856話 大容量とは?
ポーションをマジックバッグに入れて、一度立ち上がる。
腕を上に伸ばして、少し背を反らせる。
「う゛~」
腰が、つらい。
今までない大容量のマジックバッグを手に入れて喜んでいた。
でも今は、ちょっとだけ後悔している。
「お父さん、これはきついね」
大量に入るマジックバッグだから、そこに入れるポーションやマジックアイテムの量も増える。
そしてその作業をするのは、私とお父さん。
マジックバッグが大きくなっても、作業する人が増えるわけではない。
「まぁ、頑張るしかないな」
お父さんの言葉に、溜め息を吐く。
休憩している場合じゃないか。
「そうだね」
「にゃうん」
スライム姿のシエルが心配そうに私を見る。
「大丈夫だよ。まだまだ元気だから!」
シエルの頭を軽く撫でると、ポーションをマジックバッグに入れる作業に戻る。
「それにしても、本当によく食べるな」
捨て場に響く、消化をする音。
ずっと鳴り続けているんだけど、本当に大丈夫なんだろうか?
「お~い」
えっ?
慌てて捨て場の出入り口を見ると、ガガトさんが大きなカゴを持って手を振っていた。
「ガガトさんか。良かった」
「皆もいるみたいだな」
「うん」
ガガトさんと、その後ろに見えるセイゼルクさん達に手を振る。
「どうしたんだ? 今日は、ロティスに頼まれて仕事に行ってたのに」
そういえば、ロティスさんからの仕事で朝早くから宿を出て行っていたな。
もう終わったのかな?
「終わったから手伝いに来た。昨日大容量のマジックバッグの話をしていただろう? だから人手があった方がいいかと思ったんだ」
「ありがとう、助かる」
お父さんの言葉に、何度も頷く。
本当に、本当に助かる。
「アイビー、大丈夫か? 随分と疲れた表情をしているけど」
傍に来たラットルアさんが、心配そうに私を見る。
「大丈夫。ちょっと疲れているだけだから」
「そうか。えっと、このマジックバッグだな」
私の傍に置いてあった、マジックバッグを持ち上げる。
「はい。それにいっぱいです」
「このマジックバッグにいっぱいか。それなら、今すぐ取り掛かった方がよさそうだな」
「うん」
セイゼルクさん達が来てくれたため、凄い勢いでマジックバッグにポーションやマジックアイテム、剣が集められていく。
「これで最後」
2時間以上かかってようやく、大容量のマジックバッグ3個が一杯になった。
大きいと喜んでいたけど、やっぱり元の容量ぐらいがいいかも。
あっでもソルは、このマジックバッグを知ってかなり嬉しそうだったよね。
……頑張るしかないか。
「みんな、ありがとう。すっごく助かった」
セイゼルクさん達に、軽く頭を下げる。
「気にしなくていいって。ところでアイビー、この子達はちょっと体形が変わっていないか?」
ラットルアさんの視線の先には、間違いなく丸くなっているソラとフレム。
まさか本当に丸くなるなんて。
ただ、ソルだけは変わっていない。
一番に消化音が捨て場に響いていたと思ったんだけど……不思議だな。
「ソラとフレムは、ちょっと食べ過ぎたみたいだな」
お父さんが2匹を見て、小さく笑う。
「ぷ~!」
お父さんの態度が気に入らなかったのか、ソラが不満そうに鳴くので、ちょっと私も笑ってしまう。
「お疲れ、甘いもの食べて休憩しよう」
ガガトさんが指す方を見ると、休憩の準備が済んでいた。
「行こうか」
「うん」
皆で捨て場を出て、少し離れた場所に用意された椅子に座る。
「私達も一緒で良いんですか?」
ロアンさんが少し居づらそうに周りを見る。
「あぁ、もちろん」
セイゼルクさんの言葉に、ホッとした表情を見せるロアンさん。
「お~、これ!」
ドットさんの嬉しそうな声に視線を向けると、カゴの中から白いお菓子を取り出していた。
大きさは私の掌ぐらい?
「どうぞ」
ガガトさんが、私の前にカゴを持って来る。
「ありがとう」
カゴの中から1つ取る。
うわっ。
柔らかい。
「いただきます」
ふわっとした生地の中に、甘いクリーム。
「このお菓子、朝から並ばないと買えないんだよ」
ドットさんの言葉に、ガガトさんを見る。
「並んだのか?」
セイゼルクさんがガガトさんを見ると、彼は肩を竦めた。
「どうしてもアイビー達に食べて欲しくてさ。上手いだろ? 1日に決まった数しか作らないから、ちょっと手に入れるのが大変だけど、その価値はある」
確かに、美味しい。
しかも、このふわふわ感がたまらない。
「ぷっぷぷ~」
ソラの鳴き声に視線を向けると……本当に丸い。
少しすれば落ち着くのは分かっているけど、なんというか……転がしたくなるよね。
いや、駄目駄目。
「カシム町にいるテイマー達が連れているスライム達も個性的な子がいるけど、この子達に比べると普通だね」
ロアンさんの言葉に、ドットさんが頷く。
「あぁ。個性的だな。でも俺はそんな事より、あの子達の食べる量に驚いたけどな。見ろよ、マジックアイテムが置いてあった場所」
ドットさんが指した方を見ると、確かに不自然に空いている場所がある。
「それを言うなら、ポーションが置いてある場所も見て! 赤と青のポーションが1本も無いから!」
ロアンさんが指した場所には、確かに青と赤のポーションは無い。
全て、私が持つマジックバッグの中だ。
「そうだ、君に聞きたい事があったんだけど。いいかな?」
シファルさんが、ロアンさんを見る。
「はい、何でしょうか?」
「ロティスとは会ったら喧嘩になるんだよね? どうして?」
うわ~、シファルさんは直球だな。
私も気にはなっていたけど、聞けなかったんだよね。
家族間の問題だから。
「喧嘩……まぁ、喧嘩ですね」
ロアンさんの言葉に首を傾げる。
なんだか「喧嘩」と言われる事に納得していないみたい。
「でもあれは仕方ないんです! 私を認めさせるためなので!」
認めされる?
「私は、母の後継者になりたいんです。でも母が駄目だって」
ロティスさんの後継者?
つまり、防護団を引き継ぎたいという事かな?
でも防護団は、役目を終えたから解散させるはずなのでは?
「あっ、防護団では無いです。もう1つの方です」
もう1つの方。
言葉を濁したという事は、聞かない方がいいかな。
「自警団で功績を上げても、裏の仕事を成功させても認めてくれなくて。だから。母を倒したら認めてと言ってしまったんです」
「そうそう、あの時な」
ガガトさんが少し呆れた様子で話す。
そんな彼の態度に、ロアンさんが少し恥ずかしそうな表情をした。
「いいでしょ? 酒に酔っていたとしても、見届け人がいるちゃんとした約束よ!」
あぁ、お酒の場での約束なんだ。
でも見届け人がいるという事は、守らないと罰があるんだっけ?
「でも、母と戦って分かったわ。私はまだまだだって。でも近々勝つつもりだけどね」
その強気の発言と自信にあふれた表情に、ガガトさんがため息を吐く。
「何よ。私では、まだまだだって事?」
ロアンさんの言葉に、ガガトさんは首を横に振る。
「ロアンで問題ないと思うぞ。あとは、ロティスが覚悟するだけだ」
覚悟か。
ロティスさんって、何者なんだろう?




