858話 料理も完成
「終わった~」
お父さんは、使用したお鍋を所定の位置に置き、背伸びをした。
「さすがに今日の量は圧巻だな」
ジナルさんが4個のテーブルに乗っている料理を眺めて笑う。
一番大きなテーブルには、寸胴の大きな鍋が15個。
中ぐらい鍋が10個、小さい鍋が20個。
それぞれスープや長時間煮込むと美味しくなる料理が入っている。
他のテーブルには、バナの葉で包まれているタレに浸けた大量のお肉や塊肉。
下処理した出汁用の骨に、野菜から取った出汁などがある。
「確かに圧巻だよね。特におにぎりとサンドイッチの量は凄いと思う」
2個のテーブルに並ぶおにぎりとサンドイッチが入った大量のカゴ。
さすがにちょっと作り過ぎたかな?
でも、時間が無い時に取り出してすぐに食べられるから、重宝するんだよね。
「ヌーガさん、腕は疲れていない? 大丈夫?」
ヌーガさんを見ると、小さく笑って「大丈夫」と返って来た。
でも本当に大丈夫かな?
ヌーガさんはパン生地を捏ねる作業が面白いと、朝からずっとパン生地を捏ねてくれていた。
さすがに、疲れていると思うんだけど……。
「本当に大丈夫だ」
彼がそう言うなら、私は信じようかな。
いつまでも心配していると、ヌーガさんが気にするからね。
「分かった。ヌーガさんがしっかり捏ねてくれたから、美味しいパンが出来たと思うの、ありがとう」
パン生地は、捏ねる作業を疎かにすると失敗する。
何度か捏ねる時間が短くて、パンが綺麗に膨らまなかったからね。
「さてと、作った料理をマジックバッグに入れて、今日は終わろうか。もう暗いしな」
お父さんから料理専用のマジックバッグを受け取り、窓から外を見る。
「本当だ、もう暗いね」
朝から料理作りを始めて、途中何度か休憩。
それ以外はずっと料理を作っていたので、気付かなかった。
もう、夜だね。
「あっ! 調理場を占領しちゃってたね。大丈夫だったのかな?」
夕飯を作る時間は過ぎているよね。
うわぁ、悪い事をしてしまったな。
「大丈夫だ。作る量を聞いてから、宿の店主フィミーさんとリミーさんには1日調理場を借りれるようにお願いしておいたから」
お父さんの言葉に少し驚く。
いつの間にお願いしたんだろう?
全く気付かなかったな。
「そうだったんだ。ありがとう」
「どういたしまして。それにしても、この量はマジックバッグに入れるのも大変だな」
お父さんがマジックバッグの口を開けると、ジナルさんが次々とお鍋をそのマジックバッグに入れていく。
大きな寸胴鍋は、さすがのジナルさんでもちょっと大変そう。
もう1つ小さい寸胴鍋にした方が良かったかな?
「ジナルさん、大丈夫?」
「あぁ、問題ない」
そういえば、ジナルさん達が、自分達なら持ち運べると言ったため大きな方にしたんだった。
ジナルさんとお父さんの様子を見ながら、おにぎりの入ったカゴをマジックバッグに入れていく。
隣では、サンドイッチの入ったカゴをマジックバッグに入れるヌーガさん。
「これで最後」
ジナルさんが、最後に小さい鍋をマジックバッグに入れるとつい拍手をしてしまった。
「んっ?」
私の反応を不思議そうに見るジナルさん。
「えっと、重い鍋を全てマジックバッグに入れてしまうから、凄いなって思って」
しかも、1分ぐらいで終わった。
うん、やっぱり凄い力持ちだ。
「ははっ、ありがとう。そっちも手伝おうか?」
「大丈夫。休憩してて」
持っていたカゴをマジックバッグに入れる。
「私もとっとと終わらせよう」
おにぎりの入ったカゴを、どんどんマジックバッグに入れていく。
無造作に入れても、中で勝手に整理していくので本当に便利だ。
最後のカゴをマジックバッグに入れる。
「終わった~」
背を伸ばすために腕を上に伸ばすと、筋が伸びるのか気持ちいい。
「お疲れ様」
お父さんが微笑みながら、私の頭を優しく撫でる。
「お父さんも、お疲れ様!」
笑顔で応えると、お父さんの笑みが深くなる。
「ねぇ、お父さん」
「どうした?」
困った表情の私を見て、お父さんが首を傾げる。
「ずっと調理場を占領していたから……夕飯は、どうなったの?」
「大丈夫。ちゃんと用意してもらっているから」
「良かった」
ホッとした瞬間、調理場にお腹の鳴る音が響く。
「もう」
お腹を押さえると、お父さんが口を手で覆った。
「笑っていいよ。ジナルさんもヌーガさんも!」
2人とも顔が見えないように場所を移動したけど、分かってるからね。
吹き出した音が聞こえたから!
「あはははっ。まぁでも、お腹は空いたな」
ジナルさんの言葉に、もう一度お腹が鳴る。
でも今度は音が小さかったので、私以外には気付かなったみたいだ。
「たしか、今日の夕飯は屋台で見繕ってくれているんだよな?」
屋台のご飯!
「あぁ、セイゼルク達が買い出しに行ったはずだ」
ジナルさんとヌーガさんの会話を聞きながら、笑みが浮かぶ。
「良かった、すぐに食べられるみたい」
大量に料理は作ったけど、旅に持って行く物だか味見程度で全く食べていない。
だから正直、お腹がかなり減っている。
「食堂に置いてあるはずだから、行こうか」
お父さんと一緒に、食堂へ向かう。
料理の入ったマジックバッグは、お父さん達が持ってくれるようだ。
「お疲れ」
食堂に入るとラットルアさんが手を振ってくれたので、そちらに向かう。
「アイビー、大丈夫か? ちょっと顔色が悪いみたいだけど」
「えっ、そう?」
頬を押さえてお父さんを見る。
「顔色が悪いの?」
「少しな。疲れたんだろう」
確かに、ちょっと疲れているかな?
「今日は夕飯を食べたら、お風呂に入ってすぐに休もうか」
お父さんの言葉に頷く。
旅の出発を後らせるわけにはいかないからね。
「何が食べたいのか分からなかったから、色々買って来たけど……食べられそうか?」
セイゼルクさんの言葉に、テーブルに広がっている屋台の食べ物を見る。
肉料理が多いけど野菜料理もある。
「大丈夫」
「それじゃ、食べようか」
セイゼルクさんの言葉従い、全員が料理の載ったテーブルを囲うように座る。
「どれにする?」
ラットルアさんが私を見る。
「えっと……そっちのサラダと隣の野菜とお肉の煮込み料理かな」
「分かった」
ラットルさんが、すぐに料理をお皿に分けて目の前に置いてくれる。
「ありがとう」
サラダを食べると、シャキシャキと音がして美味しい。
このカシム町は、本当にいい物が集まるな。
「準備は?」
セイゼルクさんがジナルさんを見る。
「装備の準備も料理も済んでいるから問題なし。予定通り出発出来るぞ」
「分かった。皆は、予定通りで問題は無いか?」
セイゼルクさんが、全員に確認を取っていく。
私も視線が合った時、しっかりと頷いた。
「分かった。変更なしでいいな」
食事が終わると、ジナルさんとセイゼルクさんが最終調整の為と、ロティスさんの下へ向かった。
「この村ともあと少しだね」
「そうだな」
なんだか、面白い村だったな。
冒険者が多いから問題を起こす人も多いけど、強くてかっこいい女性が多かった。
次に来る時は、もう少しゆっくりこの村を見て回りたいな。
今日から更新を再開します。
今年もどうぞ、よろしくお願いいたします。
ほのぼのる500




