉にヌーガさんが頷く。
「にゃうん」
シエルを見ると、「その通り」と賛成しているように見える。
「シエルも同じ意見みたいだなぁ」
ラットルアさんがシエルの頭を撫でると、すりすりとその手に顔をこすりつける。
それを少し羨ましそうに見るロティスさん。
そういえば、ロティスさんはソラ達に近付かないな。
「行こうか」
ジナルさんの言葉にシエルが先頭を歩きだす。
しばらく森の奥に進むと、木の魔物とサーペントさんの姿が見えた。
あれ?
ポポラはどこにいるんだろう?
ロティスさんも少し不安そうに、周りを見回している。
「おはよう。ポポラはどこにいるんだ?」
ジナルさんの言葉に、サーペントさんがある方向を見る。
そちらに視線を向けると、ポポラが森の奥から姿を見せた。
「ポポラ、良かった」
ロティスさんが嬉しそうにポポラに駆け寄る。
ポポラも嬉しそうだ。
んっ?
なんだろう?
ポポラが少し疲れているように見える。
「どうしたの?」
シファルさんが私を不思議そうに見る。
「ポポラが、少し疲れているように見えて」
「そうかな?」
私の言葉に首を傾げながらポポラに視線を向けるシファルさん。
お父さんも、不思議そうにポポラを見ている。
「気のせいなのかな?」
もしポポラが疲れているなら、ロティスさんが気付くか。
彼女を見るが、特に気にしている様子は無い。
やっぱり、私の気のせいだったのかな。
「ククククッ」
鳴き声に振り返ると、いつの間にか後ろにサーペントさんが来ていた。
「おはよう。元気かな?」
「ククククッ」
サーペントさんの鼻のあたりを強めに撫でると、目がスッと細まる。
「ククククッ」
鳴き声がさっきより少し高めなのは、きっと機嫌がいいからだろう。
「今日からよろしくね」
「ククククッ」
サーペントさんと挨拶していると、スッと手元が暗くなる。
見上げると、木の魔物がいた。
「木の魔物もおはよう。調子はどう?」
私の言葉に、木の魔物の葉っぱがざわざわと揺れる。
その元気に揺れる様子を見て頷く。
「いいみたいだね」
ざわざわ、ざわざわ。
「今日は目的の場所まで一気に行くわよ」
ポポラと会い笑顔になったロティスさんに、ジナルさんが呆れた表情をする。
「さっきまでのあの雰囲気が、ポポラに会っただけで無くなったな。単純だ」
「別にいいでしょ。ほら、今日の予定場所まで少し距離があるんだから、行くわよ」
ジナルさんの言葉を軽く流すロティスさん。
少し前の彼女からは、考えられないほど笑顔だ。
「前の時も思ったけど、見事に俺達から逃げていくな」
しばらく歩いていると、ラットルアさんが楽しそうに周りを見回す。
「それはそうだろう。ここにはアダンダラにサーペント。木の魔物までいるんだぞ。気配を察知して逃げるのは、本能だ」
セイゼルクさんの言葉に、全員がある方向を見る。
そちらはまさに今、私達から急いで離れていく魔物の気配がある。
「まぁそれでも、警戒だけは怠るなよ。森の中では、何があるか分からないからな」
ジナルさんの言葉に、気を引き締める。
森の中では何が起こってもおかしくないからね。
もしかしたら、シエル達の気配を感じて向かってくる魔物だっているかもしれない。
気配を探る限り、近くには魔物1匹もいないけどね。




