表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
937/1155

番外編 フォロンダ領主と組織3

―フォロンダ領主視点―


机に載っている書類の量に、溜め息がこぼれる。

処理をしても処理をしても増えるので、正直うんざりだ。


「全部、燃やしたい。気持ちがいいんだろうな」


コンコン。


「どうぞ」


「失礼します。侵入者を確保しました」


スイナスの報告に、頷く。


全く無駄な事を。

それにしても、今月に入って既に3回目。

敵は焦ってきているようだな。


「お疲れ様。侵入経路は?」


「3番目です」


3番目という事は、地下からか。


王都にある屋敷は、非常に広く適度に強固だ。

完全に強固にしてしまうと、侵入してくる敵の動きが予想できない。

だから、数ヵ所だけ侵入しやすい場所を作ってある。

もちろん、敵にバレないようにしっかり守らせてはいる。

ただ、ちょっと工夫すれば侵入できるようになっているという感じだ。


「誰からの依頼だ?」


「すみません。調べる前に、全員が死にました」


つまり、捕まった瞬間に死ぬように契約していた可能性があるのか。


「オローガス子爵かもしれないな」


奴は目的の為なら、何でもするからな。


「証拠は何もありませんので、決めつけるのは早いかと」


スイナスの言葉に頷く。

決めつけて調べるのは、偏った調査になるから危険か。


「分かった。調査は継続してくれ。あとルッチ伯爵の調査はどうなっている?」


「昨日の夜に『動き出す可能性あり』との報告が来たので、部下に目を離すなと指示しました」


「そうか」


ルッチ伯爵。

ずっと大人しかったのに、急に動きを見せた。

何かあったのか?


コンコン。


「はい」


「「失礼します」」


執務室に、ローザスとアマリが入って来る。


「2人で来るなんて、珍しいな。どうした?」


ローザスが執務机の前に来ると、数枚の書類を差し出した。


「欲しがっていた全ての貴族に行き渡るように、少女の絵姿をばらまきました。受け取った貴族の名簿です」


「ありがとう」


受け取った書類の中身を確認する。


「子爵や男爵も結構な数いるな。彼等の目的は、阻止できそうか?」


「はい。絵姿をばらまきましたので、少女の情報で他の貴族に自分を売り込むことは出来なくなりました」


「そうか。それにしても……少女の絵姿を手に入れた者達が予想以上に多いな」


「はい。それには少し驚きました」


ローザスが顔を歪ませて、俺が手に持っている書類を睨む。


まぁ、その気持ちはわかる。

なにせ1人の少女を生贄に、自分の地位を盤石にしようとする屑共だからな。


「奴等をどうしますか?」


「そうだな。今は他の事が忙しいから放置するしかないが、いずれ消えてもらう予定だ」


「分かりました」


ローザスの報告は以上だな。

あとは、アマリに視線を向けると、にこりと笑みを向けられた。


「なんだ?」


「いえ、なんでもありません。私からの報告ですが、バッファ伯爵と接触を持った者がいます。王城勤めの者で、前王の側近だった者の子供です」


バッファの現当主もその子供も、かなり愚かだ。

自分の名で犯罪者と契約したり、自分の手の者を使って俺を襲ったり。


前当主は、かなり頭が切れる強者で信頼出来る仲間だった。

現当主も、仲間だったはずなんだけどな。


「やはりバッファと接触したか。その子供に指示を出している者は?」


バッファ伯爵は証拠がある為、すぐに潰せる。

でもどうせ潰すなら、利用してからでも遅くないと思った。

俺や前当主を裏切った怒りや悲しみ。

それをぶつけていると言われれば、そうかもしれないが。


「ルッチ伯爵と親戚関係にある、オトス子爵です」


アマリの報告に笑みが浮かぶ。


「オトス子爵か」


王城にある、俺の執務室。

外に話が漏れないようになっているはずなのに、時々情報が漏れていた。

その調査に、バッファ伯爵を利用したんだが上手くいったようだ。


「オトス子爵の次男は、王城内の警護に関わっているな」


「はい。おそらく、その次男がフォロンダ様の執務室に何かしたのでしょう」


「そうだろうな」


「捕まえますか?」


スイナスの言葉に首を横に振る。


「ルッチ伯爵の目的が不明なので、監視を続けて誰と接触するか確認してくれ」


「分かりました」


スイナスがローザスに視線を向けると、彼女は頷いた。


「すぐに監視を増やします。あっ」


ローザスが、迷うような表情で俺を見る。


「どうした?」


「バラバラだった貴族の動きですが、ここにきてオローガス子爵の下に集まって来ています。ただ、オローガス子爵の資産は豊富ですが、貴族としての地位は低いです。なぜ、彼の下に集まってきているのか、今の段階では調べられませんでした」


「確かにおかしいな。オローガス子爵の下に集まった貴族で気になるのは?」


「パシューラ公爵です」


ローザスの報告に目を見開く。


パシューラ公爵?

古くから続いている一族で、賎民意識の塊みたいなあのパシューラ公爵?


「本当にパシューラ公爵?」


「はい。間違いなくパシューラ公爵です」


民を人として扱わず、地位の低い貴族は自分達の道具だと思っているような奴が。

どういう心境の変化だ?


「そうか。調査をありがとう。引き続き、貴族の動きにも注視してくれ」


俺の言葉に、笑みを浮かべるローザス。


「分かりました」


なんだか楽しそうだな。


「何かあるのか?」


「貴族を調べるのは楽しいです。手を組んだり裏切ったり、金をばらまいたり。ちょっと情報を流すだけで右往左往。本当に面白いです」


情報を?

あぁそういえば、ローザスに貴族達の扱い方を教えたのはアマリだったな。


「それでは、私はこれで」


楽し気に執務室から出て行くローザスに苦笑が浮かぶ。


「どうぞ」


アマリが俺の前にお茶を置く。


「ありがとう。ローザスは問題ないか?」


「大丈夫です。流す情報も、こちらが動きやすくするための物ですから」


やっぱり。

はぁ、温かいお茶が体に染み渡る。


「アマリ、美味しいよ。ありがとう」


「あっ、これですね」


執務机にあった1枚の書類を手にして、スイナスが俺を見る。


「そうだ」


貴族達にばらまいた少女の絵姿。


「綺麗に描けてますね」


「あぁ、完璧に描かせたからな」


貴族達が探していたアイビーの絵姿は、似ているがどこか違った。

なんというか、バランスが悪いというか。

だから、ばらまく絵姿は綺麗に描かせた。


「あぁ、それですか。失礼」


アマリが、スイナスから少女の絵姿が描かれた紙を奪う。


「これ貰っていいですか?」


アマリの事だから破るかと思ったが、欲しい?


「あぁ、持って行っていいぞ」


「ありがとうございます」


ちょっと嬉しそうに少女が描かれた紙を、ポケットにしまうアマリ。

いつもとちょっと違う雰囲気に、スイナスと顔を見合わせる。


「なんですか?」


「いや……嬉しそうだから」


正直、その少女の絵姿を見れば怒ると思っていた。

最初は反対されると思って、アマリには内緒で進めていたからな。


「最初はちょっと苛立ちましたけど……綺麗に描いてくれましたし」


頬を緩めるアマリに、笑みが浮かぶ。


「それは何歳の頃なんだ?」


スイナスの質問に、ポケットから紙を取り出すアマリ。


「おそらく8歳の頃だと思います」


アマリの父は9歳と言っていたが、本人だと8歳頃なのか。


「それにしても、アイビーの絵姿をアマリの物に変えるなんて。よく思いつきましたね」


「貴族達に噂が広まっていたから、絵を無かった事には出来ない」


下手な事をすると、アイビーが描かれている絵姿の価値を上げてしまう。


「それだったら、アイビーとは別の少女の絵に変えてしまえばいいと思ったんだよ」


アイビーの絵姿は回収済み。

いや~、あちこちに送り込んだ者達がいい働きをしてくれたよ。


それにしても、少女が入れ替わった事に誰も気付かないなんて。

確かに、服装などは似せて描かせたけど顔つきは全く違うのに。

利用はするが、少女には興味なしか。

まぁ、そのお陰で上手く行ったんだけど……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ